Lady Alice Ⅵ- II





「あ、ハルクも旅行に行くんだ!」

「まあな」

「どこ行くの?」

「別荘」

「そうなんだ!気をつけて行って来てね……っ、痛い!」


いきなりチョップされた。何で?私、変なこと言ってないのに。
頭をさすっていたら、ハルクは私達の荷物が入ってるトランクを開けて、持っていた鞄を入れた。



「オレも行くから」

「呼んでないよ!」

「使用人が一人くらい増えたって問題ねェだろ?リコリス」

「問題はないと思うけど、後でティアラに連絡しておくわ」

「頼むな」

「え、でも…」

「さて、そろそろ行きましょうか。朝食を取る時間がなくなりますよ?車に乗ってください」


カルロに促され、皆が車に乗り込んだ。私とお姉ちゃんは後部座席、ハルクが助手席だ。カルロの運転で私達は屋敷を出発した。

出発してカルロがハルクに尋ねた。



「君は今日から休暇じゃなかったんですか?」

「そうだよ!ゆっくり休めるのに何で来たの?」


私もここぞとばかりにカルロの後ろから口を挟む。すると、ハルクは少し困った顔をした。



「別にいいだろ。年末年始に旅行に行ったって、どこも混んでるし。屋敷にいても、やることがねェから。お前らのところに来たんだよ」

「年末年始は予約でいっぱいですし、金額も更に割高になりますからね」

「友達と遊んだりは?」

「んなもんいねェよ。朝早かったから、少し寝る。レストラン着いたら、起こしてくれ」

「ちょっとハルク!」


ハルクはそう言って、さっさと目を瞑って、寝てしまった。面倒くさいとすぐ逃げるんだから。



「アリス。はあくん、来てくれたんだから、歓迎してあげて」

「別に来るなとは言ってないもん。ただゆっくり休めばいいのに…」


あまり休んでないように見えたから。この際に休んでもらおうと思った。それなのに、ハルクは一緒に来た。



「こんなに長い休みを今までもらったことがないから、困ったんだと思いますよ」

「え?」

「通常の休みは、大体が一日か二日ですから。お盆や年末年始で一週間程度ですけど。だから、今回のように10日も休みだと、何をしていいかわからないんじゃないですか?ハルク、毎年お盆も年末年始もほとんど休んでませんでしたから」


そう言われてみれば、大体が私の近くにいた気がする。文句言いながらも、ずっといた。お付きのアガットでさえ、お盆や年末年始は帰っちゃうのに。妹さんが沢山いるからね。



「はあくん、家からは勘当されてるから帰れないのよ。本人も二度と帰るつもりもないみたいだし」

「僕も似たようなものですよ。そのまま存在を忘れてくれればいいのに、なかなかそうは行きません」

「…そうなんだ」


皆が皆、家族に恵まれているわけじゃないんだ。私は生まれた時から、家族に疎まれたりしたことがないから、よくわからないけど。そういう人もいるということを知った。

しばらく走らせていると、私の好きなレストランが見えた。営業していたので、早速、駐車場に車をとめた。寝ていたハルクを起こし、店内に入る。休日の朝でもお客さんはそこそこいた。店内は広々としているから、あまり混んでるようには見えないけど。



「お腹、空いた!何を食べようかなー?」


席に案内され、メニューを見る。そんな私に目の前の席に座るハルクが言った。



「お前は食い過ぎねェように、腹八分目にしとけ」

「やだー!せっかくここの朝食を楽しみにしてたんだから」

「車で移動すんだから、食い過ぎると酔うぞ。吐いて周りに迷惑かけてェのかよ」


うっ、流石にそれはしたくない。別荘を着いて早々にベッドで休みたくない。今日の夜は、クラリス達とクリスマスパーティーをするんだから!

メニューを頼んでから私以外の皆は、席を立ってしまった。私はここで待つように言われて、仕方なく、窓の外を眺めていた。晴れて良かったなー。そうだ!スマホ。ポシェットからスマホを取り出す。すると、クラリスからメッセが来ていたから、返事することにした。



[おはよう。アリス!まだ家?]

[おはよう!ううん。家は出て、別荘に向かってるよー!でも、お腹空いたから、今レストランにいる]

[そうなんだ。私の方はもう別荘に着いてるから、着いたら連絡してねー!”]

[わかった!]

[気をつけて来てね。それじゃあ、また後で!]


他の子達もきっとそれぞれの自分の車でクラリスの別荘に向かっているはずだ。最初はクラリスの車で一緒とも考えていたが、色々あって別々になってしまった。

スマホをポシェットにしまう。あー。皆と早く会いたいなー。



「見て。あそこにイケメンがいる!」

「本当だ。あそこだけ別世界だわ」


近くの席にいた女の人達が何やら興奮していた。
ん?イケメン??私が顔を上げて、その人達と同じ方向を見ると、それはドリンクバーで飲み物を選んでいるカルロとハルクだった。

確かに見た目はいいけど、そこまで騒ぐほどじゃないのにー。というか、店内のお客さん、女の人のほとんどが二人を見てるし。店員さんまでも遠巻きに見てる。二人は芸能人じゃないよ…。



「今さ、ここに入る前に外ですげーキレイな娘が電話してたよな!」

「見た見た!声も超可愛かった」

「声かけてみようかな」

「バカ、止めとけ。お前が相手にされるわけねーじゃん。男と一緒じゃね?」


少し離れた席に入って来たばかりの若い男の人達の話が聞こえてきた。
それって、リコリスお姉ちゃんかな?電話してくると言ってたし。
お姉ちゃんほどのキレイな女の人は、なかなかいないしね。私が知っている中で一番キレイなんだから!(※何故かアリスが誇らしげに鼻を高くする)



「はい。アリス。ロイヤルミルクティーですよ」

「ありがとう!」


カルロが自分のと私の分の飲み物を持ってきてくれた。カルロの方はホットコーヒー。私は自分のを受け取って、飲もうとしたら、熱くて飲めない。



「……熱い」

「アリスは猫舌でしたね。もう少し冷ましてから飲めばいいですよ」

「そうする…」


少ししてから、リコリスお姉ちゃんが飲み物を持って、席に戻って来た。お姉ちゃんはカフェラテのようだ。私も次飲むのは、カフェラテにしようかな。



「あら、はあくんは?」

「ハルクなら車の中で電話してますよ。さっき、僕のスマホにドラから連絡が来まして。ハルクのスマホは車に置いてあったそうで」

「ハルクのことだから、また何かやらかしたんじゃないの?」

「アリス、そんなこと言っちゃだめよ?」

「はーい…」


そこへようやく頼んでいた食事が運ばれてきた。やっと食べられる!
ハルクはまだ来ないので、先に食べることにした。



「おいしーい!」

「ふふっ。アリスったら、口の端にソースがついてるわよ?」

「どこ?」

「くすくす。取れてない。私が拭いてあげるわ」


そう言って、リコリスお姉ちゃんがナプキンで拭いてくれた。
何か恥ずかしい。私、小さい子と変わらないのでは…。もう少し大人にならなくちゃ!



「はあー。マジで疲れたー」


ハルクが車から戻って来た。カルロに車のキーを渡して、私の前に座る。飲み物も取ってきたのか、テーブルに置いた。ハルクは温かいものではなく、冷たい炭酸飲料だった。



「ハルク。電話は終わったんですか?」

「終わった。ずっと文句を言われたぜ…」

「文句?」


私は食べながら、そう呟く。ハルクも自分の食事を始めた。



「そ。タスクさんからな」

「電話はドラからじゃなかったの?」

「オレが電話に出なかったから、ドラがカルロにかけてきたんだよ」

「それは災難でしたね。おそらく彼も来たかったはずですね」

「抜けがけだーとか言われた。そんなつもりじゃねェのにさ」

「どうして、タスクさんははあくんに文句を言ったの?」

「「「……」」」


思わず私達は黙る。
リコリスお姉ちゃんは、知らないのだ。タスクがお姉ちゃんに想いを寄せていることを。そのことを私達がお姉ちゃんに言うわけにはいかない。
どうしよう。話を反らした方がいいかな?でも、変なごまかしするわけにはいかないよね。困った。



「アリス。いらねェなら、もらうからな」

「えっ、あー!私のウインナー!ポテト!」


リコリスお姉ちゃんに何て言おうか考えてる間にハルクが私のお皿にあったおかずを容赦なくどんどんと食べていく。ちょっと食べないで!
しまいには最後に食べようとしていたクロワッサンまでも食べられた。一つは食べたけど、おいしかったから、もう一つは最後に食べようと楽しみにしていたのにー!



「私のクロワッサン…」

「うまかったぜ」

「ハルク。まったく君は…。アリスがまだ食べてるじゃないですか」

「そうだよ!まだ途中なのにー」

「お前がとろいから、食べるのを手伝ってやっただけじゃん」

「オニ!アクマ!ハルクの食いしん坊!」

「アリス。私のを食べる?食べかけだけど」

「え、いいの!?」


リコリスお姉ちゃんの頼んだものは、パンケーキだ。密かに食べたいなと思っていたものだった。



「いいわよ。はい。口を開けて」

「あーん。……おいしい!」

「気に入ったみたいね。残りもあげるから。ほら、口を開けて」


パンケーキ食べたら、クロワッサンのことはどうでも良くなった。

それから朝食を済ませて、ちょっとのんびりしてから、再び車に乗った。途中、休憩を何度か挟みながら、私達はお昼前にクラリスの別荘に到着した。





【to be continued】
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