小話
◎百鬼
◎百鬼過去
◎微グロ注意
◎「産まなきゃよかった」続き
世の中なんでも、与えられる人間はたいていクズだ。求めればいつかはソレが手に入ると信じて疑わない馬鹿ばかり。
昔の俺のように。
欲しいと言ってよ
幼なかった俺は母の愛情だけを貪欲に求め、結果自分を見失い彼女自身も失った。生きる事が苦痛で、なんの意味もないよう思える毎日。そうしてそんな繰り返しのまんなかで、俺はとうとう大人になった。
フラフラ歩き回っては適当な賭場にはいり、その日生きれるだけの金を稼いではまた街中をフラフラ歩き回る。母を殺して何年も経つが、いまだに俺の心はカラカラに干からびたままだった。あの男の首を刎ねた時のような快感はみつからない。それに、東区や西区みたいな"ほどほど"を知っている人間相手に得る勝利など、砂漠にスポイトで水を一滴たらすようなもの。勝っても負けても同じ事である。
それなら、と思った。南区みたいに年中枯渇している奴ら相手に勝負して勝ったほうが楽しいんじゃないか。川を眺めて考える。
(求められたい)
口に出せばすべて失いそうで、俺は吐きかけた言葉を、冷えた空気と一緒にゆっくりと飲み込んだ。
その日の夜に、南区の賭場へ出かけた。適当に入った店は、南区に流れる大きな川に分断された西側の路地の奥まった辺りに建っていて、ひとけもなくどこか湿っぽい。横開きのドアはたてつけが悪いのかなかなか開かずにガタガタうるさかった。のれんをくぐり中に入る。
「いらっしゃい。おっと随分と可愛らしいお客さんじゃねえか」
二十歳の男に可愛らしいもくそもあるか。下品に笑うタヌキのような店主を俺は睨む。店内はとてもせまかった。十畳もないそこにはちいさなひな壇があって、タヌキのような店主はそこにあぐらをかき、ニタニタ笑っている。その周囲で四人、身なりのいい男共が花札をしていた。四人のうちのひとりが俺に気づき、店主と同じような笑みでこちらに歩み寄ってくる。
「なああんた俺と勝負しないか?」
「…………」
「大丈夫手加減してやるから。有り金全部賭けるぜ」
「…………」
手加減?笑わせるな、俺は誰にも負けない。だって俺は―、
冷たい床にゆっくり座る。差し向かうよう男も座る。花札はポーカーやブラックジャックより得意なんだ、馬鹿にしてもらっちゃ困る。ほらみろ、もう勝敗は決まったようなもの!歪む顔、震える手、内心がよぉく見える。快感だった。
思った通り勝負はアッサリと終わりを迎えた。むろん俺の圧勝だ。宣言通り「有り金全部だせよ」と立ち上がって男を見る。青ざめたその顔は刎ねたあいつのモノとそっくり。空涙(そらなみだ)を流し男は俺の脚に取り縋る。
「わ…悪かった!この金が無くちゃ俺は生きていけないんだよぉ…だから、だから今回だけは見逃してくれっ!お願いだから!」
ぞくぞく、した。
ああ。こいつは、クズだ。
自分にひたすら許しを請う男を見ていると、心の中がどんどん潤ってくる感覚に堪えれず息が荒くなる。生きている意味を痛いほど感じて、指先が震えた。
「じゃあ」
「許してくれるのか!?」
「もう一度勝負して、俺に勝ったら許してやるよ。でも負けたら、お前の一番大切なモノをもらうからな」
「一番大切なモノ…?ま、まあいい、次は絶対に負けないからな!」
「……ああ」
つりあがった口端がもとに戻らない。片手に持った刀が汗でぬるぬるした。
しかし、意気込んだ男にとっちゃ残念だったが、二度目の勝負も俺が勝利を掴んだ。心臓が痛い。激しく高ぶる思考がアラートを直接脳みそへとたたきつける。ああ、枯れきった砂漠に泉がわいた!
