Summer Festival

花火も見終わり、コウ達と帰ろうと歩いていたら、やたら人が集まっていたのが目に入った。
なんだ?つい足を止めて見てみると、射的屋で浴衣姿の若い女二人が景品を落としまくっていた。

すげーな。一人は後ろ姿しか見えねェけど、長い髪を結い上げた金髪。もう一人は髪が短い黒髪。
ん?何か見覚えある顔だな…。



「やるなー!嬢ちゃん」

「ええ。私、欲しいものは必ずゲットしたいので」


そう言って、左上に並んでいるお菓子を次々と狙っては撃ち落としていく。スナイパーかよ。てか、あの黒髪の女、見たことあると思ったら、アンバーの妹じゃん。じゃあ、あの金髪の方はまさか…。

金髪の女の顔を見ようと、見えるところへ移動する。ソイツはお菓子ではなく、少し大きめのくまのぬいぐるみを狙っているようだ。え、あれ、落ちんの?無理じゃね?そう思っていたが、連続で撃ち、ぬいぐるみを落とした。すげー。



「よし、取れた!」

「そっちのお嬢ちゃんもやるねー!」

「ありがとうございます!妹の好きなものだったので、つい…」


この声はアリスだ。
アイツ、オレには「私は行きません。お友達と行ってください」とか言っておいて!自分も来てんじゃねェか!
アリスのヤツ!これは文句言わねェと気が済まねェ!!



「途中、勝負じゃなくなったわね」

「ね。でも、楽しかった!」

「そうね。……あっ」

「どうかした?スマ…」


後ろを振り返ったアイツは、オレの顔を見て、固まった。だが、すぐに頭につけていたお面で顔を隠す。



「アリス」

「人違いデス。ワタシ、アリスじゃアリマセン」


下手な芝居しやがって。バレバレなんだよ!
頭にきたオレは、アリスのしている狐の面を奪った。



「……っ…ちょっと!」

「やっぱりアリスじゃん!……ったく、オレには行かないとか言っておいて、来てんじゃん!!」

「うっ。バレないようにしてたのに…」


あれでバレないようにしてたのかよ!目立ってたし!てか、お前に声をかけようとしてる男もいたんだぞ。外見だけなら、どこかの令嬢みたく見えるからな、コイツ。中身は全然違うけど!



「次はオレと夏祭り!」

「いや、それはちょっと…。もうこの近所で夏祭りはないんじゃないんですか?」

「またどっかでやるだろ!」

「うちの地元は、来週末に夏祭りをやりますけど…」


アリスの地元?
てか、今年は帰省するんだよな、コイツ。去年は帰らなかったけど。



「オレも連れてけよ!」

「何で帰省中までお坊っちゃまを連れて行かないといけないんですか!」

「連れて行かないなら、ボルドーやサルファーにアリスが仕事しねェって、嘘つくからな」

「私、ちゃんと仕事してるのに!?」


真面目にやってるのは知ってるし。でも、こうでも言わねェと連れて行ってくれないんだよな。



「お坊っちゃま、お友達はいいんですか?」

「あ、言わずに来ちまった」

「だめじゃないですか!ほら、早く連絡してあげてください!」


スマホを取り出して、コウとシンジュと組んでるグループメッセに“悪い。アリスいたから、先に帰って”と送る。すぐ既読になり、コウからはOKのスタンプがきた。しかし、シンジュからは“了解。相変わらずアリスさんしか見えてないよねー”ときた。放っとけ! スマホをしまうと、他のメイド達の姿はなかった。



「あれ?他のヤツらは??」

「スマルト達なら、もう先に帰りましたよ。私にお坊っちゃまと一緒に帰れと言って。さ、私達も帰りましょう」


気を使われた。きっとアリス以外には、バレバレなんだろうな、オレ…。
そんなアリスの両手には、沢山のお菓子が詰められた袋が二つ。一つは袋にパンパンになるくらいにお菓子が詰まっていて、もう片方の袋にも、お菓子は入っているが、くまやうさぎのぬいぐるみ、マスコットなどが何個か入っていた。



