Lady Alice Ⅸ(前)
日曜日の午後。
リコリスが窓から外を見ていた。相変わらず顔がニヤニヤとしていたから、いるのはアリスなんだろう。確かにアイツを見てるのは、飽きないけどな。必ず一度は何もねェところで転ぶんだよ。
「何見てんだ?」
「はあくん。見て。下で天使達が遊んでいるの(* ´ ▽ ` *)」
「天使、達?」
何故か複数系だ。アリス以外に天使と呼ばれるヤツはいたか?
と思いながら、下を見る。そこにいたのは、アリスとリンネだった。なんだ。末っ子組かよ。テニスコートでテニスをしているようだ。しばらくそれを見ていた。
……。
ひでェな、これ。二人を見ていて、思った感想だった。
アイツらは試合をしているわけではない。ただ打ち合っているだけ。それだけなのだが、ラリーは数える程度しか続かず、すぐに途絶える。何度やっても、ラリーが全然続かねェ。
そして、毎回ミスをするアリスにリンネがブチキレて、叫ぶ。
「もーう!アリスのへたくそー!!」
「違うもん!リンネが打ち返せないところにばかりが打つからいけないんだよ!」
「はあ!?それはアリスでしょ!しかも、ノーコンだし!」
「む、私、ノーコンじゃないもん!」
揉めてんなー。
てか、アリス、何でテニスをやってんだ?お前、身体を動かすのは基本的に嫌いだろ。リンネに誘われて、たまにはやろうと考えてやってみたんだろうけど、運動音痴のアイツが運動神経抜群のリンネにかなうわけがねェのに。
「ふふっ、可愛いわねー(* ´ ▽ ` *)」
「お前の天使達、すげー醜い言い争いしてるけど」
「やあね、はあくん。あれは戯れてるだけよ(´・∀・)」
「……」
リコリスには、あの二人の言い合いは戯れてるだけに見えるのか。でも、あれはもう少しで県下が始まると思うぞ。
そして、予感は的中した。
アイツらは持っていたラケットを放り出して、取っ組み合いの喧嘩が始まった。
「あら…(・・?」
「天使達が取っ組み合いの喧嘩を始めてんぞ」
「……」
リコリスが黙ってしまった。
てか、リコリスにあの二人の喧嘩は刺激が強いんじゃねェの?間違いなく夢を壊してるよな。オレは、よくアイツらの取っ組み合いの喧嘩は見慣れてるけど。アイツらすぐに喧嘩するからな。
「あれは天使達の戦いなのよ!はあくん」
「……」
キラキラとした目で、そう言ってきたリコリスに思わずずっこけそうになった。どこがだよ!
「二人には互いに譲れないものがあるのよ!だから、それをかけて戦っているのね」
「いや、違う。絶対にあれは違ェから」
どう見ても、あれはただの喧嘩だ。どうしたら、リコリスはそういう考えになるんだ?理解出来ねェ。
それより、あの喧嘩を止めに行くか考えていたら、アイツらの近くにいたらしい二人のお付きメイドのアガットとピアニーによって、止められた。
が、今度は睨み合いながら、口喧嘩を始めていた。
「バーカ!」
「バカって言う方がバカなの!」
「運動オンチ!」
「むー!運動オンチじゃないもん!ちょっと苦手なだけだもん!」
「ちょっとじゃないでしょ?苦手じゃなくて、出来ないじゃん。それが運動オンチって言うの!やっぱりバカじゃん。バカアリス!!」
「リンネだって、歌は音痴じゃん!」
「それは今関係ないでしょ!バーカ。運動音痴のバカアリス!!」
「だから、バカじゃないもん!」
「バカじゃないなら、バカじゃないことを証明すれば?早く!見せてみなよ!……ほら、やっぱり出来ないじゃん!嘘つきアリス!」
「……っ」
おいおい。妹に言い負かされてるぞ。もうポロポロ泣いてるし。仕方ねェか。リンネ、口では絶対に誰にも負けねェから。
すると、アリスがアガットに泣きつく。
「うっ……アガット~!リンネが…リンネが私のことをバカって言う!」
「お嬢様はバカじゃありませんよ」
「ほら、言い返せなくなると、すぐにアガットに泣きつく。弱虫!泣き虫!」
「リンネ様。流石に言い過ぎです。アリス様に謝った方がいいですよ」
「っ!私、悪くないもん!ピアニーは私の味方じゃないんだ。もういい!」
そう言って、リンネはピアニーの腕から抜け出して、そこから走り去って行った。
「リンネ様!……ごめんなさい。アリス様。後で謝りに行かせますから」
