小話

◎アイレン/灰鷹さん宅アマーロ君
◎アイレン視点


草も花もない、灰色のコンクリートの上をあるく。一絡げのあじさいが幾つも目にとまる。午後5時過ぎの空はところどころ雲が目立つが、依然として雨の気配はない。






力レットランプアバンチュール






「アイレン」

聞き慣れた声。驚いてふりむく。後ろにはアマーロさんがいた。もしかして俺を見つけて駆けてきたのだろうか。頬はわずかに上気し、息もあらい。予想だにしない官能的な見た目にどぎまぎしたが、なんとか平静を装った。

「アマーロさん、どうして」

「別に。目の前に居たから、声をかけただけ」

「そうですか。でも一緒に帰れてうれしいです」

「あ、そ」

アマーロさんはツンとそっぽを向く。とがった唇がかわいい。

「あ、」

「なんだ。喧しいやつだな」

「雨の」

「雨?」

いぶかしげに目を細めるアマーロさん。俺はすんすんと何度か鼻を鳴らし空を見る。あれ。真っ暗だぞ。

「雨のにおいがします」

言うが早いが、まぶたにぽちり。あまつぶひとつ。

「雨だ」

「夕立ですね。洗濯物が濡れちゃう」

「走っていれてこいよ」

「やですよ。アマーロさんと帰りたい」

「じゃあ俺が走る」

「すぐバテるくせに」

「ならおぶれよ」

「いいですよ?はい」

「…冗談だっての、ばーか」

ざあざあ。雨が全身を濡らす。
けろけろ。かえるが鳴いている。

俺とアマーロさんの横を、何度も何度も人が通り抜けていく。馬鹿みたい。どうせ濡れちゃうのに。せっかくなんだから、濡れて帰っちゃえばいいのに。

街のごみが、どこか知らない場所へ流れてきえる。俺も、アマーロさんさえ見たことのない景色のなかに、まざって溶けていく。

「あ、もう雨、あがりましたよ」

「通り雨だったなあ」

遥か先の雲間から陽が注して街を照らしていった。きらきら輝くビルの窓ガラスや壁面。みずたまりに浮く、逃げ遅れたごみ達。

「アマーロさん、濡れた土のにおいがします」

「土なんかないのに。お前鼻がおかしいのかもしれないな」

「そうですか?じゃあ今度耳鼻科で診てもらってきますね」

「ついてってやろうか」

「やった。うれしい!」


























(力レットランプアバンチュール)

毒のある世界で僕たちは
きらきらひかる夢をみた



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