Sports Day 前
一年生~六年生までいるから、午前中だけでもギッシリと競技は詰められていた。
実家にいたら、今年も妹の運動会を家族で見に行ってただろうな。妹と同じような子達を見ながら、懐かしくなった。今度、家に電話してみよう。
競技をずっと観戦していたら、次は四年生の徒競走。入場してくる生徒達の中にドラ様を見つけた。
「あ、ドラ様ですよ!」
「嫌そうな顔してるね、ドラ」
「あいつ、あんま運動が得意じゃねーじゃん。そこはリク兄と同じ」
「リクも運動会の度によく憂鬱な顔してたな…」
「リク様はいいんですよ!仕方ありません。人間、苦手なものは必ず一つはあるんですから」
「出たー。アリスのリク兄贔屓が」
「リクに対して、本当にアリスは態度が違うよね」
「当たり前じゃないですか!一緒にしないでください」
「俺らもリク兄とまったく同じ血が流れてんのに、こうも違うもんなわけ?これじゃあカルロの親衛隊と変わんねーじゃん」
ちょっとあそこと一緒にしないでよ!あの親衛隊とは違うんだから。
そうこうしてるうちにドラ様の番が来て、一斉に駆け出す。しかし、走ってすぐドラ様は転んでしまった。ドラ様!私は立ち上がって、ドラ様の方に向かって叫ぶ。
「がんばれー!」
「アリス…」
「がんばれー!!」
「頑張れ!」
「最後まで頑張れー!」
私の声に何人かが同じようにドラ様を応援してくれた。
ドラ様はすぐに立ち上がり、走り始めた。一位にはなれなかったけど、最後の方で一人だけ追い抜き、ゴールすることは出来た。すると、応援してくれた人達が拍手してくれた。
「良かった…」
はっ。つい立ち上がってしまった!
私は慌てて座った。すると、横にいたライ様がニヤニヤしながら私を見てくる。
「へぇ、あの人嫌いのドラが懐くわけだー」
「何の話ですか?」
「アリスは本当に年下キラーだよなー。ハルクといい、ドラといい。懐かれてさー」
「はあ…」
ライ様は何が言いたいんだろうか?年下キラーって、わけわかんないんだけど。
「いや、そうでもないかー。うちの年上達もアリスには弱ぇーから」
「ライ」
「怖っ。アリスは気にしなくていいぜー。こっちの話だからさー」
だから、何が??
私、この人と同い年だけど、一年経っても全然理解が出来ないわ。
四年生の競技がいつの間にか終わり、別の学年の競技が始まっていた。私はお坊っちゃまからもらったプログラムを見て、次の競技を確認する。
「次がお坊っちゃまのいる六年生の徒競走ですね」
少しして、六年生の徒競走になった。同じように入場門から六年生が出てきた。その中にお坊っちゃまの姿を見つけた。
何組か走り終わって、次はお坊っちゃまの番だ。お坊っちゃまは一番後ろの内側のコースから、あっという間に全員を抜き、かなりの大差をつけて、一位でゴールした。
「お坊っちゃま、速いですね!」
「やっぱり速いな、ハルクは」
「速いけど、それにしたって他が遅すぎね?うちに怖がってんじゃねーの?俺らん時もそういうのあったし」
「怖がる?」
確かにライ様は怖がられそうよね。別の意味で。
「アリス。言いたいことはわかるけど、今回はそうじゃないよ」
「違うんですか?」
「皆が怖がってるのはうちの親父だよ。いくら見に来てないとはいえ、ハルク達に何かあったら、親父の耳に入っちゃうからね。それが怖いんだよ、きっと。敵と見なされたら、容赦なく攻撃するから」
普通の公立と違って、私立はそういうのもあるんだ。何か純粋に楽しめないのもかわいそうだな。
「はたまた先生がわざとハルクに速いヤツをあてなかったのかもしんねーよ?」
「それもあるね。子供達よりも大人の方がそういうの気にするから」
先生も大変なんだな…。
生徒だけじゃなく、親にまで気を遣わないといけないから。
「ほら、ハルクがアリスに向かって、さっきから手を振ってるよ。振り返してあげたら?」
「え?」
カルロ様が指差した先に一番の旗を持ったお坊っちゃまがこちらに手を振っていた。私も手を振り返す。ああいうところは可愛いらしいな。
