小話

◎アイレン/灰鷹さん宅アマーロ君
◎アイレン視点
◎(性的)エロ注意



12月上旬、町の空気は雪が降りそうなほど冷たい。
しかし第2都市や第3都市と比べると、すこしは暖かいのだろうと思う。建物の外に必ず1つは設置されてある室外機から、生温い風が吹きつけている様子を、俺はもやもや想像した。

一枚しかない一人用のせんべい布団にもぐりながら、寝起きのまどろみをもぐもぐかみ砕きあくびをひとつ。はみ出た体をひんやりとした空気が包み、ぞわりと鳥肌が立った。
こうしてみると、暖房機具がこたつしか無い我が家でも、冷風うずまく外気とたいして差は無いように思える。

しばらくぼうっと天井を眺めていたが、俺は頭のすぐ右側に置かれた目覚まし時計に視線を移して(既に昼前だった)、そろそろ起きようかなと布団の中で小さく伸びをした。

すると、俺の分の布団までしっかり巻き取りこちらへぴったりくっついたまま、貪欲に暖をむさぼっていたアマーロさんが、もぞもぞ身じろいだ。
そっとその小さな頭から腕を抜き、何度か優しく髪を撫でる。長いまつげを伏せたまま無防備に寝息をたてるアマーロさん。すこしだけ幸せな気持ちになった。
いつものように一晩中腕の中へアマーロさんを抱き込んでいたせいか、下敷きにされて血流が完全にストップしていた腕に血が流れはじめビリビリと痺れる。

そうして布団から出てみると、案の定ぬくまった体から体温を奪おうと冷えた空気が肌に纏わりつき、あらゆる場所をグサグサ突き刺しはじめた。

「さささささぶい……」

歯がガチガチ鳴る。俺はすぐ、壁にかけておいた小豆色のちゃんちゃんこに腕を通して、部屋の隅に脱ぎ捨てられたままの五本指ソックスをはいた。とりあえずこたつの電源もつけて、

《…ゃ…………アン……》

《………ろ…………な》

俺は、こたつの電源スイッチを入れて立ち上がった瞬間、聞こえてきた物音にドキリとした。
スプリングの微(かす)かに軋む音と、男女のリズミカルな声。時折女は、鼻にかかったような何とも言えない甲高い声をあげる。

完全に"アレ"だ。

ここはカジノ街屈指のボロアパート。当たり前だが壁は薄く、『音』に関してはプライベートもへったくれも無い。

尚も激しさを増す二人の声に頬が熱くなるのを感じながら俺は、アマーロさんのせっかくの睡眠が雑音に疎外されないよう、布団からひょこりと飛び出たその頭にそっと座布団を乗せた。

(顔洗いに行くか…)

火照る頬に手の甲を押し当て歩みを進める。ご飯ができる頃にはアマーロさんも起きている事だろう。隣の部屋からはもう、二人の卑猥な声は聞こえなくなっていた。






君の唇にキスを、





ジュウジュウ。パチパチ。
ふたりにとっては既に定番となっている目玉焼きが焼ける音。もうすぐできるかなと蓋を開けた瞬間、フライパンの中で油が爆ぜて頬に飛び、俺は「ぐあっ!」と叫んで床へ尻をしたたかに打ちつけてしまった。アマーロさんはその衝撃で目が覚めてしまったらしく、布団から上半身だけ起こしてぼーっとしている。
ボサボサの髪を手櫛でととのえながらあくびをひとつ。窓から洩れる陽のひかりが、赤と黒に艶めくアマーロさんの髪をキラキラと照らした。

「あ、アマーロさんおはよう」

フライ返しを右手に持ったまま、尻餅をついた勢いでゴロリと床に寝転びアマーロさんに挨拶。
さかさまになったアマーロさんは訝し気な顔で「おはよ」と返す。

「朝ごはん…じゃないや、昼ごはんもうできますから待っててくださいね」

「…ん。なあアイレン」

「なんですか?」

「ひとつ聞きたいんだが、なんで俺の頭に座布団乗っかってたんだ」

「……ね…寝ぼけて自分で乗せたんじゃないですか?あっ目玉焼きがこげる!」

イカサマ以外で嘘をつくのは得意じゃない。けど、なんとか怪しまれないようになるべく笑顔のままそう答えてみせた。ジュウジュウと卵を焼くコンロに向かい「えいや!」っと体を起こす。

