小話

◎トカゲキス/アルゴール
◎トカゲキス視点
◎トカゲキス過去
◎ポラロイドにボクを閉じこめての続き



セネシオが政府に依代として選ばれ、裏街に新たな創造主が誕生日した悪夢のような年から3年の月日が経った。俺は22歳になり、その年の春、北区の警団試験に参加し無事合格した。


俺の復讐は楽園を潰すまで終わらない。


そのためには、楽園と最も深い繋がりを持つ北区警団にはいる必要があった。上層部にいくほど楽園出身者が増え、転生について肯定的な人間が目立つが、後々一掃する予定だから今は気にしない。
俺は知っている。裏街の秩序をきちんとバランス良く正し、目立たない場所で必要ないモノを排除するのはいつだって、"No.1"じゃなく"No.2"だという事を。

トップに立つ人間は、光が当たりすぎていささか目立つ。自分達の安全を守るシンボルとして、住民はトップの顔をよく覚えているものだ。
警団を裏で操っている楽園の政治家達が最も必要としている事とは、実のところNo.1のできないコトばかりで、No.1の影で政治家達の無言の要望をサッサと満たしてやれば、あっという間にトップになれるはずだった。

なぁに、
俺の得意分野じゃねえか。

愛想は振り撒かなくていい。
自分を騙して地位を奪え。
上にあがればあがる程、耳にはいる情報は信憑性を増し、その数を増やしてゆく。

今俺が欲しいのは『セネシオ選考に関わったすべての人間の情報』と『狂信的な転生支持者の情報』。このふたつだけ。






嘘つきイビティー






上層の地位を恐ろしい早さで喰い荒らしはじめて1年と6ヶ月。実質警団No.2の『総監』として、北区に腰を落ち着けた俺は、ようやく楽園に関わる様々な情報や決定権を持てるようになった。
誰が支持者かはまだわからないが、長官のエリオットには知らされない、警団に多額の金を寄附している政治家や、脱税に関わるような人間についての書類を、俺は毎日椅子に座りみやる。
その中で『楽園側の門番』として一人別紙にリストアップされている人間が目についた。

(こいつを買収しておけば、情報収集が楽になるかもしれないな)

長官以下第三位までは北区から楽園を許可無しに行き来する事ができるので、俺は門を通り、早速アルゴールという男に会いに行った。



長く続く薄暗いトンネル。
セネシオはどんな心持ちでこのトンネルを通ったのだろう。薬か何か打たれて、気を失っていた可能性もあるが。拘束されたセネシオの姿を思い浮かべると、胃の辺りが無性に熱くなり、ぎゅうとひねり潰されるような感じがした。

「出口か」

10メートル程先に、仄白くぽっかりと発光した門が見える。嗅いだ事のない花の香りが薄くただよう。

カチャカチャカチャカチャ

腰に提げた2丁の銃同士がぶつかり、硬質な音を断続的にたてた。

(何を急いでるんだ、俺は)

一度門前で立ち止まり息を吐く。知らぬ間に上がっていた呼吸を何度かととのえる。
そうして平然を取り戻した俺は、重い靴を小さく鳴らし、門の先の生温い空気へ体をねじ込んだ。

「……総監?」

ハッとしてすぐ、声のした方に顔を向ける。
声の主は、書類で見たアルゴール本人だった。こっちを見上げるその顔立ちは、写真よりどこか柔らかく幼い。確か同い年だった気がするが、明らかに俺とコイツが隣り合わせに並べば、100人中100人が俺の方を年上と言いそうだった。

「なんて失礼な人」

思うやいなや、発した言葉とは違い、ふわりと笑みを浮かべたアルゴールが立ち上がり首を傾げた。銀色に跳ねた毛先が、頭の動きに合わせてユラユラ揺れる。

「総監は俺を必要としてるね。それも、酷く酷く。自分じゃ気づかないくらいに」

セネシオの前以外では滅多に素直な感情を顔に出さない俺だったが、さすがに目を見開き押し黙る。

「お前…人の考えが、読めるのか」

アルゴールは笑ったまま頷いた。左耳のピアスがキラリと光る。払拭しかけた疑惑の芽が花を咲かせて、俺を包みこんだ。

「わあ凄い、総監って自分の中身をコントロールするのがとても上手いんだ。もう霞みがかってあんまりハッキリ読み取れないもの」

「勝手に思考を読まれるのは、えらく不快だからな」

「知ってる。でも安心してよ、俺は支持者じゃない」

「……どこまで読んだ」

「だいたい全部見えちゃったかなあ」

俺はその言葉を聞いて、安堵した。そして安堵した自分に驚愕し冷や汗が吹き出た。

なぜ安堵なんかしたんだ!!
他人にさらりと順応して、決して自分の中身を見せないよう気を張ってきたのに。中身を知られる事が一番恐ろしかったのに。

立ち尽くしたままぐるぐる考えていると、アルゴールがくすくす笑った。そういえば人の心が読めるんだったな、コイツは。

「何がおかしいんだ」

「見た目に反して、総監って意外と臆病なんだなあって思ったら、おかしくておかしくて」

「俺が?臆病?」

「だってほら、自分の過去や気持ちや決意、なにもかも俺に見透かされた時、ホッとしたじゃない」

「あれは、違う、」

「動揺してるね、考えがまる見えだよ」

「…………………」

いつの間にかアルゴールのペースに呑まれて、自分にとって正しい判断ができずにいた。それがおかしくて俺も笑う。

「生きていく中で、たったひとりぼっちって堪えられないよ、総監。心はいつだって正直だ。ひとりでも自分の過去や企みを知る相手ができた事に、総監の心は安心したんだろうね」

陽に照らされた銀髪が、キラキラと輝いている。俺の髪には到底だせない、まぶしいひかり。

「初対面なのにごめんなさい。普通の人は俺の事すごく気持ち悪がるんだけど、総監はなんだか違ってみえたから…」

「いや、俺にとっちゃお前の能力は天からの恵だ」

「そんな事言ってもらえるなんておもわなかった」

「じゃあ聞くが」

「うん」

「イエスかノー、どっちだ」

目の前の男は少し思案するフリ。答が決まっている事は明らかだった。






























(嘘つきイビティー)

いえす。
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