side Agete





車を洗い終えて、廊下を歩く。
アンバーは先程、ボルドーさんに呼び出されてしまったため、いない。

さて、俺はお坊っちゃまのところに行く前に食事しに───



「アガットさん!」

「アリスさん…」


反対側からアリスさんが駆け寄ってきた。珍しく彼女の服が白く汚れていた。掃除でもしていたのだろうか。



「どうかしました?」

「いえ、何かあったわけじゃなくて。あの、お昼はもう食べましたか?」

「まだです」


腕時計を見たら、既に13時を過ぎていた。
車を洗っていたから、全然時間を見ていなかった。もうこんな時間だったんだな…。アンバーと話していたのもあるだろうけど。アイツ、意外にお喋りだし。



「まだならお昼、一緒にどうですか?私達が作ったんですけど」

「アリスさん……達?」

「はい!私とお坊っちゃまで作りました。沢山あるので、是非来てくださると助かります」


食堂に行っても、特に食べたいものはないし。それならアリスさんとお坊っちゃまが作った料理をいただくことにしよう。彼女が一緒なら、味の保証は大丈夫だろう。



「それじゃあ、お言葉に甘えて」

「良かった!ありがとうございます」


そうして、連れて行かれたのは、お坊っちゃまの部屋ではなく、小食堂だった。
ここはあまり使われていない場所だが、掃除だけはやっているので、埃っぽくはない。アリスさんに続いて、中に入ると───



「アガット!」

「お坊っちゃま」


お坊っちゃまがエプロンをつけたまま、たこ焼きを食べていた。口元にソースがついていたから、近くにあったナプキンで拭いてあげた。中学生になっても、こういうところはまだ子供だな…。



「アリスさん、これは一体…」

「お坊っちゃまが夏のお祭りに行ったことないというので、屋台にありそうな食べ物を一緒に作ってたんですよ!」

「ああ、それで…」


だから、お坊っちゃまはエプロンをつけていたのか。でも、外しても良かったんじゃ?やけに真っ白いなとは思っていたけど。おそらく粉をこぼしたんだろうな。



「アガットさん、今用意しますね」

「ありがとうございます」

「飲み物はどうしますか?炭酸系とお茶がありますよ」

「お茶をお願いします」

「わかりました」


そう言って、アリスさんが準備に行ってしまった。それを見送っていると───



「アガット、立ってないで座れば?」

「そうですね」


お坊っちゃまの隣に座る。お坊っちゃまの前に沢山のたこ焼きが置いてあった。でも、よく見ると、少し違うものがあった。



「お坊っちゃま。こっちにあるたこ焼きは、他のたこ焼きと違くないですか?」

「ああ、これは甘いたこ焼きだから」

「甘いたこ焼き??」

「そう。こっちのは生地はホットケーキミックスで作って、たこの代わりに中にはチョコとか入ってんだ」


そうだったんだ。
通りで少し色が違うんだなと思ったんだよな。お坊っちゃまに「食べる?」と聞かれたから、一つだけもらった。意外においしかった。



「そういえば、お坊っちゃま。どうしてこんなことになったんですか?」

「来週の日曜日にコウ達とお祭りに行くんだよ。アリスにお祭りのことを聞いたら、屋台で色んな食べ物が売ってるって聞いてさ。どんなもんがあるのかって尋ねたら、アリスが一緒に作ろうって言い出して、たまには作るのもいいかと思って一緒に作ることにしたんだ。ま、慣れねェことして大変だったけど、楽しかった!」


笑顔でそう答えるお坊っちゃま。
アリスさんと一緒にいられたのもあるんだろうな。



「良かったですね。あれ、食材はどうしたんですか?買い物に行ったんですよね?俺、声かからなかったんですが」

「リク兄の車に乗せてもらったから」


クロッカスか。アイツなら、アリスさんと仲がいいから連れて行ってくれるだろう。



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