Vacation Villa 後




この別荘に来て、二日が経った。リコリスお姉ちゃんと一緒で楽しく過ごせた。明日も明後日もまだここにいたいと思うくらいに。
でも、明日は家に帰るから、別荘に泊まるのは今日が最後の夜。

何となく眠れなくて、私は部屋を抜け出す。リコリスお姉ちゃんとは、部屋が別だから起こすこともない。初日の夜に一緒に寝ようと言われたけど、流石に断った。悲しい顔させてしまったが、私もいつまでもリコリスお姉ちゃんにべったりと言うわけにはいかないから。もう中学生だしね。

リビングに来ると、初日にリコリスお姉ちゃんと一緒に座ったソファーに腰をかけた。そこから、外を見た。昼間の景色とは、また違う美しさだった。



「……星がキレイ…」


空を見れば、キラキラと星が輝いていた。都会ではこんな風に見ることは出来ない。

こんなことなら、もっと夜空に関する本を読めば良かったな。星座や神話とか色々と調べてたら、もっと楽しめたのに…。
帰ったら、少しずつ読んでいこうと決めた。



「……お前、こんなところで何してんだよ」

「え」


突然、声がして、振り返ると、ハルクがいた。黒のTシャツに青の長ズボンで、肩にはタオルがかけられていた。
あれ?お風呂に入ってたの?それかシャワーかな。



「ハルクこそ…」

「露天風呂、入ってたんだよ。いつでも入れるって聞いてたから。んで、部屋に戻ろうと歩いてたら、ソファーにお前がいたから」


露天風呂か。私も夕方、リコリスお姉ちゃんと入ったっけ。確かに気持ち良かった。



「んで、お前は何してんの?」

「私は眠れなくて、ここで星を見てる」

「星?部屋でも見れるのにか?」

「部屋よりこっちの方がキレイに見えるの!」


もうわからないんだから!
ハルクって、星空を見るタイプでもないしな。リク先生なら、見てそうよね。前に神話の話とか知ってるみたいなこと言っていたし。今度、聞いてみよう!



「部屋には戻らねェの?」

「まだ戻らない。しばらくはここにいて、星を見てる。だから、ハルクは自分の部屋に戻っていいよ」


私に無理に付き合うことはないと、あくびを堪えるハルクにそう言った。だが、ハルクはその場を立ち去らずに、何故かソファーに座る。



「?」

「オレ、別に運転するわけじゃねェからな。眠くなったら、車で寝ればいいしな」

「え、どういう意味??」

「……」


無視!?というか、ハルクは一体、何を言っているの?確かに運転は、クロッカスがしてくれたから、帰りもそうなんだろう。
ハルクって、バイクの免許は持ってるけど、車は取らないのかな。車の方が便利なのに…。



「ハルクって、車の免許は取らないの?」

「車?今はいい。バイクで充分」

「何で?車は便利だよ!」

「お前、オレに運転させようとしてるだろ…」

「あ、バレた?」

「バレバレに決まってんだろ。それにリコリスも同じこと言ってたからな…」


シゲさん達が嫌なわけじゃないんだけど、あちこち運転させるのは申し訳ないし。その点、ハルクなら全然気は遣わなくて平気なんだもん。



「よし。こうなったら、私が18歳になったら、車の免許を取ろう!」

「お前が!?無理だって止めとけ」

「無理じゃないもん!」

「無理!」

「むー!じゃあ、私が免許取れたら、一番最初にハルクを助手席に乗せてあげる!」

「……は?」


ハルクが変な顔をしていた。
だが、ハルクは私に免許なんて取れないと思っているんだから、取れた暁には、助手席に座らせてやるわ!今更、嫌な顔をしたって、無理やり乗せてやるんだから!




「リコリスは乗せてやんねェの?」

「お姉ちゃんは練習してからだよ。それまではハルクに犠牲になってもらう」

「……リコリスに自慢出来るかもな」

「え、何か言った?」


何かよく聞き取れなかったから、聞いたのに、ハルクは「何でもねェ」と返してきた。

私は、再び窓の外を見た。プラネタリウムも好きだけど、やっぱり本物の空には敵わないな。



「私も死んだら、星になるのかな?」

「……………はあ?」

「昔、死んだらお星さまになるって聞いたことあるから、本当にそうなのかなって」

「星、ねえ…。てか、まだ生まれて10年ちょっとしか経ってねェヤツが何言ってんだ。今から死んだことを考えるには早すぎだろ?」

「そうなんだけどね」


私は夜空を見上げる。
うーん、星座の形とかうろ覚えだから、せっかくこんなに空気が澄んでて、よく見えるのに悔しい!
流れ星が流れたら、お願い事とか叶いそう。よし。流れ星を探そう。なら、ここではなく、もっと見られる場所で探そう。私はソファーから立ち上がることにした。



「何だ?部屋に帰んのか?」

「帰らないってば!もっと見たいから、外で見るの!」

「ふーん…」


聞いてきといて、興味なさそう。もうつまらないなら、部屋に戻って寝たらいいのに…!

窓を開けて、私は外に出た。

これなら寝転がって見た方がいいかもしれない。ずっと同じ姿勢だと首に負担かかるし、見ていたいけど、首が痛くなってきたんだよね。
そういえば、リビングにレジャーシートがあったはず。一度リビングに戻り、レジャーシートを探す。ドア近くに置いてあるのを見つけて、私はそれを持ち出す。



「アリス。レジャーシートなんか持って、何すんだよ?」

「寝転がって見るんだよ。それで流れ星を探すの!」

「寝転がる?絶対にそのまま寝ちまうって」

「寝ないもん!」


私は外に出ると、レジャーシートを広げる。私一人分あればいいのに、持ち出したシートはかなり大きかった。ま、いいか。
早速、私はレジャーシートの上に寝転がった。

これで首は痛くならないし、夜空だけに集中出来るぞ!

それから寝転がって、流れ星を探す。だが、なかなか見つからない。うーん、ないな。こんな空なら、いつ流れてもおかしくないのに…。私が見逃してるだけかな?うーん。流星群とかあったら良かったけど、今月はないし。次はいつだっけ?

そんなことを考えていた時、私の視界にいきなりハルクが現れた。



「わぁっ!?」

「流れ星は見つかったか?」

「ちょっと驚かせないでよ!」

「お前がしばらく動かねェから、寝てんのかと思って見に来たんだよ。お前に何かあると、うるせェのがいるから」


すると、ハルクが私の横に座ったと思ったら、私と同じように寝転がった。



「…へぇ、こんな感じか」

「ねぇ、空がキレイでしょ?」

「何とも思わねェな」

「ハルクはこれだから…」

「てか、空ばっか見て、飽きねェ?」

「飽きないよ!キレイだし、ずっと見てたいくらいだもん!!」

「お前、変わってんな…」


失礼な!ハルクが飽きっぽいだけでしょ。もう!私は、再び流れ星を探すことにした。

しばらく空ばかり見ていたのと寝転がっていたら、だんだん眠くなってきた。寝ない。まだ寝たくない。流れ星を見つけるんだから。ここで寝たら、ハルクに……ながれ、ぼし…。

気づくと、私は眠りに落ちていた───。





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