「いい。だって、リンネは絶対自分が悪いって思ってないもん…」
「リンネ様も今は頭に血がのぼってるでしょうから、もう少し様子を見た方がいいんじゃない?ピアニー」
「そうね。私はリンネ様を追うから、後はお願い」
「わかった」
ピアニーがリンネの後を追って行く。その場にはアリスとアガットだけになる。アリスは泣いてはいなかったが、アガットにぎゅっと抱きついて離れない。そんなアリスの頭を撫でるアガット。
アガットもアリスには、なんだかんだ甘いからなー。自分の妹のように見ているんだろう。
アリスとリンネの喧嘩は、ひとまずおさまった。だが。
まずいな、これは…。
隣を見れば、リコリスが震えていた。そして。
「…ずるい。ずるいわ(・`ω´・ )アガット。私の天使といちゃつくなんて!」
「アガットはアリスを宥めてるだけだろ」
「私も泣いてる天使を宥めてあげたい!こうしちゃいられないわ!」
もう泣いてねェよ、アリスは。
リコリスがアリスとアガットのいるところに行きそうになったから、慌てて止めた。行かせたら、リコリスVSアガットの喧嘩がおっ始まっちまう。どちらも絶対にアリスのことになると、引かねェから。相性は最悪なんだよな、この二人。
「ちょっと待て!お前は行くな!ややこしいことになるから!」
「止めないで。はあくん!私の天使がアガットの腕の中にいるのよ!今すぐに取り返さないと」
「奪われてもないだろ!てか、行かせねェ!」
「邪魔しないで。行かせてよ!」
「ダメだ。絶対に行かせるか!」
「もう早く行かせて!はあくん」
と、廊下で大声でそう叫んでいたオレとリコリス。そんなオレ達を見た他のヤツらが大いなる勘違いをして、変な噂が立ってしまったことを、この時のオレはまだ知らない。
あれからリコリスを強引に部屋へ連れて帰る。一人にしたら、絶対アリス達のところに行きかねない。見張りもかねて、オレは夕飯の時間になるまで、リコリスの部屋から出なかった。
部屋にいる間、リコリスはずっとアリスの写真が収められたアルバム集の一つを取って、それを眺めていた。
当然、見えるような位置にそのアルバムは置いていない。そういうのは隠すの上手いからな…。
実はリコリスの部屋にある本棚は、スライド出来るようになっていて、手前には色々な本が置いてあり、その本棚を動かすと、もう一つの本棚が奥から現れる。その本棚は、アリスの写真が収められたアルバムが沢山並んでいる。しかも、年齢別に分けられている。中にはリコリスが激選したというお気に入りのアリスの秘蔵写真がおさめられたアルバムまでもある。
オレも何度か見せられたことあるけど、他のアルバムと変わらねェよ。リコリスに言えば、「全然違うわ!この光り輝く笑顔のアリスは、同じように見えて、一つ一つが違うんだから。まずはこれ(4歳)とこれ(6歳)。ほら、笑顔が全然違うでしょ?こっちはお父さん達に誕生日プレゼントをもらえた時の笑顔で、こっちは雪が積もって、私に小さい雪だるまを作ってくれた時のもの。はあくん、よーく見てp(`ε´q)ブーブー」…と怒っていた。もう面倒くせェ。
ちなみにアリス以外の妹達との写真がおさめられたアルバムも数冊あるが、アリスのように沢山はない。てか、アリスだけが異常にありすぎんだよな。
「アリス」
「……」
オレは読んでいた雑誌から顔を上げた。リコリスもアリスの写真を見たら、少しは落ちついたようだ。やっぱり泣いてるアリスを見て、動揺しただけか。オレはホッとした。
だが、リコリスはオレの予想を上回ることを口走った。
「私もアリスのお付きメイドになろうかしら」
「はあ?何言ってんだよ!」
「だって、アリスのお付きメイドになれば、ずっと一緒にいられるのよ!アガットを追い出して、私がなればいいんだわ。ナイスアイディアね。何で今まで思いつかなかったのかしら!!」
「いやいや、ナイスアイディアじゃねェから!てか、なれるわけねェだろ!」
「お父さんに言えば、大丈夫。やらせてくれるわよ!」
「なるかああああ!」
どう考えたら、そんな発想になんだよ!もう理解出来ねェよ。こんなことになんなら、アリスのところに行けば良かった!
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