I knew you all the time
「野嶋クン、か。俺サマを脅かすなんて──」
ポタポタ……
何かが滴る音。
突如、目を見開き怯えだす玉子──
「ミ……ドリ……?」
「そう」
野嶋はクスりと笑って答えた。
その手には、血塗れのミドリ。
チリトリの取っ手が彼の心臓を貫いていた。
「そ……んな……野嶋が?」
「静かにしなさい」
「黙って見てられるかよ」
強気な言葉とは裏腹。
足はガクガクで、動く事すら出来ない。
このままじゃ、玉子まで殺されてしまう――
「わ、悪い冗談だよ……野嶋クン?」
「次はアナタの番なの」
と、ミドリからチリトリを引き抜き振りかぶる。
「ひぅ──」
「やめろ……野嶋!」
震える足を引きずって、彼女に顔を見せる。
「姫路くん……見付かっちゃった」
予想外なことに野嶋は寂しそうな笑顔をオレに見せた。
「わたしのこと……キライになっちゃった?」
そして、泣いていた。
「いや……」
そう、答えるのがやっとだった。
「良かった」
涙を拭うと、野嶋は玉子に向き直る。
「もう直ぐ……全ての償いが終わる──」
「うわぁぁあああっ!!」
「逃がさない!!」
と、逃げる玉子を追いかけようとする。
オレは思わず、野嶋の腕を掴む。
「この前から、ずっと気になってたんだ。“償い”って、なんだよ」
「知らなくていいって、言ったよね」
「その“償い”のせいで野嶋が誰かを殺す……知らなくていいで済まされねェだろ!」
「だって、あいつは姫路くんに嫌がらせしてる。そこの女はわたしから守る人を取り上げた。だから──」
「ふざけんじゃねェ!……そんな理由があるかよ!」
オレは、野嶋が人間とは思えなくなっていた。
どんな人間だろうが、みんな……みんな生きてんだろーがっ!
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