Warm Sunlight
………
……
…
それからしばらくの間は、夢中で勉強していた。ふと集中力が途切れたから、ペンを置く。時計を見ると、11時半を過ぎていた。
そういや、アリスは何して…。勉強机から、後ろを振り返ると、アリスは相変わらずクレヨンで何かをせっせと描いていた。
椅子から立ち上がり、アリスの横に座る。
「何描いてんだ?」
「おはなー!」
花、ね…。
見てみると、赤と黄色と白の丸々としたものの下に黄緑色の細長い何かがあった。黄緑のは茎と葉っぱか。てか、何だ?この花は…。
「アリス。これ、何の花?」
「チューリップだよー!」
「あー。花壇にあったな…」
屋敷の庭にある花壇に咲いていたっけ。アリスがキラキラした目をして見ていたから。よく庭師のじいさん達と話して、チューリップをもらって喜んでいたし、その花は部屋にも飾っているんだろう。
「さっきはさくらをかいたのー!」
「桜か。どれどれ……なんだ、こりゃ。ハートばっかじゃん」
「さくらって、ハートのかたちのおはながくっついてるんでしょー?」
「違う。こういう形だって」
オレは、アリスのお絵かき帳のまだ何も描かれていない紙にピンクのクレヨンを使い、桜を描いてみる。
「ほら。これが桜」
「ハルク。じょうずー!」
アリスがオレの描いた絵を見て、喜んで拍手する。
「こんなの、簡単に描いただけ。誰でも描けるって」
「もっとかいてー!さくらー!」
「何でだよ…」
「ハルクのさくらー!もっとみたいー!」
アリスに促されて、桜を描く。その後も色んな花を描いてとせっつかれながらも描いてやる。その度にアリスは喜んだ。「すごいー!」「じょうずー!」って、笑いかけてくれるだけなのに…。何故かオレは、泣きそうになった。
オレが何かして、誰かに喜んでもらえたことは、一度もなかったから。
「ハルクー?ないてるのー?」
「……っ、泣いてねェ…よ」
「……いいこー!」
アリスが立ち上がって、オレの頭を撫でる。立たないと届かないからだろう。
「ハルクはいいこー!わたしがほめてあげるー!」
「……ばか。なん、でお前が誉めんだよ…」
「ほめてって、かおしてたから!」
「そ、んな…わけ…」
「だから、わたしがほめるのー!ハルクはじょうずにおえかきできるからー!」
何でコイツはわかるんだよ。誰もオレのことなんて、誉めてくれなかった。両親でさえも。
誉めて欲しかった。ただ一言でいいから。「上手だね」って…。
我慢していた涙がポロポロ溢れた。拭っても、溢れ出てきて、止まらない。
「ハルクー?」
「泣いて…ない」
「わたししかいないよー?」
「知ってる」
「ここでハルクがないても、だれもわからないよー!」
一瞬、何言ってるか、わからなかった。
だけど、アリスはここには自分しかいないから、泣いてもいいと言ってる気がした。
「……っ」
「ハルクー?」
言葉に甘えて、アリスを抱っこしながら、オレは気が済むまで泣いた。その間、アリスはずっと「いいこー!いいこー!」ってオレに言っていた。
どれだけ泣いていたか、わかんねェ。だけど、アリスがオレを見て、言った。
「うさぎさん!」
「……」
「ハルクうさぎさん!」
「…うるせェ。ばか」
泣き腫らして目が真っ赤になったオレを見て、アリスが楽しそうに笑う。
そこへ「アリスー!」と呼ぶ声。
げっ。オレが泣いていたことがバレる。隠そうとする前にアイツは部屋に来てしまった。
「リコリスおねえちゃん!おかえりなさーい!」
「ただいま!私のお出迎えはしてくれないのー!?玄関にいないから、探したのよー!」
アリスを抱きしめながら、アイツは言った。すると、アリスは「あ」っと小さい声を上げて、素直に謝る。
「ごめんなさい。わすれちゃったの…」
「……。仕方ないわ。明日はちゃんとお出迎えしてね?」
「うん!」
それだけ言うと、アイツは静かに部屋を出て行った。オレの顔を見たはずなのに、見ないフリした。
いつもならオレを睨んで、何か言って行くのに…。
「リコリスおねえちゃん。ほんとうはね、ハルクとなかよくしたいんだよー?」
「……そんなわけねェじゃん。アイツ、お前がここにいるから、来るんだよ」
「ちがうよー?おねえちゃんもハルクとおはなししたいのー。だって、わたしが「ハルクといっしょはたのしい」ってはなしたら、「わたしもはなしてみようかしら」っていってたもん!」
お前と一緒にいるオレが気に食わないだけ。それ以外にねェだろ。
「リコリスおねえちゃんね、がんばりすぎちゃうところがあるの!」
「え?」
「まいにち、まいにち、がんばってならいごとしてるの。でもね、こないだいってたの。「ほんとうはならいごとなんかしたくない。ならいごとなんかなければ、アリスとずっといっしょにいられるのに」って、なきそうなかおしてた…」
「……」
「おねえちゃん、ひとりでがんばりすぎちゃうの。むりしちゃうのー。だから、ハルク。リコリスおねえちゃんとなかよくなってあげてー」
アイツも苦労してんだな。皆の期待を受けて、必死に応えようとして。アリスの前でしか弱音を出せなくて…。
「考えとく」
「だめー!なかよくなるのー!」
アリスがそう言っても、アイツは嫌がるかもしんねェからな。無理強いは良くねェ。
.
