小話
◎フランボワーズ/フロスティ
◎フラン視点
◎血表現注意
「ねえあなた」
「なんだい?」
「愛してるわ」
「僕もだよ」
「どれくらい?」
「ん?」
「どれくらい愛してる?」
「んー…そうだなあ。少なくともフランの為なら自分の命なんか惜しくないくらい?」
「うふふ…幸せ…」
「そうだね。僕も幸せだ」
あなたの足手纏いになりたい
フロスティが仕事に出てゆく姿を毎朝見るのは本当に辛い。朝に彼の背を見ると、心が彼にくっついて、距離が開くたびギチギチと引きちぎられてゆくような気分になる。私の体まで裂けてしまいそうになる。
そうして私は決まって台所へ目を向け、3つある戸の手前から2番目に収納されている包丁を出そうか迷うのだ。
(刺しちゃおうかなあ)
だって刺しちゃえばフロスティは仕事に行かなくてすむじゃない。そうしたら怪我が治るまでずうっと側で看病してあげるの。得意な料理を、あったかいお布団に寝かした彼にゆっくり食べさせてあげて…きっと熱いだろうからふうふうして冷ますのも忘れちゃ駄目だわ。太陽が東から昇って西に吸い込まれても、ずっと一緒にいるの。離れない。いつもみたいにピッタリくっついて「背中痛くない?」「ごめんね」って、そしたらフロスティはきっと笑って頭を撫でてくれる。ぎゅって抱きしめてくれる。
「…ラン、フラン?」
フロスティの声に、遠ざかっていた意識が一瞬で呼び戻された。心配そうな顔のフロスティが玄関に立って、大きな手で私の頬を撫でる。ああそうだわ、早くお見送りしなくちゃ!会社に遅刻してしまう。
「ごめんなさい。ちょっとぼうっとしてしまって…」
「大丈夫?風邪とかじゃないよね?今なら会社、まだ休めるけど…」
「心配しないで!私は大丈夫だから、ね?」
無理矢理笑顔を作ってそう言ってみせると、フロスティもなんとなく納得して腕を下ろした。ああ嫌。まだ触れていたいのに。
「じゃあ行ってくるよ」
「…ええ、いって…らっしゃい」
ちゅ。と、フロスティが俯く私の額にキスをする。でも足りないの。こんなの…これっぽっちじゃ私、あなたが帰ってくるまで息が持たない!死んでしまう!
ガチャンと扉が閉まった。
私は一切の迷いもなく台所に駆けて、2番目の戸をひらいた。
「あなた」
家から2メートルも離れていない、愛する彼の背へ声をかける。2秒もしないうちにきっとあなたは振り向くわ。不思議そうな顔?それとも笑顔かなあ。考えるだけで楽しかった。
「フラン?あれ、僕何か忘れ物した……か…な」
「今日はずうっと一緒にいましょう。ね、そうしましょ。離れたくないの。寂しいの。息ができないのよ」
鋭利な包丁は本来の役目をきちんと果たし、愛する彼の腹部に深々と突き刺さる。グレーのスーツへ徐々に真っ赤な染みが拡がって、フロスティのお腹から伸びる包丁の柄からまだ温かい滴がコンクリートにいくつも花を咲かせた。
ぎゅっとフロスティを抱きしめ顔を見上げる。フロスティは目を見開いて私の顔をじっと見つめた。体が小刻みに震え今にも崩れ落ちてしまいそうだったので、私も必死に彼の体重を支えようと腕に力を込める。
「…なん、ど……め、かな?」
「5回目よ」
「はは………愛、され…てるなあ…」
フロスティは微笑んで私の髪を撫でた。ああ!ほらね!こうすればあなたは私から離れていかない!
フロスティの目が曇りはじめ、とうとう私の力では支え切れなくなりどさりと地面へ崩れ落ちた。その時に運悪く頭を打ったのか、じわりと頭からも流れ出た血がコンクリートにひろがった。
「痛い?」
息の荒いフロスティにそう問う。不規則に上下するお腹に刺さったままの包丁が呼吸に合わせユラユラ揺れた。眉間に皺を寄せ、フロスティが薄目を開けて私の頬を撫でる。
「…痛い。すごく」
「私ね、私…」
「ゴホッ………う……ん?」
「私…あなたのこと、狂ってしまうくらい愛しているわ」
吐血したフロスティの唇にキスをして、私は包丁を思い切りお腹から引き抜いた。しかしかなり深く刺さっていたため中々抜けず、抜く手に何度も何度も力を込める。すると、ず…ず…と、徐々にだが赤く濡れた刃が裂けたお腹から姿を現した。フロスティは声にならない声をあげて、引き抜くたび痛みに顔を歪ませる。
ようやく抜き終わった。二人とも血と汗にまみれ息を荒げる。
早く家に帰って介抱しなくちゃ。
「あなた、今日はお粥にしましょうね。お腹に響くと毒だから私が冷まして食べさせてあげますよ」
「………………………」
失神しちゃったのかしら。
でもそんな顔も素敵だわ。
やっぱり愛は偉大!
