Lady Alice Ⅸ(前)




数時間後。
クロッカスが「夕食のお時間です」っとリコリスを呼びに来て、二人でダイニングに向かって行った。リコリスは、すげー暗かったけど。

あの後、行動力が無駄にあるリコリスは、すぐに父親であるインカローズ様に電話をかけた。外出先だったが、すぐに電話に出たらしく、リコリスがさっきの話をし出す。アリスのメイドになりたいと頼んだが、オレの予想通りに却下されたようだ。電話を切ってから、ずっーと落ち込んでいる。却下されるとは思っていなかったらしい。いや、普通は反対するから。何で賛成すると思うんだよ。

その傷を癒そうと再びアリスのアルバム集を眺めるリコリス。たまに写真のアリスに頬ずりしたり、指でツンツンしたりと、若干のアリス禁断症状が出ていたようだが、それを見ないフリした。
へたに構うと、オレがアリスの代わりにされてしまう。一度身代わりにされたことがあり、あれは本当に心臓に良くねェ。普段、リコリスに女を感じたことねェけど、その時だけは理性がギリギリ保てたから、何ともなかったが。触らぬリコリスに関わりなしである。
たまにリコリスから、ジーっと視線を寄越されたが、気づかないフリで済ます。

そして、クロッカスが呼びに来るまで、ずっとオレ達は無言だった。



さて、リコリスも飯に行っちまったし、オレも食って来よう。そう決めると、リコリスの部屋を出て、鍵をかける。これでよし!


使用人用の食堂に入ると、何やら皆がオレの顔を見てきた。中にはオレを見て、ヒソヒソと話していた。何だ?オレの顔に何かついてんのか。でも、今日は掃除してねェし、顔は汚れてねェはずなのに。気にせずに最後尾に並ぶ。

並んでいる間も視線を感じた。その方を見てみると、オレを睨んでいたのは、一部のリコリスの熱狂的な使用人達による“リコリス様を影から守る会”のヤツらだ。あっちは特に害はないので、放っておく。だが、ヤツらよりも厄介な相手はいる。タスクさんである。

リコリス様を影から守る会にタスクさんは、入っていない。理由は簡単。タスク様は同担拒否だからだ。リコリスの話はしたいが、他のヤツらからリコリスの話を聞きたくないらしい。独占欲、強すぎる。
そんなタスクさんからは、より一層の殺意がこもった視線を送られている。あの人、視線だけで人を殺せそうだな。


本日の限定定食が乗せられたトレーを持ち、空いてる席に座って、手を合わせてから食べ始める。半分くらい食べていた時に、オレの向かい側の席に同じトレーを持ったドラが座ってきた。



「よお、ハルク。今日はアリスと一緒じゃなかったのか?」

「いや、今日は朝に行った。今まではリコリスの部屋にいたけどな」


オレがそう答えると、何やら周りが一斉にオレの方を見て、コソコソと話し出す。
だから、なんだよ。言いたいことあんなら、直接言って来いよな。オレは少し声を落として、ドラに聞く。



「ドラ。何か周りの様子がおかしくねェか?」

「何知らねェの?」

「だから、何がだよ!わかんねェから、聞いてるんだって」

「ハルク。お前さ、昼間リコリスと廊下にいただろ?」

「ああ。窓からリコリスがテニスコートにいたアリスとリンネを見てて、一緒に見てたら、アイツらの喧嘩が始まってさ」

「相変わらずリコリスと仲良いなー。お前くらいじゃね?リコリスといちゃつける使用人は」

「いちゃついてねェ!ま、仲は悪くはねェけど。そんでリンネと喧嘩したアリスがアガットに抱きついてたのに嫉妬して、リコリスがその場に乗り込もうとしたから止めて、ちょっとした言い合いになったな」

「あー。なるほど。お前ら的にはアリスのところに行かせない、行かせてって言ってるだけか。なーんだ。つまんねェの。噂通りなら面白かったのに」


ん?だから、どういう意味だよ??
そう思いながらも、オレは食事を進める。



「それ以外にねェだろ。ところで噂通りって、なんだよ?」

「それがさ、お前らの声だけを聞いたヤツからしたら、お前とリコリスが廊下でヤってんじゃないかって話になってるぜ?」

「はああああ!?」


オレとリコリスがヤってる??
んなわけあるか!てか、ライじゃあるまいし、廊下でなんかするかよ。アイツ、少し前にうちにいる使用人に手を出して、その場でヤろうとしてやがって。一緒にいたアリスが赤くなって、固まってたんだぞ。すぐにそこから連れ出したけど。本気でライを出禁にして欲しいくらいだ。

話がズレたな。そもそもリコリスをそういう目で見たことは一度もねェし。そんなオレの声にドラが耳を塞ぐ。



「うるせ。もっと小さく話せよ。で、お前が今、口にしたじゃん?今までリコリス様の部屋にいたって。廊下だけでなく、お前はリコリスと部屋でもヤってたと更なる話題になった」

「リコリスをそういう目で見たことねェから。アイツはダチだぞ!」

「マジ?それはそれですげーわ。中身はともかく、あのリコリスを見ても異性として見ないなんてさ。お前くらいだな。……ああ、そうか。お前、ロリコンだったな!」

「誰がロリコンだ!」


何でオレがロリコンなんだよ!ガキに興味なんかねェよ。



「だって、常にアリスの傍にいるじゃん。部屋に入り浸っているし」

「それは、そうだけど。オレは面倒を見てるだけ」

「アリスの部屋で一緒に寝たって話もよく聞くし」

「それはアイツが低学年くらいの時だよ!毎晩、絵本を読めって言うから、読んでやるんだけど、なかなか寝ないんだよ!身体をくすぐって遊んでたら、いつの間にかオレまで一緒に寝たことなら、何度か……って、そうじゃねェ!」

「仲良しじゃん。でも、アリスだけじゃなく、リコリスの傍にもいるだろ?部屋にまで入ってる上に合鍵まで持ってる。リコリスと仲良くなりたいヤツらからしたら、お前は嫉妬の対象なんだよ。だから、タスク達がお前のことを目の敵にしてんだろ?」

「守る会のヤツらは全然怖くねェけど、タスクさんがマジで怖ェ」

「タスクは、ガチの過激派リコリス教信者だからな…。今もお前のことを殺しそうな目で見てるぜ」

「食堂に来てから、ずっと背中に突き刺さる強い視線だけは感じる…」

「睨まれてねェオレですら、恐怖を感じるからな。それより早く食堂から出た方がいいぜ。タスク、マジでお前を殺ろうとしてるから」


ドラに言われ、タスクさんの方を見ると、タスクさんが食堂内にあるキッチンに入って行くのが見えた。

命の危険を察知したオレは、急いで飯をかきこむ。すばやく立ち上がり、空の食器が乗ったトレーを返却して、さっさと食堂を出た。





【to be continued…】
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