小ネタ集③
「こいのぼり、か」
「サキト?」
「こいつがさ、生まれたら直ぐに買わなきゃだな」
「そうだね」
そう言って、サキトはセレナの少し大きくなったお腹をそっと撫でる。
「くぅ……早く買いてぇ! 今から買いに行くか!」
「ちょっと、気が早いよ。初節句なんだから、生まれてからじゃないと」
「はぁ……だな。けど、もう少しか……」
「そうだね」
そう言って、セレナはサキトの手に自分の手を重ねた。
「二人の時間も……あと少し、か」
「何? サキトってば」
「……ここ数日、色々と思い出すんだよ」
「……私も。出会いから、色々あったなって」
「……ホント、だな」
サキトの顔が曇る。
「やだなぁ、もう! そんな顔しないでよ……今があるんだから」
「……セレナ……ッ」
サキトはセレナをそっと……力強く、優しく抱き締めた。
──数日後。
「うぅ……痛い……」
「陣痛か! よし、病院だ!……このまま生まれたら、鯉のぼりもその足で買いに行くぞ!」
「いや……生まれたら、そのまま入院だって」
セレナの言葉にサキトは目を丸くする。
「あ、そうか……」
「…………サキトってば……」
「……はぁ。暫くは、ぼっちかよ……」
「そんな顔しないでってば…………ううっ、また来た!……痛い……ッ!!」
──暫くして。
「おめでとうございます、元気な男の子ですよ」
「よっしゃ! 鯉のぼ──」
「……ト!……サキトってば」
うっすらとサキトが目を開ける。
「……夢、か?」
「鯉のぼりがどうかした?」
「あ、いや……」
「……まだ生まれそうにないけど、買いに行く?」
「え? いいのか?」
「……買いたいんでしょ、鯉のぼり」
セレナの言葉にサキトは頷いた。
「オレさ……今、買わねぇと出産の時……テンパりそうだし」
「ふふ、何よソレ」
〈サキトとセレナ〉
END.