ガチャリ。
家の扉を開けて、彼の体を気遣いながら体を滑り込ませた。
「あなた、愛してる。愛してる」
(あなたの足手纏いになりたい)
ずっと
いっしょ
だよ。
◎フラン視点
◎血表現注意
「ねえあなた」
「なんだい?」
「愛してるわ」
「僕もだよ」
「どれくらい?」
「ん?」
「どれくらい愛してる?」
「んー…そうだなあ。少なくともフランの為なら自分の命なんか惜しくないくらい?」
「うふふ…幸せ…」
「そうだね。僕も幸せだ」
あなたの足手纏いになりたい
フロスティが仕事に出てゆく姿を毎朝見るのは本当に辛い。朝に彼の背を見ると、心が彼にくっついて、距離が開くたびギチギチと引きちぎられてゆくような気分になる。私の体まで裂けてしまいそうになる。
そうして私は決まって台所へ目を向け、3つある戸の手前から2番目に収納されている包丁を出そうか迷うのだ。
(刺しちゃおうかなあ)
だって刺しちゃえばフロスティは仕事に行かなくてすむじゃない。そうしたら怪我が治るまでずうっと側で看病してあげるの。得意な料理を、あったかいお布団に寝かした彼にゆっくり食べさせてあげて…きっと熱いだろうからふうふうして冷ますのも忘れちゃ駄目だわ。太陽が東から昇って西に吸い込まれても、ずっと一緒にいるの。離れない。いつもみたいにピッタリくっついて「背中痛くない?」「ごめんね」って、そしたらフロスティはきっと笑って頭を撫でてくれる。ぎゅって抱きしめてくれる。
「…ラン、フラン?」
フロスティの声に、遠ざかっていた意識が一瞬で呼び戻された。心配そうな顔のフロスティが玄関に立って、大きな手で私の頬を撫でる。ああそうだわ、早くお見送りしなくちゃ!会社に遅刻してしまう。
「ごめんなさい。ちょっとぼうっとしてしまって…」
「大丈夫?風邪とかじゃないよね?今なら会社、まだ休めるけど…」
「心配しないで!私は大丈夫だから、ね?」
無理矢理笑顔を作ってそう言ってみせると、フロスティもなんとなく納得して腕を下ろした。ああ嫌。まだ触れていたいのに。
「じゃあ行ってくるよ」
「…ええ、いって…らっしゃい」
ちゅ。と、フロスティが俯く私の額にキスをする。でも足りないの。こんなの…これっぽっちじゃ私、あなたが帰ってくるまで息が持たない!死んでしまう!
ガチャンと扉が閉まった。
私は一切の迷いもなく台所に駆けて、2番目の戸をひらいた。
「あなた」
家から2メートルも離れていない、愛する彼の背へ声をかける。2秒もしないうちにきっとあなたは振り向くわ。不思議そうな顔?それとも笑顔かなあ。考えるだけで楽しかった。
「フラン?あれ、僕何か忘れ物した……か…な」
「今日はずうっと一緒にいましょう。ね、そうしましょ。離れたくないの。寂しいの。息ができないのよ」
鋭利な包丁は本来の役目をきちんと果たし、愛する彼の腹部に深々と突き刺さる。グレーのスーツへ徐々に真っ赤な染みが拡がって、フロスティのお腹から伸びる包丁の柄からまだ温かい滴がコンクリートにいくつも花を咲かせた。
ぎゅっとフロスティを抱きしめ顔を見上げる。フロスティは目を見開いて私の顔をじっと見つめた。体が小刻みに震え今にも崩れ落ちてしまいそうだったので、私も必死に彼の体重を支えようと腕に力を込める。
「…なん、ど……め、かな?」
「5回目よ」
「はは………愛、され…てるなあ…」
フロスティは微笑んで私の髪を撫でた。ああ!ほらね!こうすればあなたは私から離れていかない!
フロスティの目が曇りはじめ、とうとう私の力では支え切れなくなりどさりと地面へ崩れ落ちた。その時に運悪く頭を打ったのか、じわりと頭からも流れ出た血がコンクリートにひろがった。
「痛い?」
息の荒いフロスティにそう問う。不規則に上下するお腹に刺さったままの包丁が呼吸に合わせユラユラ揺れた。眉間に皺を寄せ、フロスティが薄目を開けて私の頬を撫でる。
「…痛い。すごく」
「私ね、私…」
「ゴホッ………う……ん?」
「私…あなたのこと、狂ってしまうくらい愛しているわ」
吐血したフロスティの唇にキスをして、私は包丁を思い切りお腹から引き抜いた。しかしかなり深く刺さっていたため中々抜けず、抜く手に何度も何度も力を込める。すると、ず…ず…と、徐々にだが赤く濡れた刃が裂けたお腹から姿を現した。フロスティは声にならない声をあげて、引き抜くたび痛みに顔を歪ませる。
ようやく抜き終わった。二人とも血と汗にまみれ息を荒げる。
早く家に帰って介抱しなくちゃ。
「あなた、今日はお粥にしましょうね。お腹に響くと毒だから私が冷まして食べさせてあげますよ」
「………………………」
失神しちゃったのかしら。
でもそんな顔も素敵だわ。
やっぱり愛は偉大!
ガチャリ。
家の扉を開けて、彼の体を気遣いながら体を滑り込ませた。
「あなた、愛してる。愛してる」
(あなたの足手纏いになりたい)
ずっと
いっしょ
だよ。