小ネタ集⑥
<蝉>
「カールロ~」
僕を呼ぶ、ライの声。
彼の声は妙に甘ったるい……
これはきっと、何かある……
「……深呼吸……」
心を落ち着かせ、覚悟を決める。
そして──
「どうかしましたか、ライ──」
言い掛けて、思わず言葉を失った。
何故なら、彼は全裸で大事な部分に──
「蝉がくっついて、離れてくれねーんだよ。助けてくれ!」
蝉はご機嫌なのか、シャアシャアと鳴いている。
「よっしゃー! じゃねーし!」
シャアシャアって、熊蝉ですか。
しかも……雄に好かれるとは……
「……何故、そんな場所に蝉が……」
答えが分かりきっているであろう質問が思わず声に出てしまった。
「全身浴してて、寝返り打ったら……死にかけてたこいつを踏んじゃってさ」
「起きたらくっついてた、と?」
「そーいうこと」
見たくもない蝉を改めて見る。
だが、やはり元気にシャアシャアと鳴いている。
「どう見ても死にかけていたとは思えませんけどね」
「おれのフェロモンで生気を取り戻したんだって」
ライは襲いに行けないからと、蝉をどうにかしたいらしい。
だが、この状況は好機とも呼べなくはない。
「ライ。いいですか? 蝉は7日の命。ですから──」
“7日間は我慢して、天国へ送りだしてあげましょう。
もしかしたら、数分……数時間で飽きて飛び立つかもしれませんし”
等と話すと、ライは渋々頷いた。
しかし、蝉は弱るどころか元気を取り戻した。
「…………カルロ……蝉の寿命って、どんくらいだっけ?……おれ、欲求不満すぎて死にそう……」
1ヶ月が過ぎ……
夏が終わろうとしているにも関わらず、蝉は元気に今日も鳴いている。
END.