アマーロさんは腑に落ちないようだったが、とくに追求せず洗面所に向かった。
そのあとすぐに目玉焼きができたので、皿にもりつけてこたつ机の上に並べる。アマーロさんが帰ってくるまで暇だったから、この前買ったマニキュアに色別のビニールテープを貼った。
しばらくしてアマーロさんが戻って来たので、マニキュアの小瓶を机の上から片す。アマーロさんは俺の向かって右側の隙間からこたつに脚をすべりこませた。
しかしこたつに入ってしばらくしても、アマーロさんはガタガタ震えている。スエット一枚しか身につけていないせいだ。
アマーロさんの分のちゃんちゃんこは部屋の隅の壁にかけられていて、取るには立ち上がらなければならない。

「アマーロさん、ちゃんちゃんこは?」

「取るのが面倒臭いし寒い」

「じゃあこれ」

仕方ないと、物ぐさな恋人へ、自分の着ていたちゃんちゃんこを渡す。俺が着ていたから暖かいと思う。アマーロさんは無言でそれに腕を通し、ありがとうと笑った。

「じゃあ、いただきます」

「いただきます」

ああそうか、なんだかさっきから胸中が軽いと思った。今日はバイトが無い。



ご飯を食べ終わり食器も洗い終わった。今日はずっとアマーロさんとふたりきり!真昼間から月が浮かび朝になるまで誰も邪魔してこないなんて!
きゃっきゃとはしゃぎ回る俺を、アマーロさんは満腹感とこたつの温もりのせいで、若干うとうとしながら見ていた。

「アマーロさんアマーロさん」

「んー…?」

「何したいですか?どこか出かけたい所とか無いですか?」

「べつに、ない……」

「じゃあ今日はずっと家に居ましょうか。撮り溜めしてたビデオもある事だし…」

「んー…」

座布団を半分に折り枕代わりにして横になって今にも寝てしまいそうなアマーロさんの顔を、至近距離で観察してみた。幸せで幸せで、口元がしきりににやついてしまう。

そういえばこの前買ってきたアイスクリームがまだ冷凍庫に残っていたような気がした。無性にそれが食べたくなった俺は、ずるりとこたつから這い出し冷凍庫に手を入れる。
バニラアイスと表示された白いパッケージ。こたつに戻って縦に長いその袋を開ける。中身を取り出してみると、木の棒にアイスが突き刺さって、くっついた氷の粒がキラキラ綺麗だった。

気づけばアマーロさんは、すやすや寝息をたててお昼寝を始めている。せっかくバイトが無い日なのになあ…甘いアイスをかじりながら俺はほんの少しだけ、小さな子供みたいにいじけた。

そして俺はアイスを食べ終わり、アマーロさんの方を向いて寝転ぶ。なんだかんだ言って俺も特にすることは無いし、いっそアマーロさんと一緒にお昼寝でもしてしまおうか。

規則的な呼吸。薄く開いた唇から洩れる息は俺の唇にかかる距離。

ちゅ

どうにも我慢ができなくて、寝ているアマーロさんにチューしてしまった。罪悪感罪悪感…。ひとりで勝手に赤くなって唇を離そうとした時、アマーロさんの目が薄く開いた。

「……あいす…」

「え……………」

次の瞬間、俺の唇にアマーロさんの唇が深く重なった。俺があせって離れたわずかな距離を、アマーロさんは瞬時に埋める。繋げた唇、アマーロさんの舌が俺の口腔に侵入してきて、口いっぱいに広がるバニラアイスの後味を、残さず奪い取ろうとした。

(アマーロさん寝ぼけてる!!)

