特別番外編2




「やだ!やだ!!」

「リコリス様。ほら、うさぎのぬいぐるみで遊びましょう?」

「やだー!やーなーの!」


リコリスのヤツ、また駄々こねてんな…。
ちらりと覗けば、リコリスが床の上で寝転がりながら、手足をバタバタとさせていた。近くにいた数人の使用人の女達がリコリスに手を焼いているようだ。リコリスの扱いに上手いクロッカスやアガットは外出していて、今はいないようだ。



「リコリス様…」

「おねえちゃんがいい!アリスおねえちゃんじゃなきゃ、やーだー!!アリスおねえちゃーん!」


アリスの名前を叫びながら、とうとう泣き始めた。こうなると、使用人のヤツらじゃ埒が明かねェ。見かねたオレは、リコリスの方に近づく。



「リコリス」

「はあ゛あ゛ぁ゛く゛ぅ゛ん!!」


オレの姿を見つけると、床から起き上がり、タックルするかのように勢いよく足に抱きついて来た。



「うわーん!」

「…よしよし」


泣き続けるリコリスを抱っこしながら、あやす。他のヤツらは、オレにリコリスを頼むと頭を下げて去って行く。
普段はワガママなんてほとんど言わないリコリスだが、アリスがおらず、寂しくなると、機嫌が悪くなり当たり散らすことがある。こういう時はクロッカスやアガットがリコリスを上手く誘導するから、ここまでぐずらないのだが…。



「はあくん!アリスおねえちゃん、まだー?まだかえってこないの!?」

「アリスはもう少ししたら、帰って来る。リコリスもちゃんとイイコで待てるだろ?」

「まてない!もうまてないー!アリスおねえちゃんをむかえにいくー!いくのー!」


いつもなら、ちゃんと待てると返事するはずなのに、さっきの女達が何か余計なことを言ったから、リコリスはぐずったままだ。しまいにはアリスのところに迎えに行くと言う始末。

こうなると、オレでもダメなんだよな。



「アリスおねえちゃん!おねーちゃん!」

「わかった。玄関でアリスを待とう」

「はやくー!はやくいくのー!はあくん!!」


抱っこしながら、暴れようとするリコリス。ここまでになると、もうアリスじゃないということをきかない。

玄関に着くと、リコリスは降ろせと暴れるから素直に降ろした。すると、リコリスはドアの前から離れない。



「リコリス。そこじゃ帰って来るヤツの邪魔になるだろ。もう少しこっちに来い」

「やー!ここでまつのー!」


もうアリスが帰って来るまで、あそこから絶対に離れないだろう。アリスのことになると、本当に頑固だよな。だが、玄関に来たからと行って、アリスは帰って来ない。しかし、リコリスはその場から離れない。ずっと立っていたかと思えば、座り込んだりもする。目線だけはドアから離さねェが。

その時、玄関のドアが開き、「ただいま」と声がして、誰かが入ってくる。すぐにリコリスが反応し、抱きつく。



「おねえちゃん!!」

「……え、リコリス…?」

「おかえりなさい!アリスおねえちゃん!」


幸い、帰って来たのはアリス。ギュッとしがみついて、アリスから離れない。離れようとしなかった。



「ハルク、リコリスはどうしちゃったの?」

「お前がいないって、駄々こねてたんだよ。すげー泣き騒いで大変だった」

「そうなんだ…。リコリス、ただいま。一緒にお部屋に戻ろう?」

「だっこ!」


アリスに抱っこをせがむリコリス。アリスは嫌がることなく、リコリスを抱っこする。さっきまで泣いてたリコリスは満面の笑みを浮かべている。



「アリスおねえちゃん、ずっといっしょ!」

「うん。一緒」

「えへへ…」


リコリスがアリスにべったりなのも今だけだろう。もう少し大きくなれば、離れて行く───オレはそう思っていた。

しかし、リコリスはアリスから離れようとせず、更にオレ達を困らせることになることをこの時のオレは知らない。





【END】
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