王子と毒林檎




エリス嬢。
彼女はいつも、男女分け隔てなく囲まれている存在。
今日も例外ではなかった。


「それでね──」
「エリス」
「あ……ギル様……」


周りが僕を“王子”と囃し立てる。
無論、僕にはそんな気など微塵もない。


「少し、いいかな?」


僕が何かを言う度に……
エリスが反応する度に……
何故か、“誘っている”と誤解が駆け巡る。


「二人きりで話って、もしかして──」
「僕の何を知っている?」
「……え?」
「誕生日? 血液型? 趣味や特技? 好きな食べ物?」
「え、あ……全て……知ってるよ」


そう言うと、彼女は僕の上部だけの身辺調査書を読み上げる。
無論、そんなものは実際には存在しないけれど。


「……僕のこと、そんなに調べてくれたんだ。嬉しいな……流石は“彼女”だね」
「……彼女?」
「あれ? 違った?」
「ギル様、嬉しい!」


抱きつこうとする彼女を制止する。


「ギル……様?」
「ギルでいい」
「……ギルっ!」


エリスは嬉しそうに僕の腕に抱きついた。


「そうだ。一つだけ……」
「浮気だけはしないでくれるかな」
「ええ、もちろんよ」


……この腕にいるのが、モルちゃんじゃなくて良かったよ。

──僕とエリスの噂は、瞬く間に広まった。



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