小話
◎シュゼット、メイベル
◎シュゼット視点
最近大学内で模試があって、その監督を任された俺は、模試の問題作りやらなんやらと仕事に追われ、1週間程前からずっと、深夜1時や2時に一旦仕事を終え家へ帰り、また家で仕事をするという生活を繰り返していた。
そして今日も俺は相変わらず職員室に一人残り、試験問題作製に取り掛かっていた。
ふと時計を見てみると…
(もう1時過ぎか…)
最近メイベルに触る時間が極端に減って、イライラする。
このイライラをどうにか紛らわす為にタバコを1本引き出しから取り出し吸ってみるが、今度は問題作りに集中できなくて仕事がはかどらない。
(やっぱ俺あいつに依存してるなー…つーか欲求不満……)
ぐだぐだ考えているうちにも、時計の針はどんどん進んでいく。
「もー駄目だ、無理」
ギシ、と軋む背もたれにもたれかかって、咥えたタバコを灰皿へ押しつけた。
(今日は家に帰ってやろう…どうせあいつ寝てるし…顔見るだけでも少しは仕事進むだろう……と思う)
数日まともに触れてもいないメイベルを目の前にして、今日も理性を保てるだろうか。俺はぶつぶつ考えながら帰り支度を済ませ、職員室の電気をパチリと消した。
大学の中ではまだ学生が残って作業をしていたりするから、幾つか教室を回って夜中まで頑張る生徒に労いの言葉をかけてから俺は大学を出る。
大学からマンションまでは歩いて15分くらいだ。だがその間にもメイベルの顔が頭をよぎって、自然と歩くスピードが早くなる。
そういえば夕方から携帯を確認してなかった、携帯を開いてみると、新着メールが4件もきているではないか。送信者は…
(全部メイベルじゃん)
自然と口角が上がり、俺は急いでメールを開いた。
20:35
《今日も遅くなるのかな?テスト作り頑張ってね!》
22:16
《お風呂今出たよ、明日は学校お休みだから、シュゼットが帰るまで起きていれるかな?》
23:35
《おっきい雲がでたや!》
3番目のメールに俺は吹き出した。
「なんだよ雲って…焦り過ぎで語尾もおかしいし…寝ぼけてんのか?」
笑いながら最後のメールを開く
「……………ばーか…」
俺は携帯を閉じて、全速力で走った。
早くメイベルに会いたい。
0:00
《さびしい》
愛しくて、何も考えれなかった。
ただ顔が見たい。一分一秒でも早く、長く。
息を切らしてただ今家の前。もしメイベルが寝ていたらなんて二の次でガチャガチャと俺は乱暴に鍵を開けた。急いで靴を脱ぎ、廊下を進んで、ゆっくりと居間を覗いてみると…
「やっぱり寝てやがる…」
居間に置かれたソファの上で、薄い布団をかけ眠るメイベルを見つけた途端、何故だか急に力が抜けた。
規則的に上下する胸や、部屋に響く小さな呼吸音。薄く開いた唇。手には最近買ってやった厳ついぬいぐるみを大事そうに抱えていて、寝ているだけで普段の何倍も幼く見えるメイベルを、更に幼く見せる。
気付くと俺は、荷物を全て無造作に足元に置いて、メイベルの眠るソファのすぐ側に座り、メイベルの顔をじっと見つめていた。
(キスくらいいいよな…)
一度高ぶった熱はすぐに冷める筈もなく、未だじわじわと俺の身体を浸食していく。
メイベルの睫毛が俺の睫毛と触れ合い、吐き出す息が僅かに唇にかかった。
「…ん」
久しぶりの感触に鳥肌が立つ。
(やば…止まんね…)
「ふ…んぅ……」
メイベルが眉間に皺を寄せて苦しそうにみじろぐ。
(嗚呼、この可愛い生き物を一体どうしてやろうか)
俺はメイベルの上にのし掛かるように、片膝をメイベルの間に割って入れ、小さな顔を両手で包み込むように固定する。だけどメイベルはまだ起きない。
(もう無理矢理ヤって起こしてやろうか)
黒い思案が、唯一保っている糸のような理性をズブズブと侵してゆく。
「ん…んぅ……は…」
だんだんと激しくなっていくキスと熱に頭がくらくらした。そして俺の理性の糸がとうとう切れようとした時だった。
《プルルル…プルルル…》