「すげーな、この菓子の山…」

「メイドの皆にあげようと思います。あ、お坊っちゃまもいります?」


何か色々ありすぎて、選べねェ。食べたことない菓子ばかりだし。すると、見かねたアリスが袋の中から何個かのお菓子を取り出す。



「じゃあ、これはどうですか?この辺りなら、お坊っちゃまが好きそうなお菓子ですよ」

「これでいい。てか、ボルドーにバレるとうるせェから食べながら歩く」

「どうぞ。沢山ありますから。あ、ゴミはこっちに渡してくださいね?」


相変わらず子供扱いされてるな、オレ。あのアリスの向ける笑みは、完全にそうだ。



「てか、荷物を寄越せよ。持つから」

「わかりました。こちらの方をお願いします」


渡された方の袋には、ぬいぐるみとかが入ってる。こっち、軽い方じゃん。これくらいなら二つとも、持てんのに…!

オレ達は一つずつ袋を持って歩く。人通りが多い道を歩きながら、アリスと帰る。

隣を歩くアリスは、浴衣を着ているせいか、いつもより大人っぽく見えた。本当に黙ってるだけだと、別人だもんな…。中身はオレと変わらないくらいなのに。
今だって、オレと並んで歩いても、姉弟にしか見えねェんだろう。早く大人になりてェ。
そんなオレの視線に気づいたのか、アリスがこちらを見る。



「どうかしました?」

「……別に」

「あ、お菓子が欲しかったんですか?これ、どうぞ!」


バカ。菓子の催促なんかしてねェよ。
ま、いいか。素直に受け取って、それを食べた。



「学校は楽しいですか?」

「普通」

「そうなんですか?お坊っちゃまの顔、楽しそうに見えますよ」

「まあ、楽しくないこともねェけど」


仲イイヤツも出来たし、昔に比べたらマシだけど。何より学校にはアリスがいねェじゃん。
もしも、アリスと同い年だったらって、考えたこともあるけど、そしたら、出会えてないんだよな。

……出会えてない?
今こうして、普通に隣にいてくれるけど、何かが違っていたら、いなかったかもしれなかったのか。

アリスがいなかったら、オレは───



「お坊っちゃま?」

「……」

「どうかしましたか?」

「……何でもねェ」


目の前にアリスの顔があって、我に返る。オレの返事を聞いて、アリスは再び歩き出す。

いつまでこうして傍にいてくれる?
ずっと一緒だと約束してくれたけど、いつまで?

アリスが二十歳になったら、縁談が来る。あと二年。そしたら、一緒にいられない。オレの前からいなくなる。


───いつかの夢のように。





“さよなら、お坊っちゃま”





また置いて行かれる。オレを置いて、行ってしまう。ヤダ。



「お坊っちゃま、本当に大丈夫ですか?顔色悪いですよ」

「……平気」


不安が消えない。考えたくないのに、余計に考えちまう。



「手を繋いで、帰りましょうか!」

「……はあ?」

「ほら、行きますよ!」


アリスはオレの返事なんて聞かないで、手を取って走る。下駄を履いてるから、スピードは遅い。というか、アリスは走ること自体、早くねェし。

でも、さっきまであった不安はなくなった。



「アリス」

「何ですか?」

「遅いな、お前」

「下駄履いてるから、早く走れないんです!」

「普段から遅いじゃん」

「じゃあ、スピード上げます!私が転けたら、お坊っちゃまのせいですからね!!」


そう言って、アリスが走るスピードを上げる。オレ的にはあんまり変わらねェけど、繋いだ手だけは離さない。
このままずっと屋敷に着かなきゃいいのに…。


走るアリスを見ていたら、ターコイズにあげた髪飾りを思い出す。
てか、アリスにも髪飾り、取れば良かったな。輪投げの屋台にあった蝶々の髪飾り。ターコイズには別の色のをあげたけど。アリスなら青色のが似合っていたかも。

また次に夏祭りに行く時は、一緒に行けたら───





【END】
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