Summer Cottage(Ⅳ)

夕食後。
肝試しに参加する人達が旅館の宴会場に集まっていた。舞台上に肝試しの責任者である執事の子とお坊っちゃま、カルロ様、タスク様が立っていた。



「そんなわけでカルロ様、タスク様、ハルク様が肝試しに急遽参加することになりました!」


皆が拍手して、迎え入れる。
随分と参加者が多いが、ここにいるのは若い人達ばかりだ。年齢がもう少し上の人達は温泉を楽しんだり、お酒を飲んでたりしていたし。人それぞれよね。



「予想以上に人が多いのでペアで回りますけど、どうします?皆様、誰か指名されますか?」

「任せるよ。飛び入りだから、皆が引いて余ったのでいいから」

「オレも!何なら一人でもいいし」

「何かあったら困るので、一人にはしませんよ。ハルク様は?」

「オレ、相手を指名したい!」

「おっと、誰がいいですか?」


お坊っちゃまがジッとこちらを見てくるじゃないか。気のせいと思いたい。
前にお化け屋敷に行った時からすごい怖がっていたから、肝試しも来ないと思っていたのに…。何で参加したの?



「アリス」

「わかりました。ハルク様はアリスとペアということで。じゃあ、それ以外の方はこの箱から紙を引いて、同じ番号の人がペアになります!」


やっぱりか。
皆がくじを引きに行く中、私の元にお坊っちゃまがやって来た。



「私じゃなくても…」

「相手のヤツに置いてかれたら困るだろ。それなら最初から信頼出来るヤツと組んだ方がいいし」


参加すると決めた時から、私をペアにしようと考えていたな。



「アリス」

お坊っちゃまと話していたら、コルクに呼ばれた。



「どうしたの?」

「アリス達は1番ね」

「1番?わかった」

「1番!?」


お坊っちゃまが声を上げる。まさか、1番に行くとは思ってなかったのだろう。



「何で1番なんだよ!」

「いえ、相手を指名したんだから、1番で行かせるべきだとカルロ様とタスク様がおっしゃっていたので」

「アイツらー!」


舞台上にいる二人を睨むお坊っちゃま。二人はそんなお坊っちゃまを見て、笑っていた。完全に遊ばれてる。

それから他の人達も無事にペアが決まったようだ。箱に残った番号が偶然にもどちらも3番だったことから、カルロ様とタスク様でペアとなった。カルロ様の相手が女の子なら、絶対に揉めていたわよね。

そして、肝試しの説明に入る。ホワイトボードを使い、ルートを説明する。



「ここから歩いて、真っ直ぐ行った先に廃墟の小学校があるから、そこの正面玄関から入って、左手側の一番奥にある理科室の黒板に自分達の名前を書いて来てください。そこに置いてあるピンポン玉を自分達の番号のものを取って来てから、ここに戻って来てください。帰って来たら、必ず確認しますからね!あとピンポン玉を忘れたら、再度取りに行かせるから!次は一人で」


それに参加者達から「容赦なーい」「本当の肝試しじゃん」と言った声が次々と出る。



「はい。反論は受け付けません。再度行きたくなければ、ちゃんとやってくればいいんです。じゃあ、一番から順番に行ってください。前のペアが出発して、10分経ってから出発するように!」


横にいるお坊っちゃまを見れば、顔が青くなっていた。怖いんだろうな。一番最初だし。



「それじゃあ、行ってきます!お坊っちゃま、行きますよ」


お坊っちゃまの手を取り、反対の手で懐中電灯を持って、私達は旅館を出発した。



「アイツ、そんなに怖いなら参加しなきゃいいのに…」

「アリスがいなかったら、別荘に帰ってたんじゃないかな。残ったのは、彼女がいるから」


言われた通りに歩いていたら、ひと気がまったくない。街頭はあるけど、歩いているのは私達だけだ。

家も古い家や空き地が多く、奥に進むほど人が住んでる感じはない。旅館の近くなのにな…。



「アリス。小学校はまだかよ!」

「んー。もう少しだと。……あ。ここかな。小学校は…」


ようやくたどり着いた。
廃校になって、どれくらい経ったのかはわからないが、かなり雰囲気は出ていた。その雰囲気を見て、怖くなったのか、お坊っちゃまが私にしがみついてくる。



「あの中を歩かないと行けないのかよ!」

「だから、肝試しじゃないんですか?理科室に名前を書くのとピンポン玉を取って来ないと、今度は一人で行かないと行けませんからね。怖いなら、ここで待ちますか?私、一人で行ってきますよ」

