IF 前






翌日。
リコリスと顔を合わせる前に家を出た。今、リコリスの顔を見ると、また文句を言っちまいそうだしな。リコリスは朝が弱いから、まだ起きてはいねェだろう。

待ち合わせた喫茶店に来ると、相手は既に待っていた。目が合うと、アイツがオレに手を振る。



「ハルク!」

「……もう来てたのかよ」


オレが待ち合わせたのは、アリスだった。
アリスとは久々に会ったせいか、リコリスと雰囲気が少し似てたから、一瞬戸惑った。姉妹だから、似るのは当然なんだよな。姉妹の中で一番似てるし。
そう考えながら、アリスの向かい側の席に座る。



「うん。ここのモーニングセットが食べたかったから」

「相変わらず、二十歳になっても、食い気だな」

「歳は関係ないでしょ!おいしいものは、いつでも食べたいの」


そう言いながらも、昔から変わらないところもあった。アリスにこの店のメニューを見せてもらうと、オレの腹が鳴る。腹へったから、オレも何か頼むかなと考えていると、アリスが言ってきた。



「あ、ハルクの分も頼んでおいたよ?朝はまだ食べてないんでしょ?」

「食べてねェけどさ。もしも、食べて来てたら、どうすんだよ…」

「朝を食べてても、ハルクなら絶対に食べるよ。食べるの好きなんだから。それに昔、私の食事をちょこちょこ取ってたのは誰だっけ?」


アリスの言い分を言い返せなかった。それにアリスのことだから、オレの好みもわかっているはずだろう。

そこへ店員が飲み物を運んできた。アリスの前にはアイスミルクティー、オレの前にはアイスコーヒーが置かれる。店員が去ってから、オレはアリスに言った。



「悪いな。急に呼び出して…」

「別にいいよ。今日は休みで、特に予定もなかったから」

「リクは仕事か?」

「うん。しばらくは休みなくて、忙しいみたい。落ちついたら、一緒に旅行に行く約束はしてるんだ」


嬉しそうにそう話すアリス。どうやらリクとは上手くいっているようだ。くっつく前は、あんなにオロオロうじうじ悩んでたのにな。



「アリス。リコリスを何とかしてくれよ!」

「え。私?ハルクのいうことの方がきいてくれるよ…」

「いや。お前のいうことなら、素直にきくはずだから!」

「何があったの?」


オレは、アリスにこれまでのリコリスのことについて話した。時折困った顔をしたりしながらも、アリスは最後まで話を聞いてくれた。



「……」

「何だよ?」


話を終えた後、アリスが何故かオレをジッと見てきた。顔に何かついてんのか?
しかし、アリスもキレイになったよな。本人には言うつもりはねェけど。あんなちんちくりんなガキだったのに…。



「ハルク、私に嫉妬してるでしょ?」

「なっ…!んなことねェよ」

「だって、リコリスお姉ちゃんが毎日私の話ばっかりするから、面白くないんでしょ?」


それは昔からそうだけどな。そこは黙っておこう。



「リコリスお姉ちゃんに言ったら?私の話ばかりしないでくれって」

「言って直るなら、こんなに苦労してねェよ」


あー。喉が渇いた。置かれたアイスコーヒーを飲む。いつもならミルクやガムシロップを入れるが、今日はどちらも入れずに飲んだ。



「ハルクって、リコリスお姉ちゃんのこと、本当に大好きだよね!」

「…っ!?……ごほ、ごほっ!何言っ…ごほごほ!」


アリスが急に変なことを言い出したから、アイスコーヒーでオレはむせた。
ようやく落ちついてから、アリスを睨む。



「バカ!いきなり何言ってんだよ!」

「えー。本当のことでしょ?私、間違えたこと言った?」

「……そ、れは間違ってねェけど…」

「ほらね。私、昔から思ってたんだよ?二人はお似合いだなって」

「え…」


確かによくアリスに、オレとリコリスが付き合ってるんじゃないかと何度か言われたことあるけど。そん時は、本当にリコリスのことはダチにしか思ってなかったし。あの時はアリスのことが好きだったから、そう言われて、ショックだったな。ま、コイツには絶対に言わねェけど。オレが好きだったことも気づいてねェだろう。鈍いからな。



「二人が恋人になれて、私は嬉しいんだから」

「アリス…」

「あ、でも、リコリスお姉ちゃんを泣かせたら許さないからね!私は常にリコリスお姉ちゃんの味方だから」


おい。オレの感動を返せ。

それから頼んでいたものが届いて、アリスと食事した。アリスが頼んだオレのは、メニューを見た時にオレが食べたいと思っていたものと同じ。やっぱり長い間一緒にいたから、好みはわかってんだな。アリスはオレのとはまた違うものだったから、ちょいちょい横取りをしてみた。これもうめェな。案の定、アリスに怒られたが。

デザートまで食べ終わり、オレとアリスは会話などしながら、まったりと過ごしていた。この喫茶店、居心地良過ぎなんだよな…。



「アリス。お前、この後予定ねェって言ってたよな?」

「うん。ハルクと別れた後はショッピングや本屋にでも行こうかなと考えてたくらいだし」

「じゃあ、うちに来い」

「え?」


昨日、アリスに連絡を取ってから、オレは密かに決めていた。アリスをうちのマンションに連れて行こうと───。





【to be continued…】
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