Alice the Witch Ⅲ (中)




それから場所を変えて、私とライは訓練場に来た。少し離れたところにクラスメイト達も私達の勝負を見に来ていた。

訓練場の的当てのところで、ライが私に言った。



「いいか?あの的にどれだけ多く当てて、総合点数が高い方の勝ちだからな」

「うん。それでいい」

「じゃあ、おれが先攻。……ハルク、見てろよ?数分後には、おまえの主はおれになってるからな」

「んなの、まだわかんねェだろ!」


ライは、完全に自分が勝つと思ってる。ハルクを渡したくないのもあるけど、何よりこの人に負けたくなんかない!



「カルロ!」

「……はい」


名前を呼ばれた黒猫がライの肩に乗る。目の色は、銀色だ。あれ?半年前、この子はいなかったはず。よく連れていたのは、珍しい白猫だったのに…。

ライが唱えると、光が集まり、それが威力を増して、的へと飛んでいく。真ん中近くに当たったそれは、80と表示された。



「ま、こんなもんか」

「……っ」


自信あるだけに、高得点を叩き出すライ。
次は私の番だ。ハンデをもらい、30点からのスタート。

真っ直ぐに的を見ながら立つ。久々に立ったせいか、やけに遠く感じる。私はちゃんと当てることが出来るのだろうか。と、そこへハルクが私の肩に乗って来た。



「アリス。落ちつけ。ちゃんと集中すれば、必ず的に当たる。お前なら出来る」

「うん。わかった」


ハルクの力を借りながら、私は唱える。
だが、私が放った魔法は中心にまったく当たらず、あと一歩ずれていたら、点数もつかない的ギリギリのところ。点数は5だ。それにライや見ていたクラスメイト達は盛大に笑う。



「だっせー!見たかよ。こいつ、予想以上にひでーわ。流石、落ちこぼれモブ子だわ!」

「アリス…」


クスクスと笑う声に私は、逃げたくなった。でも、ここで私が止めたら、ライにハルクを奪われてしまう。それだけは阻止しなければ。

しかし、その後。
いくらやっても、私の点数とライの点数は離れる一方だった。見事にライが優勢。私は、このターンで満点を取らないと負けが確定。

これで負けたら、私は…。
傍にいるハルクの顔が見られない。あまりに自分が情けない。ハルクはあんなにも私を励ましてくれていたのに、私が不甲斐ないばかりに…!

いつまでも動かない私にライが言った。



「バカだよな。おまえがおれに敵うわけねーのにさ!」

「……」

「雑魚のくせに、力がある使い魔を手にしても、宝の持ち腐れなんだよ」

「……」

「もう次はやんなくても、結果はわかってる。さっさと負けを認めて、その使い魔をよこせよ。おまえには前の使い魔でさえ、上手く扱えなかったんだから」


前の使い魔、リクのことだ。
確かにそうだ。リクはいつも失敗ばかりの私を見捨てず、助けてくれた。ハルクのように励ましてくれていたのに…。



“大丈夫。アリスなら出来る!僕はいつも見てたから。自分の力を信じて”


リクがくれた言葉。もうその声を聞くことは出来ないけれど。でも、リクがいたから、私は頑張れたんだ。

それなのに!



「あー、あんなことになるなら、おまえからあの使い魔を奪えば良かった。結構、タイプだったんだよな。特に人の形を取った姿は。声も良くてさ。あの声なら、さぞ楽しめると思ってたのにさ。それなのに、あの使い魔はおまえのせいで死んだんだろ?弱いおまえが足手まといなせいで。かっわいそう!おれの元にいればさ、もっと長生き出来たのにな」

「!!」

「あの野郎…!アリス、いいのかよ。あんな言われて悔しく……アリス?」


私のせいなのは、私が一番わかってる。どうして、こんなやつにそこまで言われないといけないの!あんたに私の何がわかるのよ!!
許さない。許さない!こんなやつに負けたくない!絶対に負けたくない!!

私は目を閉じて、集中する。力を集めて、溜める。……まだだ。これだけじゃライに勝てない。もっと強い力を集めなきゃ。

お願い。力を貸して!リク。

そんな私の願いに応じて、強い力がどんどん集まってくるのがわかった。これならいける。

……………今だ!
私が唱えると、一気に的の中心へ向かう。それはど真ん中に命中して、得点が表示された。

現れた数字は、ライも出さなかった100だ。さっきまで余裕の表情のライの顔が変わった。



「嘘、だろ?おれがモブ子に負けた…」

「アリス、やったな!」

「勝てた…?」

「ああ、逆転勝ちだ!」

「良かったー!」


私は嬉しさのあまりハルクを強く抱きしめた。勝てた!勝てたんだ!私、ライに。良かったー!あれで負けていたら、私自身が許せなかったよ。



「ば、か。強すぎ…苦し……っ」

「ごめん!大丈夫!?」

「ああ。……それだけ嬉しかったんだろ?」

「うん。ありがとう!ハルクー!」


これでハルクを奪われることもない。
そういえば、ハルクの力を最初に使った時は、真ん中には当たらなかったけど、リクの力を使った時と比べると馴染みやすかった。

何でだろう?リクの力を初めて使った後、最初だから力の勝手がよくわからなかったせいあるかもしれないけど、なかなか馴染まなかったんだよね。それなのに、ハルクの力は違和感なく、一瞬で馴染んだ。



