Lady Alice III
「アリス?…何だ。また眠っちまったのかよ」
後ろから微かに聞こえる寝息にオレは、つい笑う。話してる途中で寝るなんて、やっぱりまだお子様だな。
アリスには迎えに来るヤツが誰もいなかったからと言ったけど、あれは嘘だ。
学校からアリスが倒れたと連絡がきた時、正直、焦った。急いで迎えに行けば、アリスは保健室のベッドでグースカと眠っていたが。
ま、その姿を見て、安心したけど。
少し前は子供だとばかり思ってた。中身もそうだから。それなのに、少しずつ成長はしている。出会った頃に比べたら。このまま成長しないでいてくれねェかな。コイツが子供のままなら、ずっと傍にはいられる。専属執事でなくとも。
ここに来た当初、周りの何もかもが敵にしか見えなかった。アリスが近づいてきた時も煩わしかった。
“おにいちゃん、キズだらけ。いたくないの…?”
“痛くねェよ。てか、触んな。あっち行け”
ガキなんかと関わり合いたくねェ。冷たくすれば、すぐ泣きそうな顔でどっか行く。
このガキもいなくなる…と思ってたら、そのガキはオレの手に触れてきた。
“いたいの、いたいの、とんでけー!”
“お前、何してんだよ!?”
“おにいちゃんのかわりに、いたいのとばしてるんだよ!いたくないでしょ?”
そんなことで痛みがなくなるわけねェ。それくらいわかっているのに、そのガキはマジで信じていた。純粋過ぎて、それがおかしかった。未だにこんなガキがいるのかよ。
ソイツの間抜けな顔につい笑う。
“…っ、はは。あははは…!”
“おにいちゃん…?”
オレ、笑えたんだ。笑えることなんて、忘れたと思っていたのに…。
こんな下らねェことで。
“お前、面白いな”
“おもしろい?なんで??”
不思議そうに首を傾げるアリス。
思えば、あの頃から純粋だった。
そのまま大きくなった。いつまでもこのままでいて欲しい。
だけど、いつかは大人になっちまう。
アリスにはそのままでいてほしいと思う一方で、早く大人になってほしいとも思ってしまう。
矛盾してるな、オレ。
【END】
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