「あんな姿、見たことないんだろうな」
「何がですか?」
「ハルクが手を振ってるところを見て、驚いてる子が何人かいたから」
気づかなかった。
でも、お坊っちゃまがこっちを見ていた時、同じように見ていた子は確かにいたけど。
「アリス、すげー鈍っ!」
「そんなことないです!」
「ハルクがアリスに手を振ってる時にさ、アリスが気づくまで結構な女子が見てたんだぜ?」
「誰に振ってるのか知りたくなったんだろうね。あれくらいの年齢だと女の子は早熟だから」
「え?あの何の話なんですか??」
「あいつ、学校でモテるけど鈍そーだよな。好意にも気づかないんじゃね?アリスよりはマシだろうけど」
「さっきからライ様に貶されてるのだけはわかるんですけど!」
「鈍いのは事実じゃん。メイド達にも“アリスは色恋にはドがつくほどに鈍感だ”って言ってたぜ?」
ちょっと誰よ。そんなこと言ってる人達は…。
でも、よく一緒にいるベゴニアやスマルト達にも言われてるけど。
「暴れてた時から比べると大分変わったからもあんじゃねー?何人かを怪我させてたりしてたじゃん、ハルクのやつ」
「そんなにひどかったんですか?」
「アリスからしたら、信じられねーと思うぜ。今と全然違ってたし。てか、俺からしたら今の方が信じらんねーけど」
「そうだね。常にハリネズミのように尖ってて、近づく者は容赦なく攻撃していたよな。今じゃすっかりおとなしくなっちゃってさ」
「お菓子を食べてる時はリスみたいですよ、お坊っちゃま。たまにジーっと見てくるので、お菓子が足りないのかと思って、つい与えてしまいますが」
「……人間って、ここまで鈍感になれんの?」
「俺もここまでひどい娘は見たことないな…」
どうして、ここまで言われなきゃいけないの。
二人に憐れまれた視線を送られたのだけは、解せないわ!
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実家にいたら、今年も妹の運動会を家族で見に行ってただろうな。妹と同じような子達を見ながら、懐かしくなった。今度、家に電話してみよう。
競技をずっと観戦していたら、次は四年生の徒競走。入場してくる生徒達の中にドラ様を見つけた。
「あ、ドラ様ですよ!」
「嫌そうな顔してるね、ドラ」
「あいつ、あんま運動が得意じゃねーじゃん。そこはリク兄と同じ」
「リクも運動会の度によく憂鬱な顔してたな…」
「リク様はいいんですよ!仕方ありません。人間、苦手なものは必ず一つはあるんですから」
「出たー。アリスのリク兄贔屓が」
「リクに対して、本当にアリスは態度が違うよね」
「当たり前じゃないですか!一緒にしないでください」
「俺らもリク兄とまったく同じ血が流れてんのに、こうも違うもんなわけ?これじゃあカルロの親衛隊と変わんねーじゃん」
ちょっとあそこと一緒にしないでよ!あの親衛隊とは違うんだから。
そうこうしてるうちにドラ様の番が来て、一斉に駆け出す。しかし、走ってすぐドラ様は転んでしまった。ドラ様!私は立ち上がって、ドラ様の方に向かって叫ぶ。
「がんばれー!」
「アリス…」
「がんばれー!!」
「頑張れ!」
「最後まで頑張れー!」
私の声に何人かが同じようにドラ様を応援してくれた。
ドラ様はすぐに立ち上がり、走り始めた。一位にはなれなかったけど、最後の方で一人だけ追い抜き、ゴールすることは出来た。すると、応援してくれた人達が拍手してくれた。
「良かった…」
はっ。つい立ち上がってしまった!
私は慌てて座った。すると、横にいたライ様がニヤニヤしながら私を見てくる。
「へぇ、あの人嫌いのドラが懐くわけだー」
「何の話ですか?」
「アリスは本当に年下キラーだよなー。ハルクといい、ドラといい。懐かれてさー」
「はあ…」
ライ様は何が言いたいんだろうか?年下キラーって、わけわかんないんだけど。
「いや、そうでもないかー。うちの年上達もアリスには弱ぇーから」
「ライ」
「怖っ。アリスは気にしなくていいぜー。こっちの話だからさー」
だから、何が??
