Small Halloween
数分後。
「……よし、出来た!リコリス、もう動いて大丈夫だよ」
「おねえちゃん、かがみー!」
「はい。どうぞ。お客様」
リコリスに手鏡を渡す。すると、リコリスが足をバタバタさせる。
「すごい!すごーい!かわいいー!リコ、まじょさんになれてる!」
「お気に召しましたか?」
「おきにめしましたー!」
「じゃあ、当日もこの髪でいこうか。帽子もかぶるし」
「リコ、ぼうしかぶるー!」
イスから下りて、置いてあった帽子を手に取り、かぶるリコリス。やばい。可愛いわ!これじゃあ、誘拐されちゃう。お姉ちゃんは心配よ。一緒にいる時は守らなくちゃ!
「おねえちゃんもリコとおんなじふく、きよう!」
「私も!?」
「うん。ふたりでまじょさんになるのー!」
「私にはそのお洋服がないの。だから、同じ服は着れないんだよ?」
「やー!おねえちゃんといっしょがいい!」
困ったな。後でママに衣装があるかどうかを聞いて来よう。
結局、リコリスには、「お洋服があったらね」とは伝えたが、魔女の衣装がなくても、コスプレはしないといけないかもしれない。
……………
………
…
取り合えず、ママのところに行って、私が着れるハロウィンの衣装があるかどうかを聞いてみたが、子供用のしかないらしい。私は、ホッと胸を撫で下ろした。
が、衣装はなかったものの、とある物を渡された。
「猫耳か…」
黒猫の耳が付いたカチューシャである。しかも、二つ。私には似合わないよ!リコリスがつけたら、可愛いけど、残念ながら、リコリスに合うサイズではない。どうしよう。
自分の部屋に帰る途中、廊下で掃除中のハルクの後ろ姿を発見した。掃除に夢中で、まだ私には気づいていない。
手にあるカチューシャを見て、私はとあるイタズラを思いつく。ふふふ。
私は静かに背後から忍び寄り、丁度屈んでいるハルクの頭にカチューシャをつけた。
「……………っ!?」
「ふふふ、隙あり!」
私は持っていた折り畳み式の小さな手鏡をハルクに見せると、ハルクが自分の姿を見て、言葉を失う。
「は?……アリス。お前、何つけさすんだよ!」
「似合ってるよ!」
「バカ!!似合うわけあるか!」
ハルクがカチューシャを慌てて取る。あー。せっかく似合ってるのに!
「そのままつけてればいいのに…」
「これが似合うと言われて、喜ぶ男はいねェから」
「ドラお兄ちゃんなら、つけてくれるよ」
ドラお兄ちゃん、こういうイベントの時は結構ノリノリでやってくれるし。
「オレをドラと一緒にすんな。で、これ、どうしたんだよ?」
「リコリスが私と同じ衣装を着て、ハロウィンに行きたいっていうから、お母さんに他に衣装がないかを聞きに行ってたの。子供用しかなかったんだけどね。それで唯一あったのが、この黒猫耳のカチューシャだけ」
「……だからって、何でオレにつけんだよ。自分でつけろよ」
「私、似合わないし。ハルクならピッタリだよ!」
「男のオレよりは似合うって」
すると、ハルクが持っていたカチューシャを私の頭につけた。
「!?」
「何だ。思ったよりは似合うじゃん」
「ちょっとつけないでよ!」
私は恥ずかしさのあまりもう一つのカチューシャをハルクの頭に再びつけた。
「っ!?アリス、またつけんな!!」
「ハルクが勝手につけるからでしょ!」
「お前もだろ!二度もつけやがって」
廊下でハルクとぎゃあぎゃあ言い合っていた。だから、周りのことが見えていなかった。
そこへ通りかかったカルロとリコリスがいた。黒猫の耳を互いにつけているアリスとハルクが何やら言い合っているのが見えた。普通ならば、何があったかと止めに入るのだが、あの二人の場合、あれが通常なので、カルロは大して気にしていないが、呆れていた。
「またですか。何をやっているんですかね、あの二人は」
「むー!またはあくん、アリスおねえちゃんと…。じゃましにいかなくちゃ!」
しかし、リコリスは二人を見て、頬を膨らませながら、睨んでいた。主にハルクを。
「リコリス様。お部屋に戻りますよ…」
「やだー!リコはおねえちゃんのところにいくのー!おろしてー!」
「ダメです。ヒナギク様がお待ちなので」
カルロは、リコリスがアリスの元に行かないように先手を打った。抱っこしてしまえば、リコリスは傍に行けないからだ。幸い、アリスとハルクはリコリスとカルロに気がつかなかった。
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