小ネタ集③




「姉さん、何を作ってるの?」
「柏餅」
「こんなにたくさん?」
「クラリスに頼まれて」
「頼まれて?」
「彼女のお父さんの知り合いの保育園の子供達に作ってるんだ。発注ミスで、注文出来なかったみたいで……」
「それは大変だね」
「でも楽しいよ。色んな味を用意したから」


あんこは、もちろん。
白餡、抹茶、ミルク、さつまいも、チョコレート。
何が当たるかは食べてからのお楽しみ!
そんな事を考えながら作るのはとても楽しい!
……制限時間はあるけど……


「どれも美味しそうだね」
「本当?……それじゃあ、良かったら味見してくれるかな?」
「いいの?」
「うん。感想、聞かせてくれたら嬉しいな」


それに……リクが食べてくれるだけで、凄く嬉しい。


「……姉さん。そんなに見られてたら、食べにくいよ」
「あ、ごめん……」
「謝る事じゃないよ。ただ、何ていうか……恥ずかしいから」
「そ、そうだよね! わ、私! 作らなきゃ!」


照れるリクに胸がドキッとした。
カッコいいなぁ。
可愛いなぁ。


「姉さん、御馳走様。凄く美味しかった。あんこも子供達が食べやすいようにアレンジされていたし」


リク、気付いてくれたんだ。
微妙なアレンジなのに、気付いて……嬉しい。


「流石、姉さんだね」
「……ありがとう」
「あのさ……お礼に作るの手伝うね」
「え……?」


リクに食べてもらえただけでも十分なのに。
本当に優しいな、リクは。


「僕が手伝って少しでも姉さんが楽になるといいんだけど」
「……本当にいいの?」


リクは笑顔で頷いた。

キッチンにリクと並ぶ……
何だか懐かしい。
初めて一緒に立って作ったのは、シチューだったっけ。

私がお餅を作って、リクが中に入れて葉で包む。
時折、チョコを溶かす泡立て器のシャカシャカ音が心地よく響く。


「──終ったね」
「うん。リクのお陰で凄く早く終わった!」
「それなら良かった」


深呼吸一つ、乱れた心を整えて。


「リク……一緒に届けに行かない?」
「え?」
「私一人じゃ……正直、間に合わなかった。リクのお陰だし、それに──」
「うん、いいよ。一緒に行こう。ついでに本屋も付き合ってくれると助かるんだけど」
「もちろんだよ!」


言ったあとに、ふと……
これって、デートになるの……かな? なんて考えた。


「ありがとう、リク」
「どういたしまして。今度は、僕の番だよ」


私はリクとの時間を楽しんだ。
子供達に恋人と勘違いされた時、リクは否定も肯定もしなかった。
それって……期待してもいいの?
ずっとドキドキが止まらない……


「あの……リク──」
「何だか、デートみたいだね?」
「へ?……え……ええっ!?」


リクに思っていた事を言い当てられたようで、激しく動揺してしまった。


「なんてね」


そう言って、笑うリクに私の鼓動はまた早くなった。





<アリスとリク>



END.
(2023.05.04)
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