Lady Alice Ⅳ
……………
…………
………
……
…
「…出来たー!」
「終わったね!」
ようやく課題を終わらせ、皆で喜び合っていた時、コンコンとドアをノックする音がした。私が返事すると、ドアが開く。
「失礼します。アリス。そろそろ休憩してはどうですか?ケーキを持ってきましたから」
「ありがとう!」
約束通りにカルロがケーキと紅茶を持って来てくれた。人数がいたからか、カルロだけじゃなく、ドラやタスクまでいた。
「お、クラリスじゃん。髪型、変えたのか?」
「えっ、気づきましたか?」
「当たり前だろ!その髪型、今流行りのやつじゃん」
「はい。雑誌を見て、可愛いと思って、やってもらいました」
「いいじゃん!似合うぜ。しばらくはその髪型にしたら?」
「ありがとうございます。ドラさん」
ドラ、目ざといな。
よく使用人の人達から女性誌を借りて読んでるからな。男性雑誌よりこっちの方が面白いって言ってたし。ドラ自体もたまに女性服を着てる時あるんだよね。しかも、似合うの!ドラ、センスあるからな。
全員に配り終えるとドラとタスクは先に出て行き、カルロも「何かあれば、呼んでください」とだけ私に言って、また出て行ってしまった。
「またイケメンがいた!」
「何なの?ここ。イケメンしかいないの!?」
「いいなー。アリスちゃん。あんなかっこいい執事の人達に囲まれてお世話されて」
「いや、そうでもないよ。うちは姉妹もいるから、私ばかり世話されているわけじゃないし」
私にだけ世話してるわけではない。うちは専属とかもないし。
それなのに、私の近くばかりいて、仕事をサボる執事もいるけど!敢えて名前は出さない。すると、クラリスが聞いてくる。
「あれ?そういえば、ハルクさんは?」
「知らない。いなくていいわよ!あんなやつ」
「何?またケンカしたの?飽きないわね…」
「向こうが悪いのよ!私の持ってる漫画にケチをつけてきて…」
そう話していたら、他の子達も興味があったらしく、私達の話に入ってくる。
「アリスちゃん、ハルクさんって誰?」
「まだいるの!?イケメン執事」
「見たい!ここには来ないの!?」
「いや、そう言われても…」
興奮してる三人を私は、必死に宥めようとするが、どんどん私に詰め寄ってくる。誰かに助けを求めようと、向かい側にいるフランちゃんは見た。だが、彼女は静かに紅茶を飲んでいた。私に目もくれず。無視しないで!フランちゃん。しかし、彼女は無言で首を振る。あとはクラリス!
隣のクラリスを見ると、助け船を出してくれた。
「皆、落ちついて。その人はよくアリスの面倒を見てくれる執事の方だから、そのうち現れると思うわ」
「見たい!早く来ないかな…」
「うん、うん!イケメンは目の保養になるし」
私、ハルクに面倒を見てもらった覚えはないわよ!もうクラリスったら!違うフォローをしないで。内心、そう叫んでいた。
そこへノックもせずに、ドアが開く。こんなことするのは、一人しかいない。今話していたやつしか。
「アリス。こんなところにいたのかよ。お前、帰って来たなら……ん?友達も連れて来てたのか」
「ちょっとハルク。ノックくらいしてよね!」
マリアちゃん達がハルクを見て、明らかに目を輝かせていた。絶対にハルクを見て、イケメン執事だと思っているのだろう。絶対違うから。
ここは早く追い出さなくちゃね!
「別にいいじゃん。着替え中なわけでもねェんだし?というか、お前の身体見たって、ちっとも面白くねェよ。皆と比べても、お前が一番まな板……痛て!」
「最低!もう出て行って!!」
頭にきたから、腕を何度か叩く。それからハルクの背中を押して、部屋から追い出す。
本当に最悪だ!