逃げれば逃げるだけ着いてくるアマーロさん。いつの間にか後ろ手つかされた俺の上にのしかかるような体勢で、アマーロさんはピチャピチャと自ら卑猥な水音をたてた。

真昼間からこんな…
突然の事態に心臓がわめく。アマーロさんの恥態を隠す事なく照らす窓からの陽光。夜とは違う異様ななまめかしさに頭がくらくらした。

「んぅ……ぁ……………え?」

「アマーロさ…ん、…ぅあ…」

ようやく目が覚めたのか、アマーロさんは俺にのしかかったまま唾液でべたべたになった口元に手をあて硬直。どうやら状況が理解できてないらしい。俺はといえば、アマーロさんに事態を告げる余裕もなくぜえぜえ荒い呼吸を繰り返しているばかり。
真っ赤になった俺を、真っ赤になったアマーロさんが見下ろして言う。

「おい」

「…は、は…い」

「俺寝ぼけてたか」

「たぶん…」

それを聞いた瞬間、アマーロさんは俺の上から飛びのこうとした。でも逃がさなかった。幾ら寝ぼけてたからって、ここまでされて我慢できるほど大人じゃない。

「うわっ…!」

「ごめんなさいアマーロさん」

息の荒いままアマーロさんを布団に押し倒し、俺はみたび唇をふさいだ。


さっきと違い意識がはっきりしているせいか、隙間から洩れる声にはしっかり羞恥と嬌声とささやかな抵抗の色が滲んでいる。
歯列を割り、口腔の端から端まで余さず犯した。アマーロさんの小さな舌は最初は怯えるように奥で縮こまっていたけど、徐々に自分から俺の舌に触れてくるようになる。
鼻に抜ける甘いバニラの香り。それが一体どちらのものなのか、もう判断がつかなかった。

「んん…んっ、アイレ…ぁ…っ!」

「甘い………」

お互いこのままでは窒息してしまいそうなので、俺は唇から舌を抜き、そのまま顎を伝い首を少し噛んだ。軽く肌を吸えば、びくりと華奢なアマーロさんの体が跳ねる。必死に逃れようと弱々しい力で俺の服の袖を掴むその右手を掴み、無理矢理シーツに縫いつけた。

目尻を赤く染め、ひたすら羞恥に身もだえるアマーロさん。吸って赤くなった肌を舐めながら、じっと顔を見つめる。それに気づいたのか、アマーロさんは無駄な抵抗と知りながら、俺からなるべく表情が見えないように顔をそむけた。

「アイレン、寒い」

「すぐ汗かくから大丈夫ですよ」

「なっ……ぁ……」

いつになく積極的な自分に笑いそうになる。場数を踏むと、人って本当に成長するんだなあ。
首筋を一度がぶりと噛んだ後、空いた右手でアマーロさんの服を捲り、見慣れた素肌を視界におさめた。
夜に見る体と違い、陽に照らされ薄桃色に上気している乳白色の肌色は官能的で、俺は思わずごくりと息を呑む。

「アマーロさん」

「…な…に……っ」

「舐めてください」

「んっ…」

互いの唾液でそぼぬれたアマーロさんの唇に、俺は笑いながら指先を押し当て、ノックするみたくトントンと叩いた。おずおず口を開いたアマーロさんはチュー同様、始めこそゆるゆる舌を這わせる程度だったが、生暖かく柔らかい口腔に指先を突っ込めばいつの間にか夢中で無骨な指をしゃぶるようになった。

「もう……もういいです」

「っ、ん………ひ、あ!?」

これ以上舐められるとイってしまいそうだ。いい加減息も絶え絶えだが、居心地の良いアマーロさんの口から指先を引き抜き、間髪いれず既にぴんと勃ち上がった左胸のソレを、唾液で濡れた人差し指で転がすように押し潰した。
左手はアマーロさんの手を押さえているため使えない。変わりに舌を這わせる。

「い、や…だっ…!ぁっ、まっ…っ…う」

「暴れないでください」

人差し指と親指で先端を挟みぐりぐりねじってみたり、いきなり歯を立ててみたり、かといえばしつこいくらい優しく、噛んだ場所を舐め続けてみたり。いじめすぎて赤く腫れぼったくなってしまったソコから、俺はようやく口を離した。アマーロさんは息も絶え絶えに涙を流して喘いでいる。

まだ一度も触れていないアマーロさんの下腹では、一目でわかる位に成長したアマーロさんのモノが布を押して染みをつくっていた。
そっとパンツと一緒にズボンを足首の辺りまで引き下ろし、可愛らしく主張しているソレに触れる。既に腹につきそうな程反り返ったソレは、触れると先端から透明な蜜をじわりとこぼした。