「許し、」
「なにを?」
鞘から抜いた刀をひとふり。
きれいに斬れた首からは、懐かしいな、とめどなく溢れ出る血液。俺は笑った。最高だった。男の命を、確かにあの時俺は握っていたんだ。そしてそれを生かす事も殺す事もできた。決定権はいつだって人の上に立つ勝者にしかないんだから。
主導権を奪い、誰かの上に立つ事がこれほど快感だとは思わなかった。いまだおさまらない体の熱。俺を罵倒し店から追い出そうとした店主も、残りの客も、全員殺した。
「見物客風情が俺の勝負に口をだすな」
店には5つの死体ができあがり、鉄の匂いが室内に一気に充満する。
ああそうだ。俺は与えられる側の人間なんかじゃない。"与えてやる側の人間"だったんだ。クズは与えられるのをただひたすら待つだけの者。じゃあ俺が奴らを救済してやろうじゃないか。与えてやる者はいつだって、求める者に手を差し延べてやらなくちゃいけない。クズはクズほど生きる価値がある、生きる意思がある。俺はそういうクズのために、これからも生きてやろう。
脂だらけの死体は専門の業者に処理させた。誰もいなくなったちいさな店。ここが俺の、新しい世界。
そしてしばらくして俺は、店にもとからあった金を軍資金にちいさな賭場を開いた。名前は『浜千鳥』。南区に生きる浪浪(ろうろう)共は、小さく無様な千鳥に似ていた。俺が奴らの最後の希望だとすれば、この賭場は浜と言えなくもない。
はじめ店に来るのは、ただの弱いギャンブラーばかりだった。俺はクズ以外と勝負する気など一切なく、クズでもない人間がこの店の敷居を跨ぐ事すら不快で、たいていすぐに首を刎ねた。
そのうち生きる事で精一杯のクズが店にやって来るようになり、わざと負けて金を渡しそいつらの口伝いに噂が噂を呼んで、浜千鳥は『クズの最後の希望』としてようやく完成を迎えた。
それに、店に金を落とすキチガイな富豪もよく来るようになった。見物料として多額の金を払い、俺とクズの勝負を楽しむ。金持ちの考える事はよくわからなかったが、俺はクズに求められ、それに応えてやれれば満足だった。
だんだんと南区でも頭角を現しはじめた俺に恐れを感じ、警団達が押し入って来た時もある。あれは愉快だった。丁度俺との勝負に負けた女の首を刎ねたところで、先頭の警団員が中に入ってきたため、血飛沫(ちしぶき)が彼らにかかり怯(ひる)んだ。
「ぐ…お前が店主の百鬼か!」
「俺以外に誰がいるんだ?」
クツクツ、マヌケなその姿がおかしくて笑みがこぼれる。
「大量の殺人によりお前に逮捕状がでた!大人しく捕ま…」
「大量の、殺人?」
俺はゆっくり立ち上がった。
警団員達が合わせて少し後ずさる。
「俺は、殺人なんか、してない」
「今だって彼女を殺したじゃないか!」
「俺はあの女との勝負に勝った。そして選択権を得ただけだ。」
「選択権?なにを言って…」
「クズには生きる価値がない。けど、俺の元に来れば、クズには生きる価値が生まれる。俺はクズに求められそれに応えてやった」
「…………」
「クズ共がいくら求めても手に入らなかったモノを俺はたくさんもっている。それを与えてやるかわりに命を賭けさせただけ。貪欲に求めるクズこそ欲すれば誰より与えられるべきだ。そうだろ?」
完全にキチガイを見る目。
鞘から刀身を抜き去り、鞘を床に放る。
「勝負はいつだって公平じゃないといけない。クズの上に立ち続ける勝者は、生かす権利も殺す権利も正しく選択してやらなきゃいけない」
「いい加減にしろ!!」
血の気の引いた先頭の警団員が銃をホルスターから抜いたので、躊躇なく腕を斬り落とした。警団員は血を吹き出しのたうちまわる。
「お前らみたいに与えられる事を当たり前としか思わず、ただ待つだけの敗者は死んで然(しか)るべきだ」
次々俺の方へ向けられる銃口。気持ちいいくらいアッサリ刎ね飛ぶ首や手足。
「敗者が勝者のまね事をしたがるのはいつだって滑稽意外のなにものでもない」
