OASIS

(本編/カルロ兄弟)




弟が僕の存在を上書きした──

“妹が良かった”
“妹なら良かった”

子供ながらに何度もそう思った。


「ゼクス、おいで」
「可愛い、私のゼクス」


“カルロ”いつの間にか、両親は僕の名を呼ばなくなった。
見向きもしなくなった。

その時点で“諦め”れば良かったのに。
子供は残酷なもので……


「貴方はもういらないの。消えて? ねえ、今すぐ──」
「消去はまずい」


僕の首にかけられた母の手を止めたのは、父だった。
安堵感はすぐに絶望へ変わる。


「イヤだ! やめて!」


暗い部屋。
何もない。
一人ぼっち。
泣こうが叫ぼうが、自分の声が響くだけ。

“どうして?”

“愛情”を欲しがったせいで……
制裁を全身に浴びた。
パン一切れの為に死ぬ程の思いもした。


「……カルロ? だいじょうぶ?」


子供は残酷なもので、優しくされると嫌でも懐く。
例え、差し出された手が憎き者のモノだとしても……


「ゼクス……どうして君は僕に優しくしてくれるの?」


そんな素朴な疑問。
彼は当たり前のように──


「大好きなお兄ちゃんだからだよ」


と、答えた。


「僕もゼクスが大好きだよ」


僕に優しく接してくれた、ただ一人の身内。
何があっても僕が“弟”を守ると決めた。
両親が亡くなって、漸く“当たり前の日常”が訪れた。

“彼”は今、僕と一緒に暮らしている。
守ると心に誓った。
“恩返し”という名の優越感に浸っているだけかもしれない。

──彼は騒音(ノイズ)であり安定剤(くすり)でもある──





OASIS/Janne Da Arc
END.
(2024.09.13)
1/1ページ
    スキ