Lady Alice I
いつものように学校から帰って来ると、私の部屋に何度注意しても、勝手に忍び込む使用人がいた。また私の本棚から漫画を読んでるし。
「また読んでる…」
「おかえり。アリス」
漫画から視線を外さぬまま、私に言ってくる。私は机に鞄を置きながら、ハルクに言った。
「ここ、私の部屋なんだけど」
「んなの知ってるぜ。オレの部屋でもあるし」
「なんでよ!私の部屋だから。ハルクにも自分の部屋はちゃんとあるでしょ」
「あるけど、あの部屋だと落ちつかねェんだよ」
だからって、なんでいつも私の部屋で寛いでるのよ!?私、許可した覚えはないんだけど。
「私の専属執事でもないんだから、部屋に勝手に入らないでよ!あと漫画も読まないで!」
「じゃあ、今日からお前の専属執事になってやるよ。そしたら、ここでサボれるし」
「嫌よ。絶対にお断り!」
私の専属執事にハルクは絶対に嫌。それにハルクなら、リコリスお姉ちゃんやラセンお姉ちゃんに気に入られてるじゃない。私じゃなくてもいい。
「お前、可愛くねェな…」
「別にハルクに可愛いなんて思われたくない」
「リクにだけそう思われたいって?」
「そ、それは……っ」
私の顔は真っ赤になる。
そりゃリク先生には可愛いとは思われたい!リク先生のところに行く時は、いつも気合い入れて、おしゃれしてから行っているし。鏡でおかしなところがないか、念入りにチェックしてる。
あ。そろそろ新しい洋服を買いに行こうかな。ドラを一緒に連れて行けば、可愛いコーディネートとか教えてくれるはずだ。近いうちに頼まないと!
「ガキのくせに色づきやがって……って、危ねェ!」
「どうせガキだもん!」
私はハルクに向かって、クッションを投げたが、避けられた。そんなの言われなくても、わかってる。リク先生からしたら、私は子供だって。でも、好きなんだもん!好きな気持ちに年齢は関係ない。
「子供でも好きなんだもん!本気になっちゃいけないの!?」
「アリス…」
悔しくて、涙がこぼれた。
その時、部屋のドアをノックされた。私は急いで袖で涙を拭う。すぐ返事すると、入って来たのはカルロだった。
「アリス、帰ってたんですね。おかえりなさい。……あ、やっぱりここにいましたか、ハルクは」
「なんだよ?」
「それより、またアリスを泣かせてるんですか。君は年上なのに、中身はアリスより幼いんじゃないんですか?」
「うっせェ。カルロが呼びに来たってことは、誰かオレを呼んでんの?」
「ええ。リコリス様が君をお探しでしたよ」
「わかった。すぐ行く」
そう言って、立ち上がると、ハルクは部屋を出て行く。ちょっと漫画、片づけてよ!もう。ベッドの上に置きっぱなしにしてるから、私は漫画本を手に取り、本棚に戻す。
「大丈夫ですか?アリス」
「うん、平気」
「ハルクに泣かされたら、僕に言ってくださいね?たっぷりとこらしめますから」
「ありがとう。ねぇ、カルロ。ハルクって、リコリスお姉ちゃんの専属じゃないの?」
「違いますよ。リコリス様がハルクを気に入っているのは事実ですが。仲も良いですし、よくハルクに頼んでいますから、そう思われても仕方ないかと。しかし、ハルクは別のお嬢様を気に入っているので」
「ああ、ラセンお姉ちゃんのことね!」
そう答えたら、カルロに残念なものを見るような視線を送られた。え??私、間違えたことは言ってないよ。
「……。アリス。君は自分のことに関しては、とても鈍いですよね」
「鈍くないよ!だって、ラセンお姉ちゃんもハルクのことを気に入ってるし」
「ああ、それもそうですが。暇が出来ると、ハルクはいつも君の部屋に来てるじゃないですか」
「もう信じられないよね!勝手に私の部屋に来て、私の漫画を読んでるんだよ!リク先生に似たキャラばっかりって文句を言ってくるし、私の漫画なんだからいいじゃない!読みたくないなら、読まなきゃいいのに。そう思わない?」
「確かにアリスの読む漫画は、リクに似た男の子が多いですよね。真面目でおとなしめの優等生な子ばっかり。つまらなくないですか?」
「全然」
「……そうですか」
飽きないもん。
少女漫画を読んでると、色々と妄想が出来るし。私とリク先生との…。うふふ。
そういえば、前に買った漫画でリク先生に似た男の子に主人公がずっと片想いしてるんだけど、フラれちゃうのよね。そんな泣いてる主人公を慰めてくる男の子がいて、次第に距離が近づいて、結局、その子とくっついた漫画があったっけ。
近づいてきた男の子がどことなくハルクに似てたから、本棚じゃなくて、一番下の引き出しにしまっちゃった。流石にあの漫画だけはハルクに見られたくない!
「アリスは真っ直ぐですね。君はどうかそのままでいてくださいね」
「?」
どういう意味?
私はわけがわからず、首を傾げた。
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