「………」

「どうした?アリス」

「何でもない」

「あの」


ふとライの使い魔の子が私の傍にやってきて、話しかけてきた。ハルクよりも少し大きいが、手足が長く、スラッとしてる。猫なのに…。



「あなたが勝ったのならば、僕はあなたの使い魔になるということですよね?」

「へ?」


あれ、そうだっけ?ライが私に勝ったら、ハルクを寄越せとは言っていたけど。しかし、今回は私がライに勝った。となると、私がこの子を貰うの?ま、いっか。ライには他にも使い魔はいるみたいだし。



「そうだね」

「アリス!」


ハルクが私を呼んだが、深く考えずにそう答えた。すると、その黒猫はニッと笑う。



「言質、貰いました」

「カルロ!何言って…」


ライが慌てたようにその使い魔の子に言うが、その子はライに向かって、笑いかける。



「というわけですので、僕は彼女の使い魔になります。さよなら、ライ。お元気で」

「ふざけんな!カルロ」


ライの使い魔だった黒猫が姿を変えて、人の姿に変化する。その姿がまたイケメン。勝負を見ていた女子達が色めき立つ。
私が言葉を失っていたら、「失礼します」と言いながら、私の左手を取り、何かを唱えた。そして、左手の甲に軽く口づけした。

その瞬間、私の身体にその子の力が吸い込まれた。最初だけ静電気のような痛みが走ったが、拒絶反応はない。身体を駆け巡るもあっさりと馴染んだ。



「大丈夫ですか?」

「はい。何とか……っ!」


しかし、私の返事とは裏腹に身体は前のめりに倒れそうになる。だが、地面にはぶつかることはなかった。



「……っ、危ねェ…」

「ハルク。ありがとう…」


人の形を取ったハルクが助けてくれたからだ。そんなハルクの姿を見た女子達が騒いでいた。中には私を睨む子までいたし。



「無理すんな。初日なのに、力をめちゃくちゃ使ってんだぞ、お前は」

「そうだね」


確かにオーバーヒートして、また明日から休む羽目になってしまう!それだけは避けたい。やっと学園に来たのに…。



「お久しぶりですね、ハルク」

「カルロ。お前、アリスに…!」

「少し強引でしたが、合意契約させていただきました」

「え?契約??」


私が目を丸くしながら、そう言うと、目の前にいる彼はにこっと笑った。



「はい。改めまして、カルロと申します。今から正式にあなたの使い魔になりましたので、どうぞよろしくお願い致します」

「私はアリス・マチェドニアといいます。こちらこそよろしくお願いします。カルロさん」

「さんはいりませんよ。あと敬語も不要です。僕はあなたの使い魔ですから」

「わかりま……わかった。私もアリスでいいから」

「はい。わかりました」


自己紹介をしていた時も、ライが何度もカルロの名前を呼ぶが、無視していた。しかし、あまりにしつこいからか、カルロは鬱陶しいと言わんばかりの表情をライに向けた。



「カルロ!!」

「さっきから喧しいですね。あなたはもう僕の主ではありません。今すぐに視界から消えてください」

「ひでー!」


笑顔で毒を吐いてる。というか、怒ってない?カルロ。ライは怒っているのが見えてないの?目は悪くないはずなのに。



「カルロ。お前、アレでも一応は元主だろう?」

「アレに仕えていたという時点で汚点ですよ。ですが、僕にはもう彼女がいますので」

「カルロ。帰って来い!」

「しつこいです。彼女と話がしたいのに、ここでは邪魔が多いようですね。アリス。僕と一緒に移動しましょう?」

「え?」

「待て。カルロ!話はまだ終わって…!」


ライがカルロの肩を掴む前に私の手を引いて、どこかに移動をした。

気づくと、私は屋上にいた。さっきまでは訓練場にいたのに。これって、瞬間移動!?



「すみません。いきなり移動してしまいまして。こうでもしないと、うるさい人と離れられなかったので」

「私は大丈夫だけど…」


いつの間にか猫の姿に戻ったハルクが私の肩にぶら下がっていた。きっと慌てて私にしがみついたのだろう。



「カルロ!いきなり移動すんな!」

「仕方ないじゃないですか。あの厄介な男を撒くには、瞬間移動しかなかったもので。でも、君もちゃんとついて来れたじゃないですか」

「そう言う問題じゃねェ!」

「ここなら誰もいませんし、ゆっくりお話が出来ますね」

「え、でも、授業が…」

「授業なら、ないですよ。自習になってるようですから」


カルロが見せた映像には、現在の私の教室の様子が映っていた。黒板には、自習と書かれていた。クラスの半分以上は私達の勝負を見に来ていたからね。教室に残ったクラスの子達も好きなように過ごしているようだ。



「カルロ。私に話って?」

「ただ話すだけというのも、何だか味気ないですね。よし。こうしましょう!」


そう言うと、カルロさんはパチッと指を鳴らす。その瞬間、私の前にイスとテーブルが現れ、座るように促された。言われた通りに座ると、テーブルの上にはお菓子や紅茶などが置かれた。すごい!



「どうかしましたか?」

「使い魔も普通に魔法が使えるんですね!」

「使えますよ。僕らの力がないと使えないのは、人間の方ですから。そこでふてくされてる猫くんも使えますよ」

「え!?そうなの?」


私は、猫の姿でムスッとした顔で机の上に座っているハルクに声をかけた。





【to be continued…】
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