最後のひとりが後ろを向いて逃げだそうとしたので、心臓にむけて刃先でひと突きした。そいつは血を吹き床に倒れる。
「ただ、そうだな…」
浅黒い液体で汚れたまま、死体しかない店内に座ってキセルをふかす。死体は死んでるから、素直になれるんだ。
「ひたすら俺だけを求めてくるクズ達を、愛しいとも、思うよ」
俺はこうして、警団すら手のだせない、南区の脅威になった。
(欲しいと言ってよ)
俺はいつでもひとりぽっちで、
◎百鬼過去
◎微グロ注意
◎「産まなきゃよかった」続き
世の中なんでも、与えられる人間はたいていクズだ。求めればいつかはソレが手に入ると信じて疑わない馬鹿ばかり。
昔の俺のように。
欲しいと言ってよ
幼なかった俺は母の愛情だけを貪欲に求め、結果自分を見失い彼女自身も失った。生きる事が苦痛で、なんの意味もないよう思える毎日。そうしてそんな繰り返しのまんなかで、俺はとうとう大人になった。
フラフラ歩き回っては適当な賭場にはいり、その日生きれるだけの金を稼いではまた街中をフラフラ歩き回る。母を殺して何年も経つが、いまだに俺の心はカラカラに干からびたままだった。あの男の首を刎ねた時のような快感はみつからない。それに、東区や西区みたいな"ほどほど"を知っている人間相手に得る勝利など、砂漠にスポイトで水を一滴たらすようなもの。勝っても負けても同じ事である。
それなら、と思った。南区みたいに年中枯渇している奴ら相手に勝負して勝ったほうが楽しいんじゃないか。川を眺めて考える。
(求められたい)
口に出せばすべて失いそうで、俺は吐きかけた言葉を、冷えた空気と一緒にゆっくりと飲み込んだ。
その日の夜に、南区の賭場へ出かけた。適当に入った店は、南区に流れる大きな川に分断された西側の路地の奥まった辺りに建っていて、ひとけもなくどこか湿っぽい。横開きのドアはたてつけが悪いのかなかなか開かずにガタガタうるさかった。のれんをくぐり中に入る。
「いらっしゃい。おっと随分と可愛らしいお客さんじゃねえか」
二十歳の男に可愛らしいもくそもあるか。下品に笑うタヌキのような店主を俺は睨む。店内はとてもせまかった。十畳もないそこにはちいさなひな壇があって、タヌキのような店主はそこにあぐらをかき、ニタニタ笑っている。その周囲で四人、身なりのいい男共が花札をしていた。四人のうちのひとりが俺に気づき、店主と同じような笑みでこちらに歩み寄ってくる。
「なああんた俺と勝負しないか?」
「…………」
「大丈夫手加減してやるから。有り金全部賭けるぜ」
「…………」
手加減?笑わせるな、俺は誰にも負けない。だって俺は―、
冷たい床にゆっくり座る。差し向かうよう男も座る。花札はポーカーやブラックジャックより得意なんだ、馬鹿にしてもらっちゃ困る。ほらみろ、もう勝敗は決まったようなもの!歪む顔、震える手、内心がよぉく見える。快感だった。
思った通り勝負はアッサリと終わりを迎えた。むろん俺の圧勝だ。宣言通り「有り金全部だせよ」と立ち上がって男を見る。青ざめたその顔は刎ねたあいつのモノとそっくり。空涙(そらなみだ)を流し男は俺の脚に取り縋る。
「わ…悪かった!この金が無くちゃ俺は生きていけないんだよぉ…だから、だから今回だけは見逃してくれっ!お願いだから!」
ぞくぞく、した。
ああ。こいつは、クズだ。
自分にひたすら許しを請う男を見ていると、心の中がどんどん潤ってくる感覚に堪えれず息が荒くなる。生きている意味を痛いほど感じて、指先が震えた。
「じゃあ」
「許してくれるのか!?」
「もう一度勝負して、俺に勝ったら許してやるよ。でも負けたら、お前の一番大切なモノをもらうからな」
「一番大切なモノ…?ま、まあいい、次は絶対に負けないからな!」
「……ああ」
つりあがった口端がもとに戻らない。片手に持った刀が汗でぬるぬるした。
しかし、意気込んだ男にとっちゃ残念だったが、二度目の勝負も俺が勝利を掴んだ。心臓が痛い。激しく高ぶる思考がアラートを直接脳みそへとたたきつける。ああ、枯れきった砂漠に泉がわいた!