「アマーロ、さん…、きもちい…?」

「ぃやっ、ぁン…だめ…!は…おかしく、なっちゃ…」

「指…いれますよ」

俺のモノもいい加減はちきれそうで、正直、早漏の俺がここまで我慢できた事自体賞賛に値すると思う。

夢中で喘いでいるアマーロさんから、一向に同意が得られそうになかったため、アマーロさんの唾液と溢れた蜜のぬめりを借りて、秘部の周囲をくるくる指先でなぞった。
解放された右腕でアマーロさんは自分のモノをゆるゆる触りはじめる。『一度くらい先にイかせたいな』。普段と違い、仕事疲れのまったく無い体は恐ろしく貪欲だった。

ここまで自分のペースにアマーロさんを巻き込んだ事なんてあったっけ。ぐつぐつ煮えたぎる脳みその中で本能がうなる。

「アマーロさん、自分の触っちゃだめ。触るんなら俺の触って」

「ぁん、アイレンっ……の?」

「自分の指自分で舐めて…ぅ、いれたとき痛くないように、とろとろにしてください…」

不安げな瞳にチューをして、髪を撫でる。自分も前をくつろげて、はちきれんばかりに反り返ったソレを取り出し、アマーロさんの手に握らせた。恐る恐る上下に動かす、先走りで濡れたソレは思ったより滑らかだ。何度か繰り返して慣れてきた頃、俺はアマーロさんの秘部に這わせた指先をゆっくり抜き差しし始めた。

「あっあっ…ああっ…あンぁ…」

アマーロさんの反応を見ながら徐々に人差し指の第一関節、第二関節、第三関節、中指の第一関節、第二関節…といった具合で指を増やしていく。
アマーロさんはもう後ろの刺激だけでいっぱいなのか、俺のモノは小さな手の平で握っているだけで動かしやしない。

「あっあっ、ひあっ…ンっ…んん!…ぃや、アイ、レン…アイレンっ…」

「アマーロ、さん…はぁっ、ごめんなさい、俺…もう無理」

「俺も、ンっだめぇ…!いれたら、イっちゃ…ぅ、から…」

「じゃあ、一回っ…イっときましょうか」

俺は笑ってアマーロさんの右腕を取り背中に回した。二酸化炭素と短絡的な言葉ばかり紡ぐ喧しい唇をふさぎ、濡れた秘部に宛がった先端をゆっくり押し込む。

「ひっ…ぁぁぁぁっ!そんな、今日、へん…だめ、もうイ…ク……!」

入れては抜いてを繰り返し、徐々に中へ押し入る。俺の首に回した腕に一際力がこもり、力任せに抱き寄せられた。アマーロさんが肩口に歯を立てたせいで、肌が傷つきチクリと痛む。
嬌声と叫びの間のような、夜にしか聞けない普段より1オクターブ高いアマーロさんの甘い声。無意識かどうかはわからなかったが、取り縋るように夢中で長い脚を俺の体に絡めてくる。汗で湿った肌がこすれあい、酷くいやらしい。

「あン、あ…あ、あ、やっ…ひぁ、やぁア……!そこは…だ……めぇっ…!…アイレンっっっ!」

先端がようやく収まった所で、アマーロさんがイった。白い喉をのけ反らし、ビクビクと体を痙攣させる。

「アマーロさん、…っ」

「はぁ…はぁっ………ぁ…嘘っ…!やっ、アイ…レン、待って、だめっ…!俺今、イったばっか…あ、ン!」

「むり…です…」

俺はアマーロさんの回復を待つ事なく、再び抽挿を始めた。
アマーロさんには可哀相だけど、本当に今日は無理だ。イったばかりで敏感な体に口づけて、アマーロさん自身の腹にぶちまけられた白濁を指で掬い、萎えたアマーロさんのソレをもう一度勃たせようと触れた。
そしてようやく俺の形に押し拡げられた秘部に、俺の欲望がぜんぶ収まる。内壁がきゅうきゅう締めつけてきて苦しい。けど気持ちいい。

「アマーロさん…きっつ………!」

「ひぁあ…っ!アっ…あぁっ…あン!」

俺は自分のモノが全て収まったのを確認すると、抽挿を始めた。激しく腰を打ちつける度ぐちゅぐちゅと卑猥なノイズが耳を犯して現実から俺とアマーロさんを遠のかせる。
完全にカタチを取り戻したアマーロさんのモノは、既にはちきれそうだ。内壁をえぐるように押し拡げれば、ソレもピクピク震える。
凄く気持ちよさそうだったので「そんなに気持ちいいんですか」と聞いてみたら、髪を振り乱しながら「気持ちイィ」と。