「やっぱりイケメンだった!」
「執事っぽくないけど、それもまた良い!」
「私、ここの子になりたい!」
「私も!」
「ここの子になれば、イケメン執事達と恋に落ちたりも…」
「「「きゃー!」」」
マリアちゃん達はもう止められないほどに、テンションが上がっていた。執事達の妄想話に花を咲かせる。いつの間にか、それにクラリスも話に加わっていた。私はただ聞いているだけだ。だって、ついていけないんだもん。
最初はうちの執事達の話だったが、そのうち芸能人やモデル、アイドルの話と話題は尽きない。
皆、イケメンが好きなんだね。私はリク先生しか興味もん。ケーキを食べ、少し冷めてしまった紅茶を飲む。
すると、隣にいたクラリスが小声で話しかけてくる。
「アリス。顔…」
「ん?」
「リク先生しか興味ありませーんって顔してるよ」
「だって、興味ないもん」
「アリスらしいけど、少しは周りの話にも興味持ちなよ」
そう言われてもな。
フランちゃんも興味ないのか、話には参加していなかった。持参していた自分の本を静かに読んでいた。
夕方になり、皆、それぞれに迎えが来たらしく、自分達の家に帰って行った。玄関で皆の見送りを終えた私は、横にいたカルロに話しかけた。
「皆、うちが羨ましいんだって。イケメン執事が沢山いるからって」
「羨ましいですか?うーん、人はないものねだりですからね」
「ないものねだり?」
「ええ。誰にだって、周りが羨ましいと思うものを必ず持っているんですよ。でも、気づけない。他人の持っているものが輝いて見えて、羨ましく思ってしまい、他人のものを奪ってしまう。だけど、人は失ってから、気づくんですよ。失ってからやっと自分の持っていたものの大切さに気づける」
「失ってしまった自分のものは取り戻せるの?」
「それはその人次第ですよ。本当に失くしたくなければ、取り戻すしかありませんから」
「そっか…」
「アリスも本当に失くしたくないものがあったら、絶対に手を離してはいけませんよ」
「うん!」
カルロと別れ、自分の部屋に戻る。私は本棚から読みたい漫画を取り出して、ベッドに寝転がる。
読んでいると、瞼が重くなってくる。んー。なんか眠い。漫画を読みたいのに、これ続きが気になっていたから…。
しかし、次第に意識も遠くなって、起きようにも私の思いとは裏腹にゆっくりと眠りに誘われる。
「…ス。アリス?」
誰かが呼んでる。返事しなくちゃ。
でも、それが誰なのかすらもわからない。
まだ起きてる。起きてると言いたいのに、口が動かない。
眠い。もうだめだ。私の意識はそこで途絶える。
意識を失う前、私を呼んでいた人が優しい顔で笑っていたのが一瞬だけ見えた、ような気がした。
私を呼んでるのは、きっと───
【END】
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「…出来たー!」
「終わったね!」
ようやく課題を終わらせ、皆で喜び合っていた時、コンコンとドアをノックする音がした。私が返事すると、ドアが開く。
「失礼します。アリス。そろそろ休憩してはどうですか?ケーキを持ってきましたから」
「ありがとう!」
約束通りにカルロがケーキと紅茶を持って来てくれた。人数がいたからか、カルロだけじゃなく、ドラやタスクまでいた。
「お、クラリスじゃん。髪型、変えたのか?」
「えっ、気づきましたか?」
「当たり前だろ!その髪型、今流行りのやつじゃん」
「はい。雑誌を見て、可愛いと思って、やってもらいました」
「いいじゃん!似合うぜ。しばらくはその髪型にしたら?」
「ありがとうございます。ドラさん」
ドラ、目ざといな。
よく使用人の人達から女性誌を借りて読んでるからな。男性雑誌よりこっちの方が面白いって言ってたし。ドラ自体もたまに女性服を着てる時あるんだよね。しかも、似合うの!ドラ、センスあるからな。
全員に配り終えるとドラとタスクは先に出て行き、カルロも「何かあれば、呼んでください」とだけ私に言って、また出て行ってしまった。
「またイケメンがいた!」
「何なの?ここ。イケメンしかいないの!?」
「いいなー。アリスちゃん。あんなかっこいい執事の人達に囲まれてお世話されて」
「いや、そうでもないよ。うちは姉妹もいるから、私ばかり世話されているわけじゃないし」
私にだけ世話してるわけではない。うちは専属とかもないし。
それなのに、私の近くばかりいて、仕事をサボる執事もいるけど!敢えて名前は出さない。すると、クラリスが聞いてくる。
「あれ?そういえば、ハルクさんは?」
「知らない。いなくていいわよ!あんなやつ」
「何?またケンカしたの?飽きないわね…」
「向こうが悪いのよ!私の持ってる漫画にケチをつけてきて…」
そう話していたら、他の子達も興味があったらしく、私達の話に入ってくる。
「アリスちゃん、ハルクさんって誰?」
「まだいるの!?イケメン執事」
「見たい!ここには来ないの!?」
「いや、そう言われても…」
興奮してる三人を私は、必死に宥めようとするが、どんどん私に詰め寄ってくる。誰かに助けを求めようと、向かい側にいるフランちゃんは見た。だが、彼女は静かに紅茶を飲んでいた。私に目もくれず。無視しないで!フランちゃん。しかし、彼女は無言で首を振る。あとはクラリス!
