side Agete
「アガット