……
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それからしばらくの間は、夢中で勉強していた。ふと集中力が途切れたから、ペンを置く。時計を見ると、11時半を過ぎていた。
そういや、アリスは何して…。勉強机から、後ろを振り返ると、アリスは相変わらずクレヨンで何かをせっせと描いていた。
椅子から立ち上がり、アリスの横に座る。
「何描いてんだ?」
「おはなー!」
花、ね…。
見てみると、赤と黄色と白の丸々としたものの下に黄緑色の細長い何かがあった。黄緑のは茎と葉っぱか。てか、何だ?この花は…。
「アリス。これ、何の花?」
「チューリップだよー!」
「あー。花壇にあったな…」
屋敷の庭にある花壇に咲いていたっけ。アリスがキラキラした目をして見ていたから。よく庭師のじいさん達と話して、チューリップをもらって喜んでいたし、その花は部屋にも飾っているんだろう。
「さっきはさくらをかいたのー!」
「桜か。どれどれ……なんだ、こりゃ。ハートばっかじゃん」
「さくらって、ハートのかたちのおはながくっついてるんでしょー?」
「違う。こういう形だって」
オレは、アリスのお絵かき帳のまだ何も描かれていない紙にピンクのクレヨンを使い、桜を描いてみる。
「ほら。これが桜」
「ハルク。じょうずー!」
アリスがオレの描いた絵を見て、喜んで拍手する。
「こんなの、簡単に描いただけ。誰でも描けるって」
「もっとかいてー!さくらー!」
「何でだよ…」
「ハルクのさくらー!もっとみたいー!」
アリスに促されて、桜を描く。その後も色んな花を描いてとせっつかれながらも描いてやる。その度にアリスは喜んだ。「すごいー!」「じょうずー!」って、笑いかけてくれるだけなのに…。何故かオレは、泣きそうになった。
オレが何かして、誰かに喜んでもらえたことは、一度もなかったから。
「ハルクー?ないてるのー?」
「……っ、泣いてねェ…よ」
「……いいこー!」
アリスが立ち上がって、オレの頭を撫でる。立たないと届かないからだろう。
「ハルクはいいこー!わたしがほめてあげるー!」
「……ばか。なん、でお前が誉めんだよ…」
「ほめてって、かおしてたから!」
「そ、んな…わけ…」
「だから、わたしがほめるのー!ハルクはじょうずにおえかきできるからー!」
何でコイツはわかるんだよ。誰もオレのことなんて、誉めてくれなかった。両親でさえも。
誉めて欲しかった。ただ一言でいいから。「上手だね」って…。
我慢していた涙がポロポロ溢れた。拭っても、溢れ出てきて、止まらない。
「ハルクー?」
「泣いて…ない」
「わたししかいないよー?」
「知ってる」
「ここでハルクがないても、だれもわからないよー!」
一瞬、何言ってるか、わからなかった。
だけど、アリスはここには自分しかいないから、泣いてもいいと言ってる気がした。
「……っ」
「ハルクー?」
言葉に甘えて、アリスを抱っこしながら、オレは気が済むまで泣いた。その間、アリスはずっと「いいこー!いいこー!」ってオレに言っていた。
どれだけ泣いていたか、わかんねェ。だけど、アリスがオレを見て、言った。
「うさぎさん!」
「……」
「ハルクうさぎさん!」
「…うるせェ。ばか」
泣き腫らして目が真っ赤になったオレを見て、アリスが楽しそうに笑う。
そこへ「アリスー!」と呼ぶ声。
げっ。オレが泣いていたことがバレる。隠そうとする前にアイツは部屋に来てしまった。
「リコリスおねえちゃん!おかえりなさーい!」
「ただいま!私のお出迎えはしてくれないのー!?玄関にいないから、探したのよー!」
アリスを抱きしめながら、アイツは言った。すると、アリスは「あ」っと小さい声を上げて、素直に謝る。
「ごめんなさい。わすれちゃったの…」
「……。仕方ないわ。明日はちゃんとお出迎えしてね?」
「うん!」
それだけ言うと、アイツは静かに部屋を出て行った。オレの顔を見たはずなのに、見ないフリした。
いつもならオレを睨んで、何か言って行くのに…。
「リコリスおねえちゃん。ほんとうはね、ハルクとなかよくしたいんだよー?」
「……そんなわけねェじゃん。アイツ、お前がここにいるから、来るんだよ」
「ちがうよー?おねえちゃんもハルクとおはなししたいのー。だって、わたしが「ハルクといっしょはたのしい」ってはなしたら、「わたしもはなしてみようかしら」っていってたもん!」
お前と一緒にいるオレが気に食わないだけ。それ以外にねェだろ。
「リコリスおねえちゃんね、がんばりすぎちゃうところがあるの!」
「え?」
「まいにち、まいにち、がんばってならいごとしてるの。でもね、こないだいってたの。「ほんとうはならいごとなんかしたくない。ならいごとなんかなければ、アリスとずっといっしょにいられるのに」って、なきそうなかおしてた…」
「……」
「おねえちゃん、ひとりでがんばりすぎちゃうの。むりしちゃうのー。だから、ハルク。リコリスおねえちゃんとなかよくなってあげてー」
アイツも苦労してんだな。皆の期待を受けて、必死に応えようとして。アリスの前でしか弱音を出せなくて…。
「考えとく」
「だめー!なかよくなるのー!」
アリスがそう言っても、アイツは嫌がるかもしんねェからな。無理強いは良くねェ。
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