私、この人と同い年だけど、一年経っても全然理解が出来ないわ。
四年生の競技がいつの間にか終わり、別の学年の競技が始まっていた。私はお坊っちゃまからもらったプログラムを見て、次の競技を確認する。
「次がお坊っちゃまのいる六年生の徒競走ですね」
少しして、六年生の徒競走になった。同じように入場門から六年生が出てきた。その中にお坊っちゃまの姿を見つけた。
何組か走り終わって、次はお坊っちゃまの番だ。お坊っちゃまは一番後ろの内側のコースから、あっという間に全員を抜き、かなりの大差をつけて、一位でゴールした。
「お坊っちゃま、速いですね!」
「やっぱり速いな、ハルクは」
「速いけど、それにしたって他が遅すぎね?うちに怖がってんじゃねーの?俺らん時もそういうのあったし」
「怖がる?」
確かにライ様は怖がられそうよね。別の意味で。
「アリス。言いたいことはわかるけど、今回はそうじゃないよ」
「違うんですか?」
「皆が怖がってるのはうちの親父だよ。いくら見に来てないとはいえ、ハルク達に何かあったら、親父の耳に入っちゃうからね。それが怖いんだよ、きっと。敵と見なされたら、容赦なく攻撃するから」
普通の公立と違って、私立はそういうのもあるんだ。何か純粋に楽しめないのもかわいそうだな。
「はたまた先生がわざとハルクに速いヤツをあてなかったのかもしんねーよ?」
「それもあるね。子供達よりも大人の方がそういうの気にするから」
先生も大変なんだな…。
生徒だけじゃなく、親にまで気を遣わないといけないから。
「ほら、ハルクがアリスに向かって、さっきから手を振ってるよ。振り返してあげたら?」
「え?」
カルロ様が指差した先に一番の旗を持ったお坊っちゃまがこちらに手を振っていた。私も手を振り返す。ああいうところは可愛いらしいな。
「あんな姿、見たことないんだろうな」
「何がですか?」
「ハルクが手を振ってるところを見て、驚いてる子が何人かいたから」
気づかなかった。
でも、お坊っちゃまがこっちを見ていた時、同じように見ていた子は確かにいたけど。
「アリス、すげー鈍っ!」
「そんなことないです!」
「ハルクがアリスに手を振ってる時にさ、アリスが気づくまで結構な女子が見てたんだぜ?」
「誰に振ってるのか知りたくなったんだろうね。あれくらいの年齢だと女の子は早熟だから」
「え?あの何の話なんですか??」
「あいつ、学校でモテるけど鈍そーだよな。好意にも気づかないんじゃね?アリスよりはマシだろうけど」
「さっきからライ様に貶されてるのだけはわかるんですけど!」
「鈍いのは事実じゃん。メイド達にも“アリスは色恋にはドがつくほどに鈍感だ”って言ってたぜ?」
ちょっと誰よ。そんなこと言ってる人達は…。
でも、よく一緒にいるベゴニアやスマルト達にも言われてるけど。
「暴れてた時から比べると大分変わったからもあんじゃねー?何人かを怪我させてたりしてたじゃん、ハルクのやつ」
「そんなにひどかったんですか?」
「アリスからしたら、信じられねーと思うぜ。今と全然違ってたし。てか、俺からしたら今の方が信じらんねーけど」
「そうだね。常にハリネズミのように尖ってて、近づく者は容赦なく攻撃していたよな。今じゃすっかりおとなしくなっちゃってさ」
「お菓子を食べてる時はリスみたいですよ、お坊っちゃま。たまにジーっと見てくるので、お菓子が足りないのかと思って、つい与えてしまいますが」
「……人間って、ここまで鈍感になれんの?」
「俺もここまでひどい娘は見たことないな…」
どうして、ここまで言われなきゃいけないの。
二人に憐れまれた視線を送られたのだけは、解せないわ!
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