小話

◎はとり/ウルニ
◎はとり視点



「三日も猶予与えてやったっていうのに、貸した金の半分も集めてこれてねえ?」

受話器から蚊の鳴くような声が聞こえる。一瞬で頭に血がのぼり、苛立ちでわなわなと震えた拳が目の前にある自分の分の昼飯を躊躇なく破壊した。事務所のソファに座り、ウルニがコンビニで買ってきた冷製パスタをすすりながら、けだる気にこちらへと目線をよこす。

「も~やめてくださいよ社長~。お昼ご飯代なしにしても買いに行くの私なんですからね」

「黙ってろクソアマ!!…おい、今からそっち行くからな!!逃げようなんて思うなよ、内臓でもなんでも売れる場所紹介してやるから、きっちり耳揃えて返しやがれ!!」

がちゃん!!
力任せに受話器をたたき付け、怒りが冷める間もなくコートをはおる。そしてすぐそばにあったくずかごを思い切り蹴飛ばし、きゃんきゃん喚くウルニに「俺が戻ってくるまでに同じ昼飯買っておけ」と告げながら古びたビルを後にした。






フィナンシャルレッスン






「ったく…どいつもこいつも世の中甘くみやがって…クズばかりで吐き気がする…」

何年も前から使いつづけてボロボロのカローラに乗り、エンジンをかける。ぶおぶおとやかましい排気音が冷えきった外気を舐めながら車内をゆっくりと暖める。6枚の窓ガラスにはすべて遮光テープがされ、車内を覗くことはできない。
片手でハンドルをきり、俺はとある人物に電話をかける。数秒の間をおき、電話の相手が受話器をとった。

「おい、このあと男をひとりそっちに連れていくから準備しとけ。やせ細って栄養失調寸前だから高値じゃ売れやしねえと思うが、まあそこは馴染みってことでサービスしてくれや」

受話器越しの相手が呆れたような声で笑い、一言二言交わしてから俺は電話をきった。そしてサングラスをかけ、アクセルを思い切り右足で踏み込んだ。






「おーい、居るんだろー?さっさと開けてくんねぇかなあ?寒くて死んじまう」

街の端にひっそり建つボロボロのアパート。その扉の前で俺はたばこをふかした。冷たい風が首を撫で、寒さでいらいらする。金を貸してやった神のような人間を、よくこんな寒空の中放置できるな。

「あと5秒以内にこのドア開けねえと、テメェの身内や会社の人間に片っ端から金徴収すんぞー?ああ…嫁とガキは今実家だろ?あいつらを売りに出すって手もあるが…」

バン!!!

最後の一言が効いたのか、乱暴に目の前の扉が開いた。怒りか情けなさか、様々な感情がごちゃまぜになった顔の男が、肩で息をきらせ声をあげる。

「ゃ…ヤクザ!!悪魔!!お前の会社は複利が異常だ!返しても返しても増えていきやがる……こんなの、詐欺…そうだ詐欺だ!!!う…訴えてやる!!」

頭に血が昇り目の前の男を殺しそうになったが、殺してしまってはこちらが損をする。冷静に。冷静に。
俺は懐から借用書を取り出した。そこには、貸し付けにおける説明が細々とされていた。その一番下、男のサインの真下を俺は指差す。

「テメェは老眼かなんかなのか?よおく見てみな。利子は"トゴ"だってここにちゃんと書いてあんだろうが」

この借用書は破られてもいいようにコピーなので、一気に青ざめた男に紙を手渡す。

「テメェはうちの会社に××万。正確には×万××円借りたが、借りた××万は一年で約××××万。先週までにテメェが払った金は××万だから…残り××××万」

どんどん青ざめていく男の顔は愉快だったが、さっきから首元が寒くて集中できない。そうして最後に懐から、まっさらな紙を2枚とりだしつきつけた。

「俺の知り合いの金貸しを紹介してやるよ。なんたってうちとは違って金額に上限がねえんだからなあ。」

「ぁ……あ………」

「もし金貸しを頼るのが嫌だってんなら、臓器や部位を買ってくれる店を紹介してやる。まあそんな枝みてぇな体じゃ、貰える額なんざたかが知れてると思うが」

男は糸が切れたように地面へと膝をつき、放心した。俺はそれを黙ってみおろす。あくびをひとつ。

風が冷たい。

「世の中そんなに甘くねぇんだよ」



























(フィナンシャルレッスン)

「地獄の沙汰も金次第」
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