Warm Sunlight
その夜。
この屋敷の一番下の妹であるリンネを寝かしてから、奥様に勉強を見てもらっていた。
何故かアリスもオレの隣で本を読んでいた。お前は寝る時間じゃねェのかと聞いたら、「まだねむくなーい!」って答えた。昼寝したのが遅かったせいかもな。それ以上は言わなかった。
「ええ、ちゃんと復習しているわね。こないだ間違えていたところも出来ているわ。基礎も出来てきたし。この調子なら、次に行ってもいいかもしれないわね!」
「ありがとうございます!」
「ありがとーございまーす!」
「アリス。真似すんな…」
「まねすんなー!」
アリスがオレと同じ言葉を繰り返す。その様子に奥様は笑い出す。
「うふふ。アリスはあなたになついているのね。ずっと傍から離れないし」
「なついているというよりは、遊ばせられてるだけです」
「ママ。ハルクとあそぶのたのしいんだよー!」
「良かったわね。優しいお兄ちゃんが出来て」
「おにーちゃん?ハルクはハルクだよー!」
ったく。またコイツは、わけわからんことを言い出して。呆れながら、アリスを見ていたら、また本を読み出した。マイペースだな、コイツ。
「あなたもここに来た時よりも、穏やかになったわね」
「え?そんなことは…」
「周り全てが敵みたいな顔をしていたから、ずっと心配だったのよ。彼も言ってたわ。無理に連れて来てしまったんじゃないかって。だけど、アリスといるようになって、あなたが笑ってる姿を見て、連れて来たのは正解だったって。私もそう思うわ」
インカローズ様、オレのことをそこまで心配してくれてたんだ…。奥様も。
「これからもよろしくね。アリスのことも含めて」
「はい。ありがとうございます」
「ありがとーございまーす!」
またコイツは、オレの真似しやがって…。
「ハルクー。めがさんかくになってるー!こわーい!」
「こら、逃げんなー!アリス!」
アリスは、オレの隣から奥様の背中へと逃げた。こういう時だけは、すばやいな…。そんなオレ達に奥様は楽しそうに笑っていた。
数日後。
アリスと廊下を歩いていると、誰かが倒れていた。倒れてるヤツを見て、アリスが「リコリスおねえちゃん!!」と一目散に駆け寄っていくから、オレも後を追う。
「おい。大丈夫か?」
「……っ…」
倒れていたのは、アリスの言う通り、アイツだった。身体を起こすと、顔が真っ赤だった。額に手を当てると、かなり熱い。熱あんじゃん、コイツ。
「リコリスおねえちゃん…」
「アリス。コイツの部屋はわかるか?」
「わかるよー!」
「なら、案内しろ。コイツを部屋に運ぶから」
「うん!」
倒れたアイツを背負うと、前を歩くアリスの後をついてく。
部屋に着くと、アイツをベッドに寝かせる。流石に着替えはさせられないから、ボタンを何個か緩めるだけにしといた。
「アリス。お前は誰かに頼んで、医者を呼んでもらってこい」
「わかったー!」
アリスが部屋を出て行った。
オレも一度、部屋を出て、タオルを探しに行く。洗面所に行って、タオルを見つけて濡らす。あとは洗面器を取り、水を入れ、タオルと一緒に持って、アイツの部屋に戻る。タオルを絞ってから、それを額に置く。
アリスはまだ戻って来ない。オレは近くにあった椅子に腰をかけた。
すると、寝ていたアイツが目を覚ました。
「大丈夫か?」
「……どうして、助けてくれたの…?」
「別に。借りを返しただけだよ」
「借り?」
「前にオレが泣いてたのを見ないフリしてくれただろ?」
「……アリスの言った通りね」
「え?」
「あなたが来てから、あなたの話しかしなくなったのよ、アリス。「ハルクはやさしい」って、いつも話すから、アリスを取られたと思って…。だから、ついあなたに意地悪しちゃった。ごめんなさい」
アイツが寝たまま、謝って来た。悪いことをしたら、ちゃんと素直に謝れる。オレには真似出来ない。
「今、こんな姿でしか謝れないけど、治った時にまた…」
「いい。もう謝らなくても。オレだって、お前と同じ立場なら、そうしてるだろうし。だから、気にすんな」
「……ありがとう」
「……ん。病人なんだから、もう休め」
そう言うと、アイツは眠ってしまった。
しばらくして、アリスがメイドと医者の女を連れて来た。着替えをさせるからと言われて、オレはアリスと一緒に部屋を出た。
「ハルク。おねえちゃん、だいじょうぶかなー?」
「ゆっくり休めば、大丈夫じゃね。元気になったら、見舞いに行けばいいし」
「そのときはハルクもいっしょにいこー!」
「わかった」
「えへへ!」
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