Summer Cottage(Ⅰ)

一時間後。

ハルクが玄関口に来ていた。しかし、その顔はぶすっとした表情で怒っていた。



「お前、まだ怒ってんの?アリスと一緒に車に乗れなかったこと…」

「…違ェし!」

「そのわりには、不機嫌な顔のまんまじゃん!」


タスクがハルクの頬をつつく。
アガットの車には、タスクと執事のメイズが一緒に乗ることになった。メイズがまだ車の免許を取っていないからである。



「ハルくん、ごめんね。まだおれ、教習所に通い始めたばっかなんすよ」

「それは仕方ねェけど」


先程、他の兄弟達もいたが、少し前にリクとクロッカス、ドラとピアニー達がそれぞれの車で出発して行った。

残っているのは、ハルク達と───



「ライ様と別荘なんて楽しみー!」

「あんまくっつくなよー。オーキッド。暑いんだって」

「また恥ずかしがっちゃって!」


オーキッドがライの腕に抱きついていた。オーキッドの外見だけだと、女の子にも見えてしまうが、彼の性別は男である。そんな二人を見ながら、彼らは話す。



「相変わらずだね。あのライの新しい執事は」

「あー、オーちゃんはライ様にゾッコンっすからね。ライ様に心も体も奪われたとか言ってたっすよ」

「わけわかんねェ…」


オーキッドも年齢的にまだ免許は取っていない。だから、代わりにセージの運転する車で別荘に行くようだ。セージに同情を向ける三人だった…。

そこへアガットの車とセージの車が来たので、それぞれが車に乗り込んだ。助手席にメイズ、その助手席の後ろにタスク、運転席の後ろにはハルクが座った。



出発して、しばらく経った頃、メイズが何かを思い出したかのように話し出した。





「そういえば、一時間前にアンくん達が出発してたっすね」

「俺達とはずらしていたね」

「何でずらしたのか、わかっちゃったんすよね。アンくんの車にスマルトとアリスが乗ってたっす」

「はあああっ!?」


車内で大声を出すハルク。その声の大きさにタスクが耳を塞ぐ。



「ハルク、うるせーんだけど」

「だって、アイツ、車に一緒に乗れよって言っても、“使用人はバスがありますから”って言ってたのに!」

「スマルトさんがバスに酔いやすいから、アンバーの車に乗るとは聞いていたんですけど。アリスさんも乗るとは聞いてなかったですね」

「それはコイツがうるさいからでしょ?このアリスのストーカーが」

「ストーカーじゃねェし!」

「あはは。ターくん、ハッキリ言い過ぎすよ!」

「こら、メイズ!お坊っちゃまは…」

「アガット。早くアンバー達の車に追いついて!」

「いやいや、無理ですよ。お坊っちゃま…」

「アガットなら出来るから!」


ハルクが怒りに燃えていた。もう彼を止める者はいない───。


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