Person I Like
好きな人が出来た。
その人は、私よりも大人で、色々なことを知っていた。私はわからないことがあると、その人に聞きに行く。すると、その人はいつも嫌な顔をせず、子供の私にでもわかるように説明をしてくれるのだ。その落ちついた優しい声を私はずっと聞いていたくなるくらい好きだった。だから、私は知ってることでもわからないと嘘をついて、その人の元へ向かう。
彼と一緒にいられる時間が少ないから。もっと一緒にいたくて。
「リク先生!」
「どうしました?アリスさん」
「あの、この物語について、聞きたくて…」
私はある本を見せると、リク先生は優しく笑った。
「いいですよ。アリスさんは勉強熱心ですからね。それでは、今日はその物語について…」
「はい。お願いします!」
今日もリク先生の話を聞く。
私にとって、幸せな時間。私は家庭教師をしてくれるリク先生に恋をしている。
リク先生は、パパの知り合いの人の息子さんだ。大学に通っているが、家からだとかなり遠いので、うちで暮らしている。うちの家、大きいから、部屋は沢山あるし。
リク先生は、毎週水曜日の二時間だけ私の勉強を見てくれる。何か用事があった時は、中止になることもあるけれど、それは仕方ない。学業優先だから。でも、リク先生はわからないことがあれば、いつでも声をかけてくれていいと言ってくれた。私にはそれが嬉しかった。
「……やっぱりいいな、リク先生」
同い年の男の子なんて嫌い。
乱暴で優しくないし。すぐバカにしてくるし、意地悪だ。その点、リク先生は違う。優しくて丁寧で、物知りだ。バカにしたり、意地悪なことは絶対にしない。
あー、私もリク先生と一緒の学校に通いたい。そしたら…。
うっとりしながら、本を持って、自分の部屋に戻ってくると、私のベッドの上に座る使用人を見て、顔を歪ませた。
「……げっ」
「アリス。お前、またリクのところに行ってたのかよ」
これは、うちの使用人のハルクだ。
リク先生と同じ年上なのに、全然優しくない!口調も丁寧じゃないし。ハッキリ言って、苦手だ。しかも、両耳にピアスを沢山開けてて、チャラチャラしている。真面目なリク先生とは大違いだ。
「いいでしょ!行ったって」
「リクが優しいからって、行きすぎだろ。アイツ、お前には言わないけど、きっと迷惑してるぜ」
「迷惑……っ」
そう言われると、そうかも。確かにリク先生が優しいからって、行き過ぎていたかもしれない。
でも、何でそれをハルクに言われなければならないのか。
「わかってるわ!リク先生はハルクと違って、優しいから、私は…」
「悪かったな。優しくなくて!」
「全っ然、優しくないわよ!」
六つ上のリコリスお姉ちゃんが言うには、「はあくんは優しいわよ」と言っていたのだが、私にはまったくである。それなのに、やたら私に声をかけてくる。正直、うざったくて仕方ない!
「だから、少しはリクのところじゃなくて…」
「もううるさいな!放っておいてよ!」
「あ、おい。どこ行くんだよ!」
「どこだっていいでしょ!あっかんべーっ!」
机の上に本だけ置いて、私は部屋を出た。
もう本当にやだ!ハルクなんて嫌いだ!!
うるさいハルクから逃れるため、私はパパの書斎にやって来た。ここには、沢山の本があるから。パパも本が好きだから、色々な本が置いてある。私にとって、癒しの場所だ。今の私にはまだ読めない本もあるけど、大人になったら絶対に読むんだから!
それにここに来れば、うふふ。
「アリスさん」
「リク先生!」
本棚を見て回っていたら、リク先生と会った。
そう。リク先生もこの書斎をよく利用するのだ。前に大学でのレポート作り?のためと言っていた。そんなリク先生の手には、数冊の本があった。きっとそのレポートのためかもしれない。
「先生、お勉強ですか?」
「ええ、そうですよ。アリスさんは?」
「本を探しに来ました。寝る前に読んでいた本が読み終わってしまったので」
「アリスさんは本当に本が好きなんですね」
リク先生の笑顔が眩しい!
やっぱりリク先生は素敵だ。どっかのチャラチャラした使用人よりも。
それからリク先生にオススメの本を何冊か教えてもらい、別れた。早速、教えてもらった本を持って、テラスへと向かう。自分の部屋にはまだ戻りたくない。ハルクがいるかもしれないから。顔を合わせたくない。
テラスで集中して本を読んでいると、声をかけられた。
「アリス。こんなところで読書ですか?」
「うん!部屋にはまだハルクがいるかもしれないから、ここで読んでるの!」
「あー、なるほど…」
私の話に彼は苦笑した。
彼は、使用人のカルロ。私が小学生になる前からうちにいる。今は20歳過ぎくらいかな?いくつだったっけ?21?
家が複雑な環境だったので、見かねたパパがうちで預かっていると聞いたことがある。でも、カルロは「ただ屋敷にいるだけは嫌です。ここで働かせてください」と頼んで、今は大学に通いながらここで働いているそうだ。うちに来た当初に比べると、カルロはかなり明るくなったとパパが言ってた。私はあまり覚えてないけど。
「飲み物、持ってきましょうか?」
「ううん、大丈夫。ありがとう」
「アリスは素直に育ちましたね…」
そう言って、頭を撫でられた。
昔はよくパパに撫でてもらったけど、最近はしてくれない。パパに撫でられるのは好きだけど、カルロに撫でてもらえるのも好きだ。
「えへへ!そうかな…」
「ええ。君は真っ直ぐですよ」
私には兄はいないけれど、カルロは私にとって、お兄ちゃんみたいな存在だ。
「カルロ」
「何ですか?」
「ありがとう!」
「何で僕にお礼を?」
「んー。なんとなく?」
「面白いですね、アリスは」
カルロと話していたら、私を探しに来たハルクがやって来たから、私は慌てて読んでいた本を閉じて、テラスから離れた。
もう専属でもないのに、何で私のところばっか来るのよー!
私以外にも姉妹はいるのに…。
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