「アマーロさんっ…俺、もうイく…」

「アイレン…アイレン…アっ…ぎゅって、ンあ…ぎゅって…してッ…キス、し、て……おねがっ…」

「くっ………アマーロ…さんっ」

体をきつく抱きしめ互いの唇を喰らう様に貪った。角度を変え何度も隙間から溢れた吐息には、たくさんの『愛してる』を。
そして今までで一番強く腰を打ちつけた後、すぐにアマーロさんの中から自身を抜き、白濁をアマーロさんの腹にぶちまけた。
その上からまた、アマーロさんの少し薄い精液が注がれる。

全身の力が抜けて、俺はアマーロさんの上に崩れ落ちた。はぁはぁと荒い呼吸音しか部屋にはないようにすら思える。密着した肌からドクドク心臓の音が響いて心地いい。

「アマーロさん…アマーロさん…」

「アイ、レンの、はぁっ…あほう……」

アマーロさんと俺の密着した腹の上で混ざった二人分の精液は、放っておけばそのうち勝手に受精して人間になりそうだった。

「アマーロさん」

「………………」

「アマーロさぁん!!」

「………………」

「アマ…アマーロさん…」

情事が終わり正気を取り戻したアマーロさんは随分お怒りのようだった。でもよく考えてみると、最初に寝ぼけてチューしてきたのはアマーロさんじゃなかったっけ。
しかし半ば無理矢理アマーロさんを襲ったのは紛れも無く俺だ。そして今俺は、アマーロさんになんとか機嫌を直してもらおうと試行錯誤。

でもアマーロさんはこたつの中に入り、俺に背を向け本を読んでいる。俺はすぐ隣で正座し繰り返し謝っていたが、アマーロさんは聞こえないフリを決め込んだ。
今日はもう機嫌は直らないかもしれないなあ。半泣きになった俺は今一度「ごめんなさい」と呟いて家を出ようとした。

「おい」

玄関で靴に履き変えていると、アマーロさんに呼び止められた。
眉間にシワを寄せ俺を睨み上げる。さっきとはえらい違いだ。

「なんですか」

「どこ行くんだよ」

「いや…今日は俺が居ない方がアマーロさん落ち着けるかなあって。俺バイトも無いし、明日の夜までずっと家に居る事になるから」

気にしないでゆっくりしててください、と笑ってみせたけど、不自然じゃなかった…かな。
アマーロさんは俺の言葉を聞くや否や、むっつりした顔のままいきなり腕を掴み、俺を部屋に引き戻した。わけがわからない。

「座れ」

「へ?え…ぁ、はい」

言われるがまま畳の床にあぐらをかく。すると

「あの、アマーロさん…?」

「黙ってろ」

アマーロさんは俺の脚の間にすっぽり体をおさめ、胸を背もたれに寄り掛かり本を読みはじめたのだ。まだ生乾きの髪が服を湿らし、濃いリンスの香りが鼻を打つ。俺の頭ははてなだらけだ。

「なんで…」

「お前のせいで布団は洗濯行きだし、この家のこたつは温度調節できねえから暑いんだよ。お前の…アイレンの体温がちょうどいい、だから椅子として側にいろ」

「…まだ怒ってますか?」

一度も本から目を離そうとしない恋人に、俺は恐る恐る尋ねる。何秒か無言が続いた。まるで判決を待つ被告人になったような気分だ。
たっぷりと時間をかけ、ようやくアマーロさんが重い口を開いた。

「……もう昼間っから盛んねぇって約束できるなら…許してやる」

その一言で俺は一気に元気になった。

「約束しますっ!絶対昼間からあんなことしません!ごめんなさい!」

「よし」

「えへ…アマーロさんだいすき…」

柔らかい髪に口づけ、腋からお腹を抱えるようにして抱きしめる。アマーロさんは鬱陶しそうに身じろいだ。

「本が読みにくい、やめろ!」

「俺が持ちましょうか?言ってくれたらめくりますよ?」

「お前なあ…」



12月上旬、町の空気は雪が降りそうなほど冷たい。
暖房機具がこたつしか無い我が家でも、二人でいればこんなに暖かいなんて。
























(君の唇にキスを、)

こんな日々を
ふたりは愛した。

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