(リク/本編)



僕がいない間に彼女は少なからず変わってしまった。
僕の知らない表情(かお)──
それは、誰に見せるの?


「ハルクの馬鹿!」


そんな風に怒るなんて……知らなかったな。


「姉さん、どうかした?」
「リク……何でもないよ」


そう言って、彼女は笑う。
その表情(かお)は、よく知っている。

──肩を並べて歩く、帰り道。
いつもなら無言は気にならないのに……僕の知らない彼女を知ってしまったからなのかな…… 


「姉さん、あの人と……仲いいんだね」
「あの人? あ、ハルクの事? ち、違うよ! 誤解しないで、リク!」


どうして、そんなに必死に弁明するの?
──楽しく笑う、姉さんと彼の姿が重なる。


「…………悔しい、な……」


時を戻せるなら……僕はずっと……君の傍にいたのに……


「……何か言った?」
「ううん」
「……本当に誤解なの。私とハルクは、その……」


曖昧な態度に心がざわつく。
……いけない……
このままじゃ僕は……きっと──


「忘れ物、思い出したから戻るね」


僕は逃げるように来た道を辿っていく──


「……リク?」


名前を呼ばれ、足を止める。


「……ハル……ク……」


心が一気にざわつく。
落ち着かせようとするものの、それは逆効果で──


「────……」


無意識に出た言葉に鳥肌が立つ。
それを皮切りに、僕の心は砕けたのか……
制御不能……
操り人形……
殺人マシーン……

──視界は真っ赤に染まる──





橙/LACCO TOWER
END.
(2024.09.16)
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