血婚ビロード
──案の定、その日の放課後……シギは男に狙われた。
彼は身体中から血を流し、気を失っている。
「お兄ちゃん……? やだ……お兄ちゃん!」
モナがシギに駆け寄り、身体を揺らす。
そんな様子を僕とモルちゃん、スフレとザクロは少し離れたところで見ていた。
「……はは……アハハッ!」
同じ血が流れてる?
それで諦めるなよ。
ほら、な?
違う“血”に替えればいいだけじゃないか。
「シギってば……いい方法、教える前に実行したんだ?」
「スーちゃんも僕と同じ考えだったんだね」
瀕死状態のシギに必死で呼び掛ける、モナ。
「めでたし、めでたしだな」
どくどく、どくどくシギから血が流れていく。
「そうだな、モルちゃん」
…………そういえば、犯人はどうするか。
野放しにするか、警察に突き出すか……
そんなことを考えている時だった。
シギを襲った男がモルちゃんに襲い掛かる。
いや正確にはスフレを庇ったモルちゃんに、だ。
「モルちゃん!」
僕は咄嗟にモルちゃんの前に出て、男の拳を受け流し蹴り飛ばした。
男が倒れると何度も蹴った。
そして──
「……落ち着け、ギル」
「モル……ちゃん?」
僕がナイフを振りかざそうとしていたのをモルちゃんが……止めた。
「ギル、“まだ”加害者になんなよ」
モルちゃんの言葉にハッとして辺りを見渡す。
すると、襲ってきた男は誰かに殴られたのか気絶していた。
……モルちゃん、だね。
「ついでに救急車も来たぞ」
「時間も丁度のはずよ」
そう言って、救急車の中からミモザが出てきた。
「さっすが、ミモザ」
僕達の後ろでは慌ただしく、シギの手当てや搬送準備が行われていた。
「これでハッピーエンド。良かったわね、スフレ」
「良かったよぉ、ザクロ」
スフレがザクロに抱きつくと、ザクロはスフレの髪をそっと撫でた。
この光景も見慣れてる。
むしろ微笑ましいとさえ思う。
「血の気の多い野郎も警察に突き出しておいたわ」
「さんきゅ、ミモザ」
「僕からもお礼を言うよ。モルちゃん、怪我はない?」
「怪我してんの、ギルだろ」
そう言うと、モルちゃんは僕の腕をペロッと舐めた。
……赤い血の滴る、傷口を。
「モルちゃん……ありがとう」
「舐めときゃ治る、なんだろ?」
「……あぁ」
なぁ、シギ。
目を覚ましたら、君の中を流れる血は別の人間のものになっているんだ。
「ギル。二人は一緒に暮らせなくても、これで幸せになれるねぇ」
スフレの言うとおりだ。
これで血の繋がりはなくなったんだからな。
──けど、その“血”は……“誰”のなんだろうな?
<血婚ビロード>
END.
(2024.06.12)
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