俺の携帯が静寂を破壊するように、突然着信を告げて鳴り始めたのだ。
「チッ……くそ…」
舌打ちをしてしぶしぶ立ち上がり、携帯を確認する。
『非通知』
「ナメてんのかコイツ…」
良いところで邪魔された挙句に非通知とはいい度胸だ。とりあえず電源を切り、ふぅと息を吐いてメイベルの方を振り向く。
「すー…すー…」
「あれだけされてまだ寝れんのか…」
安眠。何事もなかったように幸せそうな顔で眠るメイベルを見て、一気にやる気が失せた。そのぶんまた愛しさが込み上げてくる。
俺はメイベルを起こさないようにソファに座り、頭を膝の上に乗せてやった。
柔らかい髪を撫でる。
「頑張って待っててくれたんだもんな…」
それにメールも…俺に気をつかって最近あまりメールをしてこなかったメイベルが、今日は4件もメールをくれたんだ。
「もう寂しい思いはさせねえから…」
そう呟いて、誓うように頬へ優しくキスをした。するとメイベルは少しみじろいで、何かもごもご言っているから、起こしたか?なんて心配してみたけれど。
「シュゼット…」
夢にまで俺を思ってくれてる事実に、少し泣きそうになる。ああ、好き過ぎて苦しい。
「メイベル…好きだ…」
心臓が意味のわからない気持ちで締め上げられる。好きなんだ。愛してるんだ。どうすればいい?どうすればこの感情を明確に伝えることができる?
「なぁ…メイベル…」
聞こえているのだろうか。夢の中でまで俺に殴られてはいないだろうか。
「……メイベル…」
起こしてしまうかもしれないが、我慢できなくて、眠るメイベルを引っ張りあげ抱き締めた。
コイツは今目の前に居るのに
体温は確かに温かいのに
「ん…シュゼット?」
「メイベル…」
とうとう起こしてしまったようで、メイベルは眠たそうに目を擦り、そして少し掠れた小さな声で囁いた。
「おかえりなさい」
嗚呼、もう、コイツしか要らない。
泣きそうな顔を隠すように、温かい体を抱き締めて
「ただいま」
俺は俺の愛すべき人に
伝えようのない愛を捧げた。
◎シュゼット視点
最近大学内で模試があって、その監督を任された俺は、模試の問題作りやらなんやらと仕事に追われ、1週間程前からずっと、深夜1時や2時に一旦仕事を終え家へ帰り、また家で仕事をするという生活を繰り返していた。
そして今日も俺は相変わらず職員室に一人残り、試験問題作製に取り掛かっていた。
ふと時計を見てみると…
(もう1時過ぎか…)
最近メイベルに触る時間が極端に減って、イライラする。
このイライラをどうにか紛らわす為にタバコを1本引き出しから取り出し吸ってみるが、今度は問題作りに集中できなくて仕事がはかどらない。
(やっぱ俺あいつに依存してるなー…つーか欲求不満……)
ぐだぐだ考えているうちにも、時計の針はどんどん進んでいく。
「もー駄目だ、無理」
ギシ、と軋む背もたれにもたれかかって、咥えたタバコを灰皿へ押しつけた。
(今日は家に帰ってやろう…どうせあいつ寝てるし…顔見るだけでも少しは仕事進むだろう……と思う)
数日まともに触れてもいないメイベルを目の前にして、今日も理性を保てるだろうか。俺はぶつぶつ考えながら帰り支度を済ませ、職員室の電気をパチリと消した。
大学の中ではまだ学生が残って作業をしていたりするから、幾つか教室を回って夜中まで頑張る生徒に労いの言葉をかけてから俺は大学を出る。
大学からマンションまでは歩いて15分くらいだ。だがその間にもメイベルの顔が頭をよぎって、自然と歩くスピードが早くなる。
そういえば夕方から携帯を確認してなかった、携帯を開いてみると、新着メールが4件もきているではないか。送信者は…
(全部メイベルじゃん)
自然と口角が上がり、俺は急いでメールを開いた。
20:35
《今日も遅くなるのかな?テスト作り頑張ってね!》
22:16
《お風呂今出たよ、明日は学校お休みだから、シュゼットが帰るまで起きていれるかな?》
23:35
《おっきい雲がでたや!》
3番目のメールに俺は吹き出した。
