Awkward Gaze

………
……




「こうして、シンデレラは王子様といつまでも幸せに暮らしました。……おしまい」

「じゃあ、つぎ。これー!」

「あのな、もう三冊も読んでやったろ。お前はもう寝る時間だ。はい、おやすみ」

「やだー!まだ寝ない!」


布団をかけてやったら、暴れて足で蹴飛ばしやがった。コイツ、足癖悪いな…。

てか、まだ寝ないじゃねェ。寝ろ。お前が寝ないとオレは自分のことが出来ないんだよ。アリスが寝てから、夜の少しの時間に勉強をしていた。わからないところは、奥様が毎日少しだけ時間を取ってくれて、教えてくれるからだ。その横でアリスも静かに絵を描いているけどな。どうやらオレの真似をしてるらしい。

ふと今読んでいたシンデレラの本が目に入る。



「お前も王子様に夢見てんのか?」

「うん、すてきだよねー!でも、リコリスおねえちゃんに「いつかわたしのもとにもおうじさまがきてくれるかな?」って、きいたら、ないちゃったの。「だめ!アリスにはおねえちゃんがいるでしょ!おうじさまは、まだひつようないの!おうじさまのかわりにわたしがアリスをまもってあげるから」って…」


いや、普通の姉なら「いつかアリスの元に来てくれるわよ」って言うよな?なのに、だめっておかしくねェ?しかも、自分が守るって…。お前が王子かよ。

アイツ、前から思ってたけど、かなりヤバイよな。他の妹にも優しいみてェだけど、アリスに対してだけ、すげー独占欲があるし。
あー。だから、オレに対して、風当たりが強いわけか…。



「お前、今からそんなに溺愛されたら、将来大変だぞ」

「できあいって、なあに?」

「すげー愛されてるってこと」

「あいされてる??」


それもまだコイツには難しいか。しばし考えてから、オレは答える。



「大好きってことだよ」

「それならわたしもリコリスおねえちゃんのことがだいすきー!」

「そっか…」

「リコリスおねえちゃんだけじゃないよー!パパもママも他のおねえちゃんたちも、リンネも!」

「そうだな」

「ハルクもー!」

「……………は?」


アリスの言葉で呆気に取られた。
10年間生きてきて、誰かに好きだと言われたことは一度もない。身内にすら、言われたこともねェし。まして赤の他人であるコイツに言われるなんつ、思いもよらなかった。



「だからね、ハルクもだいすきー!」

「……」


……。
コイツ、素直過ぎじゃね。大好きなんて、恥ずかしいことを平気で言いやがって。



「みみまでまっかだよー?」

「違っ!これは…!そんなこと言うヤツは、こうしてやる!」

「ふふふ!あはははは!」


照れ隠しにオレがアリスの身体をくすぐってやると、身をよじらせ、笑う。

しばらくくすぐりを続けていたら、アリスはいつの間にか笑い疲れて寝ちまった。


くー、くーっと寝息を立てて眠るアリス。

さて、アリスは寝たし、そろそろ勉強するかと起き上がろうとしたら、何かがオレを引っ張る。
見てみると、アリスがオレの服を掴んでいた。



「ったく、コイツは…」


離そうとするが、意外にしっかりと掴んでいやがった。無理に離してもいいが、コイツが起きる可能性もある。せっかく寝たのに、また起きられると、しばらくはなかなか寝ないかもしれない。

仕方ねェ。今日はこのまま寝るか。勉強を諦め、電気を消して、横になる。



「はる、くー。まって…」

「……」


アリスが寝ながら、オレを呼んでいた。夢でもオレを追いかけているのかもしんねェ。オレはアリスに布団をかけてやる。

こうして、誰かとくっついて寝たの初めてかもしんねェな。今まで一人で寝ることが当たり前だったし。他人の身体って、温かいんだな…。

気づくと、オレも眠りについていた。





「ハルクー!おきてー!」

「……んだよ、アリス。うるせェぞ。まだ寝かせろって」

「あさだよー!ハルクー!」

「……」


アリスがぽかぽかとオレの身体を叩いてくるから、オレは布団を頭からかぶり、抵抗する。頼む。もう少しだけ寝かせてくれよ。



「ハルク?あさはおきないと、だめだよー!」

「もう少ししたら、起きるから…」

「むー!」

「っ!!?」


身体にいきなり衝撃が走った。なんだ、今の!?布団から顔を出す。



「ハルクー!おきてー!」

「アリス。お前かよ…」


オレの腹の上にアリスが乗っかって来やがった。しかも、何だか楽しそうだ。しかし、お子様は朝から元気だな…。



「あー!」


その時、誰かが叫んだ。
この声は、アリスじゃねェ。アイツだ。案の定、ドアの方にアリスの姉が立っていた。



「アリス!!部屋にいないと思ったら、ここにいたのね!探したのよ!」

「リコリスおねえちゃんだー!おはよー!」

「おはよう。アリス!」


アリスを抱き上げて、ニコニコと笑っていたが、オレを見ると、睨んできやがった。



「あなたには負けないんだから!」

「なにがー?」

「うふふ。何でもないわ。さ、アリス。朝ご飯を食べに行きましょ!」


そう言って、アリスを連れて出ていく。負けないってなにがだよ!もしかして、アリスのことか?勝負なんてしてねェのに、何考えてんだ?



「おねえちゃん。ハルクもいっしょにー」

「ダメよ。私の言うことを聞いて。アリス」

「だってー」


二人の声が遠ざかっていく。
オレも着替えるか。起き上がり、ベッドから降りる。

その後、飯から戻ったオレの前に再びアリスが待っていたのは、言うまでもない───。





【END】
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