「許し、」
「なにを?」
鞘から抜いた刀をひとふり。
きれいに斬れた首からは、懐かしいな、とめどなく溢れ出る血液。俺は笑った。最高だった。男の命を、確かにあの時俺は握っていたんだ。そしてそれを生かす事も殺す事もできた。決定権はいつだって人の上に立つ勝者にしかないんだから。
主導権を奪い、誰かの上に立つ事がこれほど快感だとは思わなかった。いまだおさまらない体の熱。俺を罵倒し店から追い出そうとした店主も、残りの客も、全員殺した。
「見物客風情が俺の勝負に口をだすな」
店には5つの死体ができあがり、鉄の匂いが室内に一気に充満する。
ああそうだ。俺は与えられる側の人間なんかじゃない。"与えてやる側の人間"だったんだ。クズは与えられるのをただひたすら待つだけの者。じゃあ俺が奴らを救済してやろうじゃないか。与えてやる者はいつだって、求める者に手を差し延べてやらなくちゃいけない。クズはクズほど生きる価値がある、生きる意思がある。俺はそういうクズのために、これからも生きてやろう。
脂だらけの死体は専門の業者に処理させた。誰もいなくなったちいさな店。ここが俺の、新しい世界。
そしてしばらくして俺は、店にもとからあった金を軍資金にちいさな賭場を開いた。名前は『浜千鳥』。南区に生きる浪浪(ろうろう)共は、小さく無様な千鳥に似ていた。俺が奴らの最後の希望だとすれば、この賭場は浜と言えなくもない。
はじめ店に来るのは、ただの弱いギャンブラーばかりだった。俺はクズ以外と勝負する気など一切なく、クズでもない人間がこの店の敷居を跨ぐ事すら不快で、たいていすぐに首を刎ねた。
そのうち生きる事で精一杯のクズが店にやって来るようになり、わざと負けて金を渡しそいつらの口伝いに噂が噂を呼んで、浜千鳥は『クズの最後の希望』としてようやく完成を迎えた。
それに、店に金を落とすキチガイな富豪もよく来るようになった。見物料として多額の金を払い、俺とクズの勝負を楽しむ。金持ちの考える事はよくわからなかったが、俺はクズに求められ、それに応えてやれれば満足だった。
だんだんと南区でも頭角を現しはじめた俺に恐れを感じ、警団達が押し入って来た時もある。あれは愉快だった。丁度俺との勝負に負けた女の首を刎ねたところで、先頭の警団員が中に入ってきたため、血飛沫(ちしぶき)が彼らにかかり怯(ひる)んだ。
「ぐ…お前が店主の百鬼か!」
「俺以外に誰がいるんだ?」
クツクツ、マヌケなその姿がおかしくて笑みがこぼれる。
「大量の殺人によりお前に逮捕状がでた!大人しく捕ま…」
「大量の、殺人?」
俺はゆっくり立ち上がった。
警団員達が合わせて少し後ずさる。
「俺は、殺人なんか、してない」
「今だって彼女を殺したじゃないか!」
「俺はあの女との勝負に勝った。そして選択権を得ただけだ。」
「選択権?なにを言って…」
「クズには生きる価値がない。けど、俺の元に来れば、クズには生きる価値が生まれる。俺はクズに求められそれに応えてやった」
「…………」
「クズ共がいくら求めても手に入らなかったモノを俺はたくさんもっている。それを与えてやるかわりに命を賭けさせただけ。貪欲に求めるクズこそ欲すれば誰より与えられるべきだ。そうだろ?」
完全にキチガイを見る目。
鞘から刀身を抜き去り、鞘を床に放る。
「勝負はいつだって公平じゃないといけない。クズの上に立ち続ける勝者は、生かす権利も殺す権利も正しく選択してやらなきゃいけない」
「いい加減にしろ!!」
血の気の引いた先頭の警団員が銃をホルスターから抜いたので、躊躇なく腕を斬り落とした。警団員は血を吹き出しのたうちまわる。
「お前らみたいに与えられる事を当たり前としか思わず、ただ待つだけの敗者は死んで然(しか)るべきだ」
次々俺の方へ向けられる銃口。気持ちいいくらいアッサリ刎ね飛ぶ首や手足。
「敗者が勝者のまね事をしたがるのはいつだって滑稽意外のなにものでもない」
最後のひとりが後ろを向いて逃げだそうとしたので、心臓にむけて刃先でひと突きした。そいつは血を吹き床に倒れる。
「ただ、そうだな…」
浅黒い液体で汚れたまま、死体しかない店内に座ってキセルをふかす。死体は死んでるから、素直になれるんだ。
「ひたすら俺だけを求めてくるクズ達を、愛しいとも、思うよ」
俺はこうして、警団すら手のだせない、南区の脅威になった。
(欲しいと言ってよ)
俺はいつでもひとりぽっちで、