「……。一人で待つのもヤダし、アリスだけに行かせるのも流石に最低だし。オレも一緒に行く」


怖いなら待ってればいいのに。

門を開け、グラウンドを歩き、正面玄関に来た。中は真っ暗で、懐中電灯の光がないと何も見えないくらいだ。



「暗い。電気つかねェの?」

「廃校だから、もう切れてると思いますよ」


お坊っちゃまが私の手をギュッと掴む。怖いのに無理しちゃって。



「さて、理科室はどこですかね?左手側の一番奥と聞きましたが」

「アリス。お前、何でそんなにスタスタ歩けんだよ!怖くねェのかよ!」

「確かにこの中は少し怖いですけど、さっさと見つけて外に出たいですから。さ、行きますよ!」

「わかったから、もう少しゆっくり…!」


お坊っちゃまには言わなかったが、この学校には何かがいると思う。実は校舎に入った時、少し変な感じがした。外は暑かったのに、中に入った瞬間、寒かったからだ。廃校だから、冷房なんてついてないはず。私も別に霊感がある方ではないけれど、さっきから何とも言えない違和感は感じる。それに私達が向かっている方向とは反対側から音がずっと聞こえているのが気になる。
お坊っちゃまは気づいていないようだけど。

だから、いつまでもここにいるのは良くないから、さっさと理科室を見つけて、ここから出ないと。何かあったら、私がお坊っちゃまを守らないといけないし。年上なんだから。



「……あった。理科室!」


しばらく廊下を歩いていたら、ようやく見つけた。懐中電灯で上の表札を確認し、ドアを開ける。

ピンポン玉が入った箱が教卓の上に置かれていた。中を見ると、番号が貼られていた。1番は…あった。それを取り出して、ポケットに入れる。
さて、次は黒板に名前を書くだけ。チョークを取り、自分の名前を書く。



「お坊っちゃま、黒板に名前を書いてください」

「…わかった」


お坊っちゃまも黒板に名前を書いた。よし。これでミッションは終わりだ。

理科室を出て、正面玄関の方に戻ろうと廊下に出た。だが、向かおうとして、私は思わず立ち止まる。少し離れた正面玄関の辺りに誰かが立っていたからだ。最初は次のペアが来たのかと思ったが、どうやら違う。

参加者にあんな真っ白い着物を着ていた人なんかいない。今回はお化け役はいないと聞いてる。しかも、長い髪で覆われて顔が見えない。それがこっちに向かって、ゆっくりと歩いてくる。



「……アリス?」

「お坊っちゃま、あっちから出るの止めましょう」


私はお坊っちゃまの手を引いて、理科室に戻り、窓を開ける。よし。ここからなら外に出られる。



「お坊っちゃま、先に出てください」

「何で?さっき来た方から出ればいいじゃん」

「いいから!早く」

「わ、わかったよ…」


お坊っちゃまが渋々、窓から出る。
よし。私も窓から出よう。窓に手をかけた時、ふと理科室の方を振り返る。
すると、私の背後に正面玄関で見たアレが立っていた。それがニヤリと笑うのが見えた。



「……ひっ!」

「アリス?」


思わず悲鳴が漏れた。私は急いで、窓から外に出る。そして、先に外にいたお坊っちゃまの手を掴んで、校門の方へと駆け出した。



「どうしたんだよ!アリス」

「いいから、走ってください!」


わけがわからずにいるお坊っちゃまにちゃんと答えないまま、私は皆がいる旅館まで走って逃げた。振り返ることはしなかった。振り返ったら、アレがいるような気がしたから。



「アリス、早いね。もう帰って来たんだね!」

「はあっ、はあっ、はあっ…!」


ゴール地点で待っていたコルクに声をかけられるが、返事が出来ない。



「アリス。ピンポン玉、ちょうだい!」

「はあっ、ちょっと………はあっ、待って!」


全速力で走ってきたから、息が。
すると、お坊っちゃまが私のポケットからピンポン玉を取り出して、渡す。



「…これでいいか?」

「1番ですね。オッケーです!」

「なあ、終わったら旅館に帰ってもいいのか?」

「はい。終わった人から戻って構いませんよ!」


今度は反対にお坊っちゃまに手を引かれ、私達は旅館の中に入った。

旅館の隅に座る場所があり、私達はそこに座る。



「お前、何か見たの?」

「え、見………てない、ですよ?」

「嘘つくなよ。お前、窓から出る時、後ろに振り返って何かに驚いてたろ?」

「お坊っちゃまは見てなかったんですか?」

「ああ。お前が何もないところを見て、悲鳴を上げたのしか見てねェよ」


見えていたのは私だけ?お坊っちゃま、怖がりだから見えてなくて良かったと思う。私はお坊っちゃまを抱きしめた。



「!」

「……良かった。あれを見たのが私だけで」

「あれ?」

「見てないならいいです。安心したら、疲れちゃいました。しばらくこのままでいてもいいですか?」

「……………う、うん」

「ありがとうございます」


お坊っちゃま、おとなしくなっちゃった。それより人肌はいい。落ちつく。さっき見たあれを忘れられそうだわ。

そういえば、ストレス抱えた時にハグがいいって聞いたことあるけど、どれくらいがいいんだっけ?


(※アリスはまったく何も考えていませんが、お坊っちゃまは過去最大に顔が真っ赤になっております。そして、固まっています(笑))



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