特別番外編1
私が部屋でお菓子作りの本を読んでいたら、ドアが控えめにノックされた。返事をすると、入って来たのは、一番下の妹であるリコリスだ。
「アリスおねえちゃん」
「どうしたの?リコリス」
目が大きく、可愛い顔をしたリコリス。少し恥ずかしがり屋な妹はモジモジとしながら、私の前に一冊の絵本を見せてくる。
「あのね…えほんをよんでほしいの。……だめ?」
上目遣いして、おねだりしてきた。可愛い。妹が可愛い過ぎる!!
「いいよ。おいで」
「うん!!」
リコリスが私の膝の上に座る。私が読んであげる時は、いつもこのスタイルだ。
しばし絵本を読んでいたら、ドアがいきなり開く。入って来たのは、使用人で私と同い年のハルク。
「お前ら、またひっついてるのかよ」
「いいでしょ!私達は姉妹なんだから。ねー!」
「ねー!」
リコリスが私の真似をして、可愛い。何で妹はこんなに可愛いんだろう!
というか、ハルクも出会った頃はあんなに可愛かったのに、何でこんなに生意気になったんだろう。よく私の後をついて来てたのに…。
「……何だよ、アリス」
「昔は私の後をついて来て、可愛かったのになと思って」
「んなことしてねェよ!」
ハルクの中では、その記憶がまったくないことになってるらしい。解せぬ!
「可愛くなーい!」
「可愛いなんて言われたくねェし」
「かわいくなーい!」
「ほら、リコリスもそう言ってるよ!」
すると、リコリスが私の服を少し掴みながら、言ってくる。
「おねえちゃん。えほんのつづき、よんでー!」
「いいよ。ハルクなんか放って、絵本を読もうね」
「うん!」
笑うリコリスを見ながら、私は再び絵本に目を向けた。リコリスは本当に可愛い!
一方。
アリスが絵本を読み始めると、リコリスがハルクに向けて、鼻で笑った。その顔を見て、ハルクはイラッとした。
そう。このリコリスは、ハルクに対して、ライバル視をしているらしく、密かに彼の邪魔をしていた。どうやらハルクがアリスに好意を持っているのが気に食わないようだ。
そして、ハルクも知っている。リコリスがアリスにだけ猫をかぶって、演技していることを。あのおとなしめで甘える姿を見せるのはアリスにだけだ。それ以外の人間には、ハキハキと受け答えをしている。
(……あっの、ガキ!)
(ふん。アリスおねえちゃんは、わたしのものよ!)
今日も彼らは、アリスの見えないところで火花を散らしていたのだった───。
【END】
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