Alice the Witch Ⅲ (前)




今日は久々の学園だ。半年ぶりに登校した。リクが亡くなってから、休んでいたから。そんな私の肩にハルクも猫の姿で一緒に来ていた。私達は校門の前に立ち、校舎を見上げていた。



「ここがお前の通う学園か。てか、ここって、名門エリート魔法使い養成の学園だぞ?お前、よく入れたな…」

「ちょっと今、バカにしたでしょ!筆記試験は出来るの!」

「あー。実技がダメダメなわけか…」

「……さて、久々だし、先生に挨拶しに行かないとね!」

「図星かよ、おい」


聞こえてないフリをして、私は門をくぐり、校舎へと入った。

この学園では、使い魔と一緒に勉強をするところでもある。魔法使いになれたと言っても、まだ見習いレベルの私。
ちなみにこの学園以外で魔法を教わるとしたら、魔法使いに頼んで弟子入りするしかない。けれど、弟子入りしたからといって、全員がなれるわけではない。中には、都合の良い小間使いのようにされて、ボロボロにされ、魔法使いになれなかった人もいるのだ。

実はお姉ちゃんやお兄ちゃんもこの学園に通っていた。落ちこぼれの私とは全然違う。むしろ二人は、将来を期待されているほどに有望だ。
そんな二人の妹だから、私も最初は期待されていたが、あまりのひどさに今では話にも上がらない。たまに悪口言ってくる人もいるけど、本当のことだから気にしてない。


用を済ませて、教室にやって来ると、皆が私を見る。だが、私はまっすぐに自分の席に向かう。教室内では、仲の良い子達がグループで集まって会話していたり、自分の使い魔と話している子などと、様々だった。中には私を見て、何か話している人達もいたようだが、私は教室に入る前から魔法で声を遮断しているから、聞こえていない。大体の想像はつくし。私の話題よりも、皆が気になっているのは、私の傍にいるハルクなのだ。
席に座ると、ハルクが私の机の上に降り立つ。



「それにしても、すごい視線だね…」

「ん?そんなの今だけだろ。気にすんな」

「違うよ。皆が見てたのは、ハルクだよ!」

「オレ?」


職員室でも教室でも、皆が注目しているのは、ハルクの存在だ。決して、私ではない。



「うちの学園、使い魔で金色の目の子はいないから。さっき、先生が話していたでしょ?」

「あー。そんなこと言ってたな」


教室に来る前に職員室に行ってきた。復学と私の使い魔は、リクのままだったから、書き直すためにだ。本当はハルクに新しい相手が見つかれば、変更しなくてもいいんだけど、ハルクがちゃんと変更しろって言うからだ。その際にハルクを見せたら、職員室内にいた教師や生徒達が驚いていた。



「金色って、本当に珍しいんだね…」

「人間からしたらな。オレには面倒事を引き起こす要因にしか感じねェけどな」


私は気にしたことはないけれど、リコリスお姉ちゃんから教えてもらった。
魔法使いの間では、金色の目を持つ使い魔を手にすれば、幸運を呼び、将来偉大な魔法使いになれると言われている。この世界の昔の偉大な魔法使い達の中にも、金色の目を持つ使い魔が傍にいたらしい。だから、目の色を変えて探す魔法使いもいる。

そんなハルクをジーって見ていたら、視線に気づいたハルクがこちらを見る。



「何だよ?」

「別に。猫の姿は可愛いなと思って…」

「は?」


そこへ教室のドアが大きな音を立てて、開いた。入ってきたのは、クラスメイトで問題児のライ。見た目は良い彼だが、異性や同性、好みならば口説き落とし、すぐに身体の関係を持とうとする超危険人物である。しかも、好みであるなら使い魔にすら手を出すと聞いた。

だが、その問題を抱えていても、教師達は何も言わない。素行は悪くても成績が優秀なのと彼の家が名門の家柄であるため、誰も逆らえないからだ。
ちなみに私は、彼に認識されていない。自分と同じくらい優秀、または容姿も彼の目を惹かないと話しかけないからだ。その点は平凡で良かったと私は、思っている。

だが、そんな彼が何故か私の方を見ていた。いや、彼の視線はハルクに注がれていた。そして、こちらに来ると、案の定、ハルクに話しかけてきた。



「あー!!おまえ、こないだの使い魔だよな!」

「げっ。お前もこの学園かよ…」

「知ってるの?」

「オレに使い魔になれって言ってきたヤツがいたって話したろ?それがコイツ」


え、あれはライのことだったの?思っていたら、ライが私を見て、ゲラゲラと笑い出す。



「てか、おまえの相手って、落ちこぼれモブ子じゃん!マジかよ!こんなのがいいのか。趣味悪!」

「うるせェな。別にいいだろ。オレがコイツだと決めたんだから」

「落ちこぼれモブ子…」

「こんなどこにでもいそうなモブ女なのに?おれ、こんなのに負けたのかよ」


私を見て、ゲラゲラと笑うライ。本当にこの男は、嫌なやつだ。こんな人前で私を平気でバカにするし。教室内でも、ライの言葉に賛同してるのか、私を嘲笑っている人達もいた。



「……」

「アリス。大丈夫か?おい!」


少し暗い気持ちになっていた時、ハルクが私を呼ぶ。その声に我に返る。



「大丈夫…」

「何?落ち込んでんの?事実じゃん。てか、姿、見ねーから辞めたと思ってたぜ。筆記は出来るのに、実技は赤点スレスレ。そんなおまえに金色の使い魔なんて、もったいねーよ!おまえとは対照的におまえの姉貴は、美人で才能あるのにな。何もかもがおれに釣り合うトップクラスの女なのに、使い魔はすげー弱ぇヤツを連れてるし。マジでうけるわ!」


私のことから、何故かリコリスお姉ちゃんの話になっていた。すげー弱い使い魔とは、おそらくタスクのことを言っているのだろう。確かにタスクの力は弱いけれど、そこまで言わなくてもいい。どうして、関係のないライにそんなことを言われなくてはならないのだろうか。

だんだんとライに対して、怒りがわいてくる。思わず私は、イスから立ち上がった。



「コイツ……アリス?」

「私のことは何を言っても構わないけど、お姉ちゃん達のことまで悪く言うのは許せない!」

「何だよ。勝負するか?落ちこぼれモブ子」

「するわ!私が勝ったら、さっきの言葉は訂正して、謝って!」

「いいぜ。おまえがおれが勝つことが出来たなら、いくらでも謝ってやる。おれが勝ったら、その使い魔はおれに寄越せよ」


ライがハルクを指差す。ハルクはライを静かに睨んでいた。



「おれのところにそいつが来れば、全部の使い魔が揃うんだ」

「誰がお前のところになんか行くかよ!」

「落ちこぼれのモブ子がおれに勝てるわけはねーよ。負けは見えてるから、それじゃあつまんねーよな。少しはハンデやるよ。おれ、超優しい!」


ハンデなんかいらないと言いたかったが、私とライがそのまま戦えば、私の負けは目に見えている。ここは素直にハンデはもらっておこう。

だけど、絶対に勝ちたい!!ライに負けたくなんかない!!





【to be continued…】
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