Lady Alice I
リコリスが妹に手を振りながら、見送った後。
ふと開いてるドアの後ろに向かって、声をかける。
「いつまでそこで見ているの?はあくん」
「……気づいてたのか」
ドアの後ろから、ハルクが顔を覗かせた。それにクスリと笑うリコリス。
「どうしたの?そのふて腐れたような顔」
「カルロにネチネチと小言を言われてたんだよ」
「聞いたわ。クロノ姉さんの買い物に行かなかったんでしょ?」
「たまたまアリス達が別の車にいたから、間違えたんだよ」
「あら、間違えてないでしょ?アリスがいたから、乗ったんでしょう」
黙ってしまうハルク。
そんな彼にリコリスも静かに笑うだけ。
「リコリス、アイツに優しいな」
「妹は皆可愛いわよ。でも、あの子だけは特別。何をしても優先させたいの」
「本当は約束あったんだろ?」
「えお、あったわ。でも、あまり行く気しないパーティーだったから、どうしようかと考えていたの。そんなつまらないものに行くくらいなら、可愛い妹と過ごしたいじゃない?」
それを聞いて、ハルクは息を吐く。
「うちの屋敷には、アリス贔屓が多いな」
「そうね。でも、あの子の一番近くにいるのは、あなたよ。はあくん」
「……」
「黙っていたってバレバレよ?あの子は気づいていないけれど」
「アイツ、鈍いからな…」
そう言い、ハルクもその場を離れる。
彼が向かう先は、勿論───
部屋に向かうと、アリスはベッドの上に寝転がり、漫画を読んでいた。近くにはティーン向けのファッション雑誌もあった。どちらも昼間、買い物に行った時に本屋で買ったものだろう。
ハルクが来ても、全然気づいていないアリス。本を読んでいると集中するせいか、周りにまったく気づかない。アリスの悪い癖でもあった。
(本当に夢中になってると、周りが見えねェんだな、コイツは…。家だからって、安心してると危ねェぞ)
以前、執事の中にもよからぬことを考えてる者がいた。姉妹の誰かを襲おうと考えて、仲の良い同期に話していたのだ。その話を偶然聞いたハルクは、他の執事達にその話をして、なるべく姉妹全員を一人にさせないように守っていた。
幸か不幸か、その男は同期と一緒にクロノを狙い、襲おうとしたが、反対に返り討ちに遭い、警察に通報され、そのまま二人はクビになった。
しかし、またいつ同じようなことを考えるヤツが現れてもおかしくない。
そう考えたハルクは、アリスの読む漫画を取り上げた。
「はい、没収!」
「ちょっと返してよ!まだ読んでるんだから」
「ふーん。いつもとはちょっと違うじゃん」
アリスが漫画を取り返そうとするが、ハルクはアリスの読んでいた漫画を奪われないようにかわしながら読む。アリスにしては、珍しくリクに似た男子がメインで出てる恋愛漫画ではなかった。内容は、ある屋敷に働いているメイドの少女と屋敷の息子である年下の少年の漫画。
その二人を見ていると、どうも既視感を覚えた。
(なんか似てんだよな、この二人。オレとアリスに。まるでオレ達の立場を反対にさせたような…)
「ハルク!」
「っ……痛てェ!」
いきなり腹を殴られ、その痛さで思わず読んでた漫画を手放す。
「お前、腹を殴るな。痛てーだろ!」
「ハルクが悪いんじゃない!私の漫画を取るから。もう出てって!」
アリスに背中を押されて、部屋から追い出されるハルク。しかも、鍵をかけられたらしく、開かない。こうなると、もう入る手立てはない。
(仕方ねェ。今日は部屋に戻るか。はあっ、あの部屋、全然落ちつかねェのに。今から言いに言って、部屋を変えてもらうかな。そうするか…)
ハルクは方向転換をして、とあるところへ向かう。しかし、相手は不在なため、話は出来ずに終わったのだった。
翌日。
彼は寝不足のまま、アリスの部屋に向かう。部屋の主は学校に行ってるため、今はいない。部屋に入ると、ベッドの上に寝転がる。
(この部屋、やっぱ落ちつく。ちょっと寝るか…)
目を瞑ると、彼はすぐ眠りにつく。
だが、よほど疲れていたのか、学校から帰って来たアリスに見つかり、叩き起こされるまで、ずっと寝ていたのだった───。
【END】
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