Gentle Gaze




数日後。
リコリス様がテラスで本を読みながら、紅茶を飲んでいた。絵になる…なんて、少し離れたところから見ていたら、背後から誰かに肩を叩かれた。



「っ!」

「びっくりし過ぎですよ」

「クロッカスか。驚かすなよ…」


振り返ると、リコリス様のお付きメイドであるクロッカスだった。



「いきなりで申し訳ありませんが、これをリコリス様に届けてくれませんか?」

「へ?」


クロッカスがオレにお菓子の乗ったトレーを渡してくるから、思わず受け取ってしまった。いや、何でオレ?
と、そう思っていたら、クロッカスが言った。



「メイド長に呼ばれているので、これをリコリス様のところへ届けられないからです。丁度いいところにあなたを見かけたので、助かりました。しばらく戻れないので、私が戻るまでリコリス様のところにいてください。よろしくお願いしますね!」

「え、クロッカス!?」


アイツはそれだけ言うと、行ってしまった。
まあいいか。この後は特に急ぎの仕事もねェし。オレはクロッカスに言われた通り、トレーを持って、テラスに向かう。



「失礼致します」

「タスクさん?」


リコリス様に声をかけると、彼女は読んでいた本から顔を上げて、オレに気づいて本を閉じた。少し驚いた顔も可愛い。……って、そうじゃねェ!



「クロッカスがメイド長に呼ばれているので、彼女に頼まれて代わりに持って来ました」

「そうなんですか。ありがとうございます」


笑顔が眩しい!女神かよ!
だけど、本当に仕草の一つ一つがキレイなんだよな。絵になるっつーか。ずっと見ていられる。時間が止まったりしねェかなー。そしたら、リコリス様だけを見てられるのに。



「あの良かったら、タスクさんも座りませんか?」

「え!?それは…」

「持っていた本も読み終わって、少し退屈だったんです。話し相手になっていただければと思ったのですが、だめですか?」


上目遣いもいい!最高………はっΣ(゚Д゚;)そうじゃねェだろ、オレ。一緒に座りてェけど、オレは使用人なんだし。立場を弁えないと。



「申し訳ないのですが、それは出来ません…」

「え。誰かに言われたら、私がちゃんと説明します。だから、タスクさん。ここに座ってくれませんか?それとも私とお話するのは嫌、ですか?」


超してェし!もっと近づきてェ!……と、心の中で叫ぶオレ。

せっかくここまで言ってくれているのに、むげになんか出来るかよ!もう座るしかねェだろ。怒られたっていい。リコリス様の悲しい顔は、これ以上、見たくねェし。
でも、悲しそうな顔もいいな…(´∇`)



「わかりました。クロッカスからも戻るまでここにいるように頼まれていますので。お言葉に甘えて、座らせていただきます」

「はい。どうぞ」


リコリス様の笑顔を正面から向けられ、オレは思わず視線をそらしてしまった。だって、眩し過ぎる!

それからリコリス様と二人だけの時間を過ごした。一時間くらいしか一緒にいられなかったけど、オレには幸せな時間だった。この屋敷に来てから、一番幸せだったかもしんねェ。リコリス様の声、声まで可愛い上にすげー心地よくて、ずっと聞いていたくなる。話が上手いのもあんだろうけど。

だけど、リコリス様の話をずっと聞いていたけど、オレの勘違いじゃなければ、アリスの話しかされなかったような気がすんだよ。
オレとしては、リコリス様本人のことを聞きたかったのになー。



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