隣のクラリスを見ると、助け船を出してくれた。
「皆、落ちついて。その人はよくアリスの面倒を見てくれる執事の方だから、そのうち現れると思うわ」
「見たい!早く来ないかな…」
「うん、うん!イケメンは目の保養になるし」
私、ハルクに面倒を見てもらった覚えはないわよ!もうクラリスったら!違うフォローをしないで。内心、そう叫んでいた。
そこへノックもせずに、ドアが開く。こんなことするのは、一人しかいない。今話していたやつしか。
「アリス。こんなところにいたのかよ。お前、帰って来たなら……ん?友達も連れて来てたのか」
「ちょっとハルク。ノックくらいしてよね!」
マリアちゃん達がハルクを見て、明らかに目を輝かせていた。絶対にハルクを見て、イケメン執事だと思っているのだろう。絶対違うから。
ここは早く追い出さなくちゃね!
「別にいいじゃん。着替え中なわけでもねェんだし?というか、お前の身体見たって、ちっとも面白くねェよ。皆と比べても、お前が一番まな板……痛て!」
「最低!もう出て行って!!」
頭にきたから、腕を何度か叩く。それからハルクの背中を押して、部屋から追い出す。
本当に最悪だ!
「やっぱりイケメンだった!」
「執事っぽくないけど、それもまた良い!」
「私、ここの子になりたい!」
「私も!」
「ここの子になれば、イケメン執事達と恋に落ちたりも…」
「「「きゃー!」」」
マリアちゃん達はもう止められないほどに、テンションが上がっていた。執事達の妄想話に花を咲かせる。いつの間にか、それにクラリスも話に加わっていた。私はただ聞いているだけだ。だって、ついていけないんだもん。
最初はうちの執事達の話だったが、そのうち芸能人やモデル、アイドルの話と話題は尽きない。
皆、イケメンが好きなんだね。私はリク先生しか興味もん。ケーキを食べ、少し冷めてしまった紅茶を飲む。
すると、隣にいたクラリスが小声で話しかけてくる。
「アリス。顔…」
「ん?」
「リク先生しか興味ありませーんって顔してるよ」
「だって、興味ないもん」
「アリスらしいけど、少しは周りの話にも興味持ちなよ」
そう言われてもな。
フランちゃんも興味ないのか、話には参加していなかった。持参していた自分の本を静かに読んでいた。
夕方になり、皆、それぞれに迎えが来たらしく、自分達の家に帰って行った。玄関で皆の見送りを終えた私は、横にいたカルロに話しかけた。
「皆、うちが羨ましいんだって。イケメン執事が沢山いるからって」
「羨ましいですか?うーん、人はないものねだりですからね」
「ないものねだり?」
「ええ。誰にだって、周りが羨ましいと思うものを必ず持っているんですよ。でも、気づけない。他人の持っているものが輝いて見えて、羨ましく思ってしまい、他人のものを奪ってしまう。だけど、人は失ってから、気づくんですよ。失ってからやっと自分の持っていたものの大切さに気づける」
「失ってしまった自分のものは取り戻せるの?」
「それはその人次第ですよ。本当に失くしたくなければ、取り戻すしかありませんから」
「そっか…」
「アリスも本当に失くしたくないものがあったら、絶対に手を離してはいけませんよ」
「うん!」
カルロと別れ、自分の部屋に戻る。私は本棚から読みたい漫画を取り出して、ベッドに寝転がる。
読んでいると、瞼が重くなってくる。んー。なんか眠い。漫画を読みたいのに、これ続きが気になっていたから…。
しかし、次第に意識も遠くなって、起きようにも私の思いとは裏腹にゆっくりと眠りに誘われる。
「…ス。アリス?」
誰かが呼んでる。返事しなくちゃ。
でも、それが誰なのかすらもわからない。
まだ起きてる。起きてると言いたいのに、口が動かない。
眠い。もうだめだ。私の意識はそこで途絶える。
意識を失う前、私を呼んでいた人が優しい顔で笑っていたのが一瞬だけ見えた、ような気がした。
私を呼んでるのは、きっと───
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