Lady Alice II





「アリスじゃん。何してんの?」

「ライだ。来てたんだ…」

「来ないわけねーじゃん。ここの家、うちとも交流あるし」


それもそうか。うちも呼ばれているんだから、ライの家も呼ばれてるよね。

彼はいとこのライ。歳は私より三つ上の15歳。よくうちの家に遊びに来るが、誰も呼んでいない。勝手に来るのである。うちのパパが好きなのか、やたら馴れ馴れしい。パパもライのことは可愛がっているのか、嫌がるどころか受け入れてるし。うちに息子がいないからもあるのだろう。

ライはクロノお姉ちゃんとは、意外に仲が良く、出かけたりもするみたいだが、それ以外の姉妹とはそんなに仲は良くない。私もどっちかというと、苦手だ。いまいち掴めないから、振り回されるし。



「で、何でここにいんだよ?こういうパーティーの時はいつもデザートのところから離れねーじゃん。お前」

「うっ。……変なおじさんがいて、怖くなって、パーティー会場から逃亡してきたの」

「ぶあははは!ウケる!」

「そこまで笑わなくてもいいじゃん!」

「だって、逃亡とか言うから…!笑いが止まんねー!」


失礼な!
私は真剣に言っているのに…。隣に誰かいれば良かったけど、一人だったから逃げるしかなかった。



「そんなに怖かったのかよ」

「怖かったよ!笑い方が不気味だったし」


思い出しただけで、ゾッとする。ある意味、ホラーだよね。
でも、あのおじさん、今まで見たことないんだけど、単に私が覚えてないだけかな?うーーーん。

しばし考えていたら、すごい至近距離にライの顔があって、私は思わず後ずさった。



「……ビックリした!」

「ちぇっ、気づいちまったのかよ。でも、いいや」


いきなりライに手を掴まれる。てか、力が強い!?簡単に離せない上に少し痛いし。



「ちょっと!何するの…」

「今なら邪魔なヤツらがいないから、手でも出そうかと思って」

「嫌だよ!それに私はライの好みには絶対に合わないから。あー、合わない!合わない!」

「合わなくねーよ」


そう言って、ライが近づいてくる。
ひいっ!やだ、やだー!ライとなんてごめんだ!私はリク先生みたいな人がタイプだもん。
しかし、このままじゃ、ファーストキスが奪われてしまう。好きでもない人となんかしたくないよ!

誰か助けて!!



「このっ、恥さらし!!」

「痛てっ!……邪魔すんなよ。メア」

「メアちゃん…」


私の目の前にメアちゃんがいて、ライから救ってくれた。神はいたー。良かった!
メアちゃんは、ライと双子で私のいとこでもある。ライとは違い、まとも。優しいし、たまに私とも遊んでくれる。
というか、メアちゃんが助けてくれなければ、私は今頃ライと……恐ろしい想像をしてしまった!



「もう見境なさすぎ!アリスちゃんが嫌がってるのもわからないの!?」

「嫌も嫌も好きのうちかと思って」


ポジティブ過ぎる!
そんなわけないじゃん。嫌なものは嫌に決まってる。私、そこまでひねくれてないよ。



「アリスちゃん、大丈夫?ごめんね。この見境がない獣で」

「平気!メアちゃんのお陰で助かったから」

「本当にごめんね…。ほら、ライもアリスちゃんに謝って!」


ライの方に振り向く。
しかし、ライは既にその場からいなかった。相変わらず逃げ足は早い。



「あの野郎…!」

「メアちゃん、いいよ!もう大丈夫だから」

「大丈夫?帰ったら、ライを叱っておくから!」


それからメアちゃんとそこでおしゃべりしていたら、いつの間にかパーティーはお開きとなったらしい。帰る人の姿が見え始めた。メアちゃんと別れて、私はうちの車が待つ場所に向かった。そこには運転手のシゲさんがいて、私を見て、少し驚いていた。



「アリスお嬢様、お早いですね」

「うん。途中から会場にいたくなくて、メアちゃんとテラスにいた」

「何かあったんですか?」

「ううん。人が多すぎて、疲れただけ」


助手席に座って、シゲさんと話してると、突然ドアを開けられた。



「アリス!こんなところにいやがったのかよ…」

「ハルク。どうしたの?」

「お前が会場内にいないから、ずっと探してたんだぞ!どこにいたんだよ…」

「あー、トイレに言ったら、帰り道わからなくなっちゃって、ずっとテラスで休んでた…」


嘘ついた。
あのおじさんがいる会場に戻りたくなかったから、ずっとテラスにいた。ライに襲われそうにはなったが、幸い未遂だし。

そこへパトカーがやって来て、止まる。警察官が二人出てきて、屋敷の中に向かって行く。



「あれ?どうしたんだろう?」

「あー。泥棒が捕まったんだよ。さっき、犯行を見たヤツが捕まえて、通報してたからな」

「泥棒?」

「パーティーの招待客にまぎれて、招待客の持ち物を盗んでたらしいぜ」

「え!?」


少しして、さっきの警察官達が犯人を連れて、出てきた。その犯人の顔は、私にニヤッと笑いかけてきたあの不気味なおじさんだった。



「あのおじさん…」

「ん。お前も何か取られたのか?」

「取られてはないけど、あの人とぶつかっちゃって。いきなり話しかけられて、怖くなって逃げたの」

「はあ?何ですぐ言わねェんだよ!」

「だって、世間話に行けって言われた直後だから戻りづらくて」

「あー。アレか…。何ともなくて、良かったけど。何かあったら、すぐに言えよ?」

「うん…」


それからお姉ちゃん達も車に戻って来て、全員車に乗り込む。走らせて、30分後に屋敷へと帰って来れた。

車から降りて、体を伸ばす。

さて、早く着替えて、お風呂に入ろう!でも、疲れたからシャワーにしようかな。明日、お休みだし、朝にゆっくり浸かろうかなと考えていたら、ハルクに腕を掴まれた。



「アリス。お前、風呂入る前に運動するぞ」

「えー!」

「えーじゃねェ。そのまま寝たら、脂肪がつくだけだぞ。お前、パクパク食べて、かなりのカロリー取ってたんだから。マジで豚になりたくねェだろ?」

「そうだけど。明日じゃだめなの!?」

「ダメ。ほら、行くぞ」

「えー。誰か助けて!」


後ろを振り返るが、皆、手を振るだけで助けてくれなかった。



「ひどい。皆して…。私の味方がいない!」

「当たり前だ。ほら、さっさと自分の足で歩く」

「ハルクの鬼!悪魔!」

「はいはい。その怒りは体を使え」


その後の私は、ハルクのスパルタ式の運動によって、カロリー分、体を動かされた。ただでさえ、体力がないのに終わる頃にはヘトヘトになってしまった。この状態でお風呂は無理だったから、シャワーで済ませるだけにした。
シャワーから上がり、部屋に戻るなり、私はベッドの上に倒れ込むように寝た。

太らなくて済んだものの、翌日は筋肉痛で部屋から出られなかった。


部屋に来たハルクに文句を言えば、「オレのせいじゃねェ。自業自得。普段から体をもっと動かせ」と言われたのである。解せぬ。

筋肉痛は絶対にハルクのせいだよ!バカー!





【END】
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