Small Halloween




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どれくらい経ったかわからない。何度か開けようとしたり、ママに「もういい?」と尋ねるが、まだダメと言われた。まだかな。あまり遅いとリコリスが駄々をこねちゃう…。



「目を開けていいわよ。アリス、おつかれさま」

「……うん」


ゆっくりと目を開けると、私の前には知らない人がいた。いや、服は私と同じだ。それに目を瞑る前は、私の前に鏡があったはず。
ならば、これは───私だ。全然違う!!私は思わずイスから立ち上がった。



「髪と少しだけメイクをしたわ。ハロウィンだし、ちょっとだけそれっぽいのも書いたのよ」

「これが私、なの…?」

「アリスよ。さあ、自信を持って行きなさい」

「ママ、ありがとう!」

「あ、待って。忘れ物よ」


そう言い、猫耳のついたカチューシャをつけてくれた。これなら違和感はない。



「アリスの靴はハルくんに渡してるから、玄関にあるわ。それじゃあ、気をつけて行くのよ」

「はーい!」


ママの部屋を出て、急いで玄関に向かう。玄関には、既にハルクとリコリスが待っていた。



「待たせてごめんね!」

「アリスおねえちゃん!!」


リコリスが私に向かって、勢い良く抱きついてきた。



「リコリス、可愛いね!」

「えへへ。おねえちゃんは、ねこさんだー(*´・∀・`*)かわいいー!」

「ママが用意してくれたの。魔女さんは無理だったけど、猫さんでもいい?」

「いいよー!」


良かった。リコリスが喜んでくれて。



「アリス。靴。ここに置いとくぞ」

「ごめんね。ありがとう!」

「はあくん、いたのー?かげうすいから、わからなかったー!」

「さっきからずっといただろ。本当にアリスしか見えてねェな、お前は」

「リコはおねえちゃんしかみえなくていいもん!」


すると、リコリスがハルクの衣装をじーっと見ていた。それから私の衣装を見ると、頬を膨らませた。



「おねえちゃん!なんでリコとじゃなくて、はあくんとおそろいなのー!」

「いや、これはママが買ったからね。私がお願いして、お揃いにしたわけではないんだよ…」

「ずるい!ずーるーいー!リコもねこさんにしたい!」

「リコリスは魔女さんでしょ?」

「リコもおねえちゃんとおんなじがいいー!」


しまった。リコリスが駄々をこね始めてしまった。こうなると、なかなか直ってくれないんだよ。どうしたら、いいんだー!



「リコリス。何をそんなに怒っているの?」

「ママ!」


そこへ天の助けのママがやって来た。リコリスが私から離れて、ママの元に向かう。



「ママー。リコもねこさんになりたいー!」

「あら、魔女さんがいいんじゃなかったの?」

「おねえちゃんとおそろいにしたいー!ねこさんにする!」

「じゃあ、これをつけなさい」


そう言って、ママがリコリスのかぶっていた帽子を取り、猫耳がついたカチューシャをリコリスの頭につけた。



「ママ、なあに?」

「ふふ。鏡があるから、見てみなさい」


リコリスは自分の頭に何がついたか、まだわかっていない。玄関に姿見があるから、リコリスがパタパタとその前に向かう。



「…あー!ねこさん!リコもねこさんになれたー!」

「良かったな、リコリス」

「うん!」


ぴょんぴょんと跳ねながら、リコリスは喜ぶ。そんなリコリスに声をかけるハルク。



「リコとおねえちゃんとはあくんで、ねこさんだよ!でも、はあくんは、リコのしゃていー!」

「舎弟!?どこでそんな言葉を覚えたんだよ!」

「タスクがおしえてくれたー!」

「あの人、マジでリコリスに悪影響しか与えねェな…」


リコリスって、タスクさんにやたら懐いているのよね。うちに来てると、駆け寄って行くし。

リコリスがハルクと話してるうちに私は、ママにこっそりと尋ねる。



「ママ。あれ、どうしたの?」

「あなた達の衣装を買おうとした時に見つけて一緒に買ったのよ。リコリスは、きっとアリスと同じにすると言って利かないだろうから」


流石はママ。準備がいい。リコリスが言いそうなことをわかっていたのか。



「リコリスは本当にあなたにべったりね。でも、甘やかすのもいいけど、もう少し厳しくしなさい」

「そうだね…」


リコリスは猫耳のカチューシャをつけたまま、再度帽子をかぶった。
それから私達はママに見送られて、出発した。リコリスと手を繋ぎ、その後ろにはハルクもいる。変な人に絡まれないようにと用心もかねて、ハルクをつけたらしい。町内だから、顔見知りしかいないんだから、そんな心配いらないけどな。





その後。
町内イベントのハロウィンは、無事に終わった。
私もリコリスと一緒に色んな家を回って、お菓子を沢山もらった。中には、ハルクにまでくれる人も結構いた。

うちでもママやドラお兄ちゃん、カルロ達が来た子供達にお菓子を渡したそうだ。皆、喜んでくれたとママ達から聞いた。



「楽しかったねー!」

「たのしかったー!」


リコリスも途中から、帽子を取って、猫耳のカチューシャでいた。衣装も黒だったから、私と一緒だとお揃いに見えるらしく、「おねえちゃんとお揃いねー。可愛い」と声をかけられて、嬉しそうだった。
リコリスの帽子はどうしたかというと、ハルクがひもを使い、自分の首から、ぶら下げていた。子供用だから、かぶれないしね。ぶら下げていたから、歩いているうちにその中にお菓子を入れられたりもしていた。

帰ってからは、ハロウィンパーティーが開かれた。といっても、カボチャやお芋がメインになった料理を皆で食べただけなんだけどね。でも、料理はどれもおいしかったし、楽しかったな。

リコリスを部屋に送り届け、私も自分の部屋に帰ろうと廊下を歩く。

すると、私の部屋の前で何故かハルクが待っていた。服は着替えていたが、いつもの執事服でもなく、ラフな格好だった。お風呂でも入ったのかな?途中から、いつの間にか姿がなかったし。



「ハルク、どうしたの?」

「……」

「ハルク?」


声をかけても、何も言わない。どうしたんだろう?何か変なものでも食べたのかな?でも、ご飯にそんなのは入ってはなかったし。ハルクも沢山食べていたはずけど。



「ハロウィンでは、何て言うんだよ」

「ハロウィン?」

「そう。さっきまで言ってただろ」

「さっきまで?……ああ、トリック・オア・トリート!」


そう答えると、ハルクは私に何かを差し出して来た。お菓子だ。ハロウィン用なのか、小袋の中に猫の形のクッキーが複数枚入っていた。



「お前にやる」

「え?」

「用はそんだけ。じゃあな」


私にクッキーを渡すと、早歩きでその場から立ち去る。
が、急に立ち止まると、こちらを振り返る。



「……………お世辞じゃねェからな」

「何が??」

「今日、お前が着てた衣装、似合ってた」

「!!」


それだけ言って、ハルクは今度こそ行ってしまった。私は、その言葉に顔が真っ赤になった。

…何だろう。嬉しいけど、恥ずかしい。


私はしばらくの間、部屋に入れず、ドアの前で座り込んでしまった。その手の中にある猫のクッキーか笑っているように見えた───。





【END】
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