Sister




アリスと街に行き、買い物から帰って来た。
コイツの場合、いつもそうだが、今日はやたらと買うモンに迷いまくって全然決まらねェから、余計に疲れた。よく耐えた、オレ。頑張った、オレ。
ま、買い物帰りにレストランで好きなモンを食わせてもらったけどな。アリスも珍しく何も言ってこなかった。



「で、これはいつ渡すんだよ」

「もちろん、誕生日当日だよ。それまでに私の衣装部屋に置いといて」

「ん、わかった」


今日のアリスの買い物は、リコリスの誕生日プレゼントを買いに行くのが目的だった。すげー悩んでいたが、リコリスはきっとアリスからもらえるなら、何でも喜ぶだろう。
昔、アリスからもらったという手紙や似顔絵は未だに全部取ってあるし、プレゼントも全部大切に保管してる。包装紙とかも含めてな。それいらなくねェ?とオレがつい言ったら、「これもいるの!」と怒られた。

リコリスが言うには、包装紙やリボンも「私のことを考えて、私のために選んでくれた」からだと。
理解不能。オレには、手に負えねェ。


アリスの衣装部屋に行き、リコリスの誕生日プレゼントを運び込み、アリスのところへ戻ろうとすると、廊下でリコリスと話しているのを見た。

少し離れたところから見れば、リコリスはアリスと二人で話せるのが相当嬉しいのか、ニコニコしていた。
しっかし、かなりにやけてんなー。アリスの前だから、まだ平静を装っているけど、心の中ではアリスに抱きつきたくて、ウズウズしてるに違いねェ。



「にやけてるなー、リコリスは」

「っ!?」


一瞬、自分で口に出したかと思った。しかし、その声はオレの隣から聞こえてきた。
横を見れば、クロノが立っていた。いつの間に!



「久しぶりだな、ハルク。お前がアタシの買い物から逃げて以来か」

「あー、あの時は悪かった。車を乗り間違えてさ」

「間違えてないだろう?最初からアリスのいる車に乗ろうとしていただろう」


げ、バレてる!
オレがアリスの車に逃げ込んだことが。



「別に責めてるわけじゃない。もう終わったことだしな」

「なら、もう言うなよ…」

「だが、アリスの買い物には、一緒に行くんだな」

「見てたのか?」

「たまたま買い物に来ていたら、お前達を見たんだよ。ハルク、なんだかんだ文句言いながらも、アリスの買い物に最後まで付き合っているじゃないか」

「あれはアリスがなかなか決められねェから。別にアイツだからって、一緒に行ったわけじゃねェよ」

「おや、そうなのか?アリス以外の妹達の買い物にはほとんど一緒に行かないくせに」


うっ。何で知ってんだよ。
てか、アリス以外ならリコリスの買い物には何度か行ったことはある。最初の頃だけど。最近はタスクさんに脅され…譲ってるしな。



「あるって。リコリスとかの買い物にも付き合ったことあるし」

「最近はないだろう?お前が買い物に行くのは、アリスだけだ」


確かに他の姉妹達の買い物には行ったことねェな。
ラセンには何度か誘われたことはあるが、タイミング悪くて行けなかったし。エリーゼとはあまり親しくねェから、論外。リンネは、アイツのセンスをわかってねェと怒られる。だから、リンネの場合は限られた相手としか買い物に行かねェんだよな。

だけど、クロノのヤツ、なんでそんなに突っ込んでくるんだ?



「…たまたまだ!」

「ふーん。それなら今度はラセンの買い物に付き合ってやれ。一緒に行きたがってたからな」

「気が向いたらな」


ラセンの買い物ならば、そんなに問題はねェな。
オレとクロノが話しているのが見えたのか、アリスとリコリスがこちらを見ていた。そして、アリスがこちらにやって来て、あろうことかクロノに抱きついた。



「クロノお姉ちゃん!」

「アリス。相変わらずお前は可愛いな」

「えへへ。ありがとう。そう言うお姉ちゃんは、いつもかっこいいよ!」

「ありがとな」


そう言い、アリスの頭を撫でるクロノ。
てか、アイツも普通に笑えんだな。普段からああしてれば、いいんじゃねェの?

ふとリコリスを見れば、ショックを受けた顔をしていた。完全にクロノにアリスを取られたと思っている。オレはそんなリコリスの元に近づく。



「はあくん!アリスがクロノ姉さんに取られたのー!」

「たまにはいいじゃねェか。楽しそうに話してんだし」

「いやよ!アリスには私を最優先して欲しいの」


自分を見ろと駄々をこねる面倒な彼女みたくなってる。てか、アリスは彼氏じゃなくて妹だろ。いつもは冷静なリコリスは、アリスのことになると超面倒になるからな…。

そうしていたら、クロノと話していたアリスがどこかへ駆け出してしまった。すると、クロノがオレ達のいる方にやって来る。



「なんだ。またアリスがいないと寂しい病が発病してるのか?リコリス」

「クロノ姉さん。そう思っているなら、私からアリスを取らないで!」

「たまにはいいだろ?アリスと話したって。アタシの妹でもあるんだし」


アリスいないと寂しい病って、わけわかんねェ。リコリスしかならない病だな。



「なんだ?ハルク。何か言いたそうな顔をしてるぞ」

「いや、別に…」

「そろそろアリスかリコリス、どっちの専属執事になるか決めた方がいいんじゃないか?」

「は?専属??」


なんでいきなりそんな話になんだよ。別に専属は今決めることでもねェだろ。



「もうクロノ姉さんったら、そんなの決まっているじゃない!はあくんはアリスの専属になりたいのよ」

「リコリス!?」

「そうだったのか?ま、いつもアリスの傍を離れないと聞いてはいたが。アリスが可愛いのはわかるが、まだ手だけは出すなよ?」

「そうよ!はあくん。アリスが超絶可愛いからと言って、絶対に手は出さないでね!アリスには、まだまだ可愛い妹でいてもらいたいんだから」


オレがアリスに手を出す前提かよ。何でオレがあんなお子様に…。可愛くないわけじゃねェけど、ガキに手を出すほど飢えてねェよ!



「ガキに興味ねェし」

「そうなのか?そのわりには、アリスの部屋に入り浸っているらしいな」

「誰から聞いたんだよ」

「使用人達からだぞ。ハルクを探す時は、アリスの部屋に来た方が早いとか言ってたからな」


それを言ったのは、カルロか?
いや、でも、カルロはクロノとはあまり関わらないようにしてるから、他のヤツか。お喋りなヤツが多いな。後で言っておかねェと。



「アリス自体は、専属にするならカルロかドラがいいって言ってたぞ」

「カルロはアリスに対して、かなり甘いからな。アリスの言うことを何でもきいてしまうから、専属にはさせないだろう。ドラの方はその点は問題ないが、アリスよりは別の姉妹の専属になった方がいい。アリスには、お前が一番適任だとアタシは思うけどな」

「オレにはガキの相手がお似合いってことか?」

「そうとも言うな。精神年齢はアリスと同じくらいだから」


どういう意味だ!
オレの中身もガキだって言いてェのかよ。



「ところでクロノ。アリスはどこに行ったんだよ」

「そうだわ!クロノ姉さん。アリスをどこに行かせたの!?」

「アリスか?アリスなら、そろそろ戻る頃だぞ」


と、丁度そこへパタパタと駆けてくる足音が聞こえた。振り返るとアリスがこちらに戻って来た。



「リコリスお姉ちゃーん!」

「アリス!」


リコリスが笑顔でアリスに向かって、手を広げて出迎える。アリスもリコリスに抱きつく。抱きしめながら、アリスには見せない顔でニヤニヤとしているだろう。クロノがそれを見て、ゲラゲラと笑っていた。



「あのね、リコリスお姉ちゃん。お茶会しよう!」

「え?」

「クロノお姉ちゃんがケーキを買って来てくれたの!もうすぐリコリスお姉ちゃんの誕生日だからって」

「クロノ姉さん…」

「当日は祝ってあげられないからな。アタシから早めの誕生日プレゼントだよ」

「他の皆にも集まってもらってるから、後はリコリスお姉ちゃん待ちなの。だから、一緒に行こう!」

「そうね。可愛い妹達が待ってくれているなら、急いで行きましょうか」

「あ!クロノお姉ちゃんもすぐ来てね!」

「おう、わかった」


アリスはリコリスと手を繋ぎながら、そこから離れる。
さて、オレも後を追うか。アイツ、変なところでドジを踏みそうだしな。



「ハルク」

「なんだよ、クロノ」


行こうとしたら、クロノに呼び止められた。



「可愛いだろ?うちの妹達は」

「……そうだな。ちょっと面倒なとこもあるけど、飽きねェな」


それだけ言って、オレはその場を後にした。

ハルクの姿を見送りながら、クロノは呟く。



「お前もそうやって、笑えるようになったんだな。それも妹達のお陰か」





【END】
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