「なんだよ雲って…焦り過ぎで語尾もおかしいし…寝ぼけてんのか?」
笑いながら最後のメールを開く
「……………ばーか…」
俺は携帯を閉じて、全速力で走った。
早くメイベルに会いたい。
0:00
《さびしい》
愛しくて、何も考えれなかった。
ただ顔が見たい。一分一秒でも早く、長く。
息を切らしてただ今家の前。もしメイベルが寝ていたらなんて二の次でガチャガチャと俺は乱暴に鍵を開けた。急いで靴を脱ぎ、廊下を進んで、ゆっくりと居間を覗いてみると…
「やっぱり寝てやがる…」
居間に置かれたソファの上で、薄い布団をかけ眠るメイベルを見つけた途端、何故だか急に力が抜けた。
規則的に上下する胸や、部屋に響く小さな呼吸音。薄く開いた唇。手には最近買ってやった厳ついぬいぐるみを大事そうに抱えていて、寝ているだけで普段の何倍も幼く見えるメイベルを、更に幼く見せる。
気付くと俺は、荷物を全て無造作に足元に置いて、メイベルの眠るソファのすぐ側に座り、メイベルの顔をじっと見つめていた。
(キスくらいいいよな…)
一度高ぶった熱はすぐに冷める筈もなく、未だじわじわと俺の身体を浸食していく。
メイベルの睫毛が俺の睫毛と触れ合い、吐き出す息が僅かに唇にかかった。
「…ん」
久しぶりの感触に鳥肌が立つ。
(やば…止まんね…)
「ふ…んぅ……」
メイベルが眉間に皺を寄せて苦しそうにみじろぐ。
(嗚呼、この可愛い生き物を一体どうしてやろうか)
俺はメイベルの上にのし掛かるように、片膝をメイベルの間に割って入れ、小さな顔を両手で包み込むように固定する。だけどメイベルはまだ起きない。
(もう無理矢理ヤって起こしてやろうか)
黒い思案が、唯一保っている糸のような理性をズブズブと侵してゆく。
「ん…んぅ……は…」
だんだんと激しくなっていくキスと熱に頭がくらくらした。そして俺の理性の糸がとうとう切れようとした時だった。
《プルルル…プルルル…》
俺の携帯が静寂を破壊するように、突然着信を告げて鳴り始めたのだ。
「チッ……くそ…」
舌打ちをしてしぶしぶ立ち上がり、携帯を確認する。
『非通知』
「ナメてんのかコイツ…」
良いところで邪魔された挙句に非通知とはいい度胸だ。とりあえず電源を切り、ふぅと息を吐いてメイベルの方を振り向く。
「すー…すー…」
「あれだけされてまだ寝れんのか…」
安眠。何事もなかったように幸せそうな顔で眠るメイベルを見て、一気にやる気が失せた。そのぶんまた愛しさが込み上げてくる。
俺はメイベルを起こさないようにソファに座り、頭を膝の上に乗せてやった。
柔らかい髪を撫でる。
「頑張って待っててくれたんだもんな…」
それにメールも…俺に気をつかって最近あまりメールをしてこなかったメイベルが、今日は4件もメールをくれたんだ。
「もう寂しい思いはさせねえから…」
そう呟いて、誓うように頬へ優しくキスをした。するとメイベルは少しみじろいで、何かもごもご言っているから、起こしたか?なんて心配してみたけれど。
「シュゼット…」
夢にまで俺を思ってくれてる事実に、少し泣きそうになる。ああ、好き過ぎて苦しい。
「メイベル…好きだ…」
心臓が意味のわからない気持ちで締め上げられる。好きなんだ。愛してるんだ。どうすればいい?どうすればこの感情を明確に伝えることができる?
「なぁ…メイベル…」
聞こえているのだろうか。夢の中でまで俺に殴られてはいないだろうか。
「……メイベル…」
起こしてしまうかもしれないが、我慢できなくて、眠るメイベルを引っ張りあげ抱き締めた。
コイツは今目の前に居るのに
体温は確かに温かいのに
「ん…シュゼット?」
「メイベル…」
とうとう起こしてしまったようで、メイベルは眠たそうに目を擦り、そして少し掠れた小さな声で囁いた。
「おかえりなさい」
嗚呼、もう、コイツしか要らない。
泣きそうな顔を隠すように、温かい体を抱き締めて
「ただいま」
俺は俺の愛すべき人に
伝えようのない愛を捧げた。