杏子

(サキト×セレナ)




ボスの命令に従い、感情のないまま彼女を抱く。
いや、感情はある。
真っ黒な真っ黒なモノ。

──抱く度に“邪悪”な感情が俺を蝕む。
“この女がいなければ”と。


「も……やめ…………て……」
「黙れ。テメェがあの人を狂わせてんだ」


あの人は俺の前でセレナを抱く。
恍惚の眼差しをこの女に向ける。
俺はお預け食らってるってのに。
憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い……
俺から本気で奪うっていうなら──

“やっちゃおうぜ”
無邪気な子供の声が脳裏で響く。
そして、頭蓋骨をコツコツ……コッコッコツコツ、叩く。

やめろ。
やめろって……
激しい頭痛に抗うようにセレナを貪り食い散らかすように抱く──


「はぁ……っ…………はあはあはあ……っ!」


──彼女との行為の後、嫌悪感と憎悪にまみれた俺の精神は別の苦痛に歪む彼女で満たされる。


「…………サキ……ト……」
「……! テメェ……気安く呼ぶんじゃねぇよ」


腹に一発、容赦のない蹴りを入れる。
何かが潰れた音。
吐血、血溜まり……辺りは生臭さに包まれる。


「……はは。悪りぃな」


そう言って、俺はセレナに口付ける。
すると、不思議と彼女は幸せそうな笑顔を浮かべる。

次の日には、何事もなかったかのようなセレナがいる。
あくまでも、外見は……な。
身体ん中はどうなんだか。


「なあ、セレナ」


名前を呼ばれた彼女はゆっくりと振り向く。


「俺に愛されてぇなら、くれよ……ソレ」


俺はセレナの右胸をあえて指差す。
訳の分からないといった様子のセレナ。
そりゃそうだよな?


「それとも、もう一つの方をくれるってか?」
「……サキトも同じの……くれる?」
「…………ああ」


漸く意味を理解したのか、彼女は笑顔で──


「なら、両方をあげる……私の心……サキトに全部……」


馬鹿な女。
ハートはそこのピースを外れたら、ヒビが入って砕けんだよ。





杏子/LACCO TOWER
END.
(2024.09.01)


END.
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