夏の幻

(カルロ/本編)



「カルロ。また、遊んでたんだってね……」
「……ごめんね」


今、付き合っている彼女に深々と頭を下げる。


「なんで? なんで……彼女の私は抱いてくれないの?」
「え?……なんの……話?」
「気持ち良かったって……みんな言ってる……」


ちょっと待って。
“ソレ”はない。
“ソレ”だけはない……
全て断ってる……
そもそも僕の身体が受け入れられるわけ──


「違う! 当て付けだ!」
「……私といるのが心地良いって……」


それは嘘じゃない。
お互いに何も求めず、自然体でいられる関係。
居心地悪いわけがない。


「……キス以上は、結婚してからかな……って、いつも……」


“結婚してから”それは先延ばしへの言い訳。
僕には抱く資格が……何より自信がない──


「本当に……ごめんね」


大切にしたい、そう思ってる事に嘘偽りは一切ない。
この間系も守りたい。

それなのに──


「ねえ……今すぐ私を抱いて」
「……え?」
「抱けないなら……別れて?」


泣きながら、彼女は言った。


「……………………別れよう……」


僕は……絞り出すように言った。
それだけは……出来ない。

……分かってる。
……分かっていた。
“恋人”なら当たり前の欲望。
出来ることなら……僕だって──


「さよなら」
「…………さよ、なら……」


僕たちは泣きながら、別れた。
もう、“恋人”は作らない。
そう決めたのに、隣には常に誰かがいた。
曖昧な関係で。
ただ何となくの人もいれば、見栄の為の人もいた。
……相変わらず、体の関係は一切ない。

向こうから別れを告げられる度、“彼女”の事を思い出す──


「ごめんね」


目の前の相手にいつも……いつまでも、“彼女”が重なる──
居心地も……気持ちも、誰一人と“彼女”に劣る。

その“彼女”は別の男の隣で幸せそうに笑っている。
……僕にも見せていた、その顔。
もう……僕だけのものではない。
そう思うと、胸が締め付けられる──

けれど、“抱けば良かった”とは思わない──





夏の幻GARNET CROW
END.
(2024.09.15)
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