無遊病




「ねえ、モルちゃん」
「あ?」
「……気持ちいい?」


暗闇の中、ギルとモルテの囁くような声が響く。


「…………よく分かんねぇけど、イイんじゃねぇの?」


布の擦れる音と、微かに聞こえる呻き声……


「じゃあ、もっと……する?」
「……っく…………ギルって……」
「何?」


次第に呻き声の呼吸は荒く、熱を増していく。


「…………ホント、容赦ねぇ……のな」
「……僕、結構優しい方だと思うけど?」
「笑っちまうって」


そのモルテの声と共に辺りが明るくなる。
そこはホテルの一室のような空間で、ギルとモルテはベッドの上で寛いでいた。


「優しいヤツがこんなことすっか?」


そう言って、モルテは笑う。
彼は手に縄を持ち、頭から布袋を被った男の首を拘束していた。
男は首を横に振りながら呻き声をあげている。


「優しいから、ちゃんと相手を探してあげたんじゃないか」
「しっかし、野蛮な野生児みてぇなのよく見付けたな……ホント」
「“彼”はさ……一応、僕の体格に似てたからね。これも優しさでしょ?」


ギルは楽しそうに笑う。


「体格だけ、だろ? そもそも“彼”なのか、“彼女”なのかすら分かんねぇじゃん」
「こいつは僕の中のモルちゃんを汚したんだよ?」


そう言って、ギルはモルテに拘束されている男を見下すように見る。


「おい。お前のになった覚えはねぇんだけど。ったく、お前のせいでとんだ迷惑」


モルテが縄を引くと、男は呻き声をあげる。


「……へえ……やっぱり気持ちいいんだ、これ?」


ギルは笑うが、目は笑っていない。


「認めたくねぇけど、“コイツ”は何となく……俺の体型と似てるよな」
「クリス?……君はモルちゃんの事、狙ってたの?」


そう言って、ギルはモルテの手に自分の手を添え……縄を強く引く。


「は? 逆だろ……ギルに気があったんじゃねぇの?」
「冗談はやめてよ、モルちゃん」


ギルがポケットからリモコンのようなものを取り出し、ボタンを押す。
すると、ドアをノックする音が聞こえてくる。


「開いてるよ。入れて」


ギルがそう告げると、ドアが静かに開き……
人一人分入るくらいの段ボールが置かれ、また静かにドアは閉まった。


「クリス。君が望んでいる事、してあげるよ」


その言葉を合図にモルテは布袋に何かを吹きかける。
すると、男は動かなくなった。
それを確かめると、モルテは男の布袋を外した。


「あー……首、痕付いちまった」
「そそる要素じゃないかな?」


ギルが段ボールに切り込みを入れながら答えた。


「何? ギルって、こういうのに興奮するタイプ?」 
「相手がモルちゃんなら、興奮するかもね」


段ボールの中から荒々しい吐息が漏れる──
 

「お前、この世界から抜け出せなくなっかもな」


そう言うと、モルテは男を……クリスを段ボールの方へ蹴飛ばした。


「さて、と……折角だし、デートでもする?」
「何でだよ」
「噂に便乗」
「すんな。マジで誤解されるっての」
「モルちゃんってば、つれないなぁ」



二人が去った後、段ボールを切り裂いて男が現れる。
そして、クリスを見て息を荒げながら笑う。



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