Lady Alice X
【side H】
電気を消した後、すぐ隣から寝息が聞こえた。見ると、アリスが寝ていた。流石、お子様は寝るのが早い。頬をつついても、全然起きやしねェ。「えへへ…」ってにやけていた。こういうところは、昔から変わらねェよな。
「リコリス。お前を守るとか言ってたナイトが、さっさと寝ちまったぞ」
「ふふっ、そうね。可愛い寝顔よね。ずっと見てられるわ(*^_^*)」
スヤスヤと眠るアリスを見て、リコリスはニコニコしながら、そう答えた。リコリスの場合、本当に朝までアリスの寝顔を見てそうだな。
「寝ろよ?」
「今日のところは寝るわよ。あちこち歩いたから、疲れているし」
疲れていなかったら、アリスの寝顔を朝まで見てるってことかよ。リコリス、アリスに対してだけ、異常過ぎるんじゃねェか。年々ひどくなってきた。
「アリス、このままでいてくれないかしら」
「ん?」
「成長しないで欲しいわ」
「成長ね…。外見はともかく、中身は全然成長してねェぞ、この怪獣は」
再びアリスを見れば、今度はよだれを垂らしそうな顔をしながら、「おいしそう…」って呟いていた。夢の中でも食い意地が張ってるみたいだ。コイツ、本当に色気より食い気だよな。
「あら、この可愛い怪獣に救われたんでしょう?はあくんは」
「…………否定はしねェ」
コイツがいなかったら、リコリスとも他のヤツらとも仲良くなることはねェまま、とっくに屋敷も出ていただろう。
屋敷を出た後の自分なんて、想像出来ねェけど。きっと誰かを傷つけてながら、生きていたかもしれない。引き取られる前に少しやっていたような悪いことにも、どんどん手を染めていたかもしれない。どうしようもないところまで堕ちていた未来だったろう。
「私ね、アリスがいなかったら、今の自分でいなかったんじゃないかと思う時があるの」
「アリスいなくても、お前なら…」
「ううん。アリスがいなかったら、適度にこなしていただけだと思うわ。大抵のことは出来てしまうから。アリスが私のことを褒めて応援してくれていたから、何でもそれ以上に頑張れたのよ。アリスがいたから、今の私があるの」
リコリスも人知れず悩みは抱えていたんだろう。オレとは違う苦悩。共感も理解も出来ねェし。したところで、リコリスは望んではいない。
「この子自身は、助けてるという意識はないの。でも、無意識に救おうと手を伸ばすの。だから、うちにはアリスを守る人間が多い。たまにアリスを邪険にした人達もいたけど」
「いたな…。顔はもう思い出せねェけど」
「思い出せなくていいわよ。私の天使にひどいことした輩なんて(`ー´)絶対に許さないわ!」
輩…。リコリス、アリスを邪険にする人間が一番嫌いだからな。ま、過去にそういうヤツもいたのは事実。オレも何度かボコボコにしてやったな。ちょっとして、屋敷からいなくなっちまうけど。
「だけど、うちには優秀な執事がいるから、アリスに何かしようとする人間は、容赦なく追い出されるのよ。その相手の弱点を掴んでね」
「執事?」
「ええ。彼が来てからは、本当に仕事が早いのよ?はあくんもわかってるでしょ。今日だって、車が出せないとなったら、すぐに近くのホテルを手配してくれたんだから」
「あー、カルロか…」
それを聞いて、リコリスの言う相手がわかった。
アイツもアリスには甘いんだよな。オレには、たまに笑顔で毒を吐くところあるし。プライベートなことは全然話さねェのに、アリスに聞かれたら、普通に話すんだよ。何気なく「ロリコンかよ」とか軽く言っただけで、仕事を三倍増やしやがった。しかも、二週間ずっとだぜ?あん時は、マジで大変だった…。それからカルロには、変なこと言わないようにした。後が怖ェし。仕事量も増やされるからな。
「そういう点では、私達は皆同士なのよ!アリスを守る会という」
「……それ、オレも入んの?」
「当然よ。私がリーダーなら、はあくんは副リーダーなんだから」
さも当然とリコリスがドヤ顔して言ったけど、オレはそんな会に入会した覚えはねェぞ。
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