Lady Alice Ⅵ-Ⅰ
クリスマスが間近に迫ったある日、珍しくアリスが浮かれていた。
「クーリスマス!クリスマスー♪」
勉強していても、本を読んでいても、何をしていても、常にこんな感じだ。テンションがかなり高い。流石にリクの前ではやらなかったが。
リクの前でもやれば、リクがどう反応するか見てみたかったのに…。
しっかし、去年とかここまでのテンションじゃなかったよな?過去を振り返ってみるが、今年みたいに浮かれてる時はなかった。むしろ、ショックを受けてたことの方が多かった。
家族で出かけるはずが両親に仕事が入ってしまったとか、そういうのが多くて。去年なんて、家族で出かけると決まっていたのに、直前で行けなくなっちまって、アリスがすげー落ち込んだんだよな。その姿があまりにも可哀想だからって、リコリスやカルロ辺りがクリスマスにお菓子作りをさせて、気をまぎらわせてたっけ。
リコリスなんて一日中アリスといられるから、すげー浮かれてたし。本当はパーティーに呼ばれてたのに相手先に電話ですごく申し訳なさそうに断りながら、電話切った途端にスキップしてたからな。アイツ、女優になれんじゃねェのか?
「ジングルベール♪ジングルベール♪クリスーマスー♪」
「……」
とうとう歌い出したぞ、コイツ。
やべェもんでも食ったか?夕食は変なもんは出てねェはずだけどな。
「アリス。お前、すげー浮かれてるな…」
「えへへ。聞きたい?聞きたいよね!?」
普段、なかなか話したがらないくせに自分から話したがるということは、大抵リク関連か、はたまた別のことか。
へたに聞いて、変なことに巻き込まれたくねェな。よし。聞かない方向で。
「いえ、結構です。興味アリマセン」
「待って、行かないで。聞いて!」
「……。お前、よっぽど聞いて欲しいんだな」
「えへへ」
行こうとするオレを引き止めるくらいだ。話したくて仕方ねェんだろう。
「あのね、別荘に行くの!」
「別荘?」
「うん!クラリスの別荘にお呼ばれして、今年はそこで年越しするんだ」
「呼ばれたのは、お前だけ?」
「ううん。他にも仲良い子達もいるよ。そこでクリスマスパーティーもやるし、プレゼント交換するの。こないだ、プレゼントは買って来たし!」
ドヤ顔をしながら、アリスが話す。
向こうの使用人、大変なんじゃねェか?ガキどもの相手を何日も見ないといけないから。
「お前、迷惑かけんなよ?」
「かけないもん!クラリスのところの使用人さん達にばかり頼むのも悪いから、うちからも一人連れて行くことにした」
「誰を?」
「カルロ。もう頼んだ!」
「……あっそ」
コイツ、いつもカルロに頼むよな。カルロの方もコイツのお願い事は、大抵聞いてやるからもあるだろうけど、何でオレに言わないんだ?
「なんで機嫌悪いの?しばらくゆっくり出来るよ?ハルクに私の世話してもらった覚えは、ほとんどないけど」
「オレはゆっくり出来ても、カルロはゆっくり出来ねェかもな。お前はよくやらかすから」
「失礼な!でも、カルロは来月の中旬くらいから、しばらく休暇を取るんだよ」
「アイツが!?」
「うん。温泉行くって話してたもん」
一体、誰と行くんだ?流石に一人じゃねェよな。アイツ、意外にプライベートは秘密主義だし。仕事以外、何やってんのか、わからねェんだよ。
「なかなか予約の取れない旅館にダメ元で連絡したら、丁度キャンセルが出たみたいで空いてたんだって。その温泉ではねのばすって、カルロが嬉しそうに話してたよ?」
「ふーん…」
アリスには話すんだな。オレらが聞いても、絶対に話さねェくせに…。
「だから、ハルクも今年は長めに休めるよ。良かったね!」
「そんでお前、いつ帰って来るんだよ」
「1月4日」
「はあ!?」
25日から行くんだよな?10日間も行くのかよ。
てか、これ聞いて、リコリスは知ってるのか?修学旅行の時でさえ、半日も持たなかったのに。
「リコリスはそのことを知ってるのか?」
「リコリスお姉ちゃん?なんで?」
「なんでって…」
リコリスのイメージを壊すわけにはいかねェか。てか、どっちも互いに夢見てるし。そういう意味じゃ似てんだよ、この二人。
「お姉ちゃんも一緒だもん。クラリスのお姉ちゃんも別荘に行くから」
「え?リコリスも!?」
なるほど。それなら問題はねェか。一緒じゃなかったら、リコリスは絶対に荒んでいただろう。
しばらくして、アリスの部屋を出たオレは、その足でリコリスの部屋に向かった。部屋を訪れると、リコリスの機嫌は良い。
「あら、はあくん。今日は呼んでないのに、私の部屋に来るなんて。どうしたの?」
「お前もアリスと一緒の別荘に行くのか?」
「そうなの!ティアラから話を聞いて、誘いを喜んで受けたもの。ティアラはおとなしいけど、すごく優しい子なのよ。その妹のクラリスも良い子だし、アリスと仲良くしてくれるから大好きよ!もちろん一番はアリスだけど」
「お前、本当にアリスが好きだよな…。アリス離れしねェの?」
「今のところは離れるつもりはないわ!アリスが結婚するまでは」
自信満々に言うことじゃねェ。結婚してからも離れなさそうにないと思うのはオレだけか?
「てか、お前も使用人の誰か連れて行くんだろ?」
「私は連れて行かないわよ?自分で出来るし。アリスも最初は誰も連れて行かないつもりだったのよ?だけど、あの子、人見知りしちゃうし、変なところで遠慮するから、うちから連れて行くことにしたのよ。カルロなら、大体のことなら出来るから」
アリスとリコリスのいない屋敷になんて残りたくなかっただろうな。絶対「喜んで行かせていただきます」とか返事したに違いねェ。
「聞いて、はあくん。ティアラに頼んで、アリスと一緒の部屋にしてもらったの!朝から晩までアリスと過ごせるなんて、今から考えただけで、もう…うふふっ」
「ニヤニヤし過ぎだろ。その顔、鏡で見てみろよ」
「そんなにひどいかしら?……うふふ」
何を想像してんだ、リコリスは。
ずっとニヤニヤ笑うリコリスの姿にオレは、ドン引き。だが、すぐに表情を変え、リコリスがオレに言ってきた。
「はあくんもたまにはゆっくり休んでね」
「え…」
まさか、リコリスにまでそう言われるとは思わなかった。
「今年は、使用人の人達に休暇は長めに取らせるのよ?屋敷に残るのは、最低人数だけみたいだから」
「大丈夫なのかよ」
「その辺はお父さんのことだから、ちゃんとしてるわよ。だから、はあくんも休暇を楽しんで」
そう言われても、何すらいいんだよ。今までそんな沢山の休みはなかったし。一日、二日ならまだ適当に過ごせば終わったけど。
4日からは仕事始めだけど、それまでが長いよな。
どうすっかな…。
【to be continued】
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