Collabo Maid
今日は、日曜日。
私はカルロと一緒に買い物に来ていた。
いつも行くところではなく、車で数時間かかるところにやって来た。初めて来たところだから、はぐれないようにとカルロの隣にいたのに、少し興味あるものに目を奪われ、思わず立ち止まってしまった。
いいな…。
……あ、しまった!
我に返り、隣を見るが、カルロの姿はもうない。
「カルロ?」
周りを見てもいない。あちこち探しても、その姿が見えない。
「どこ…?」
ここに来る前にハルクに言われたのに、「迷子になるなよ」って。バカにされてると思って、つい「この歳で迷子になるわけないでしょ。バカにしないで」って、たんかをきったのに…。まさか、本当に迷子になるなんて!
それよりもカルロを見つけなくちゃ。
私はあちこちのフロアを走り回る。だけど、一向にカルロは見当たらない。
いない。
涙が出そうになりながらも、必死に探し回る。カルロ!どこー。いないよ。知らない場所に一人になるのが、こんなにも心細いなんて…。
「……っ、いた!カルロだ!」
エスカレーターの脇にあるベンチのところにカルロの姿をやっと見つけた。私は慌てて、そこに駆け寄る。良かった!
「カルロ!!」
「っ!?」
「はぐれちゃって、ごめんなさ…」
抱きつきながら、顔を上げる。しかし、カルロは私を見て、何故か驚いていた。
「……えっ…アリス。何か小さくない??」
「小さくないもん!私、もう12歳だよ!」
「12!?……あれ?うちにいるアリスは、いくつだっけ?」
カルロの隣には、中学生くらいの男の子がいた。その顔も知っている顔。
「ライと同じだから17だよ。でも、その子、超アリスに似てるじゃん。名前までも同じだし」
「タスク…?」
「オレの名前、何で知ってんの??」
「だって、リコリスお姉ちゃんのこと…」
「リコリス!?」
男の子が私につめよって来る。怖い…。思わずカルロの腕にしがみつく。
「こらこら、タスク。この子が怖がってるからやめなさい」
「別に怖がらせてるわけじゃねェのにー」
タスクに似た男の子はカルロに言われて、引き下がった。すると、カルロは私を真っ直ぐに見て、申し訳なさそうに言った。
「弟がごめんね。それと俺は、君の言う“カルロ”じゃないよ」
「カルロ、じゃない…?」
「名前は俺もカルロだから、まぎらわしいけど。俺は弟達と来ているんだ」
そう言われてみると、目の前にいるカルロの服装が違う。今日着ていた服は、ストライプのシャツに白のジャケットだ。目の前にいるカルロは、黒のインナーに青いジャケットだった。
それに話し方も少し違う。私の知るカルロは敬語を使う。声だって、そっくりで、こんなに似ているのに別人だなんて…。
「君が探してる人もカルロって言うのかな?」
「うん…」
「俺と同じ顔をしてるの?」
「うん…」
人違い。そんなせっかくカルロを見つけたと思ったのに…。じゃあ、私が探している“カルロ”は、一体どこにいるの?我慢していた涙が溢れ、私は泣き出す。
「うっ、うっ……カルロ!どこ……カルロー!うわーん!」
「あーあ。カルロが泣かしたー」
「俺じゃないから!この子が探してるのは別の人!君、泣かないで」
「カルロ兄さん、タスク。お待たせって……ちょっと兄さん。何で女の子を泣かせてるの?」
「違うって!俺が泣かせたわけじゃないから」
「いや、カルロがトドメをさしたじゃん」
「兄さん?」
「誤解だから!」
この声……もしかして!
私は泣いた顔のまま、顔を上げた。そこにいたのは、リク先生だった。
「リク先生…!」
「え?アリスさん……に似てるけど違うよね。この子は子供だし」
「リク先生??」
「うん!水曜日だけ私の勉強を見てくれるの!」
私はハンカチを取り出して、涙を拭う。
しかし、目の前のリク先生もよく見れば、少し違った。思わずカルロに似た人の後ろに隠れる。隠れながらもこそっとリク先生に似た人を見ると、優しく笑いかけてくれた。私は心の中できゃあ、きゃあ騒ぐ。このリク先生も素敵!笑い方がそっくり!
「(この子、そのリク先生が好きなんだろうね。同じ顔のリクを見て、赤くなってる)」
「(本当だ。すげー真っ赤)」
「(泣いたり、赤くなったり、恥ずかしがったり、女の子は忙しいね)」
「(うちにいるアリスもリク兄を見たら、こんな感じじゃん。けど、これをアイツが見たら…)」
「何やってんの?」
そこへ別の男の子の声がした。
振り返ると、こちらも見慣れた顔。違うのは、私と同じくらいということだけ。しかも、その子は私を見て、目を丸くする。
「アリス?何で小さくなってんの?また小さくされ…」
「ハルクが小さい!」
「……は?」
「うわぁ!いつも見上げてるのに、目線が同じくらいだ!しかも、ピアスもしてない。チャラチャラもしてない!」
思わずその子の前に出た。
ハルクが子供だー!身長は、私よりちょっと低いけど。いつもはハルクの方が身長が高いから、変な感じがする。
「お前、何言ってんの?いつもオレのこと、名前で呼んだことねェじゃん」
「え?いつもハルクって呼んでるよー!」
「はあ?呼んでねェよ。記憶も覚えられなくなっちまったのかよ。とうとうおかしくなったか!」
「む。私、おかしくないもん!」
失礼な!ハルクって名前がつく人って、皆、口が悪いのかしら?この子もうちにいるハルクとそっくりだわ!嫌な感じ。私は目の前にいる男の子を睨む。そしたら、リク先生に似たおにいさんが私に声をかけてくる。
「えっと、アリスちゃんでいいのかな?今日、一緒に来ていた人は一人だけ?」
「はい。二人で来ました。ここに一緒に来たんですけど、私がちょっとよそ見して、気づいたら、いなくて…」
「そっか。きっとその人も君を探してはいるはずだよね。連絡はしたのかな?」
「それが…」
いつも持ってるスマホはいらないと思って、部屋に置いて来てしまった。もう何で持って来なかったの、私は。そのことをおにいさんに伝えたら、「そっか…」と考え込んでしまった。呆れられちゃったかな。リク先生に似たおにいさんに…。
そこへ私より年下の男の子が近寄って来た。その顔もまた見たことがあった。
「戻ったよ。…ん、あれ?」
「ドラだ!」
「アリス…じゃねーな。確か、今日は屋敷にいるはずだよな。姿も小さくなる薬は渡してないし」
「コイツ、ただの迷子だぞ」
ハルクに似た男の子がドラに似た男の子にそう言った。そんなハッキリ迷子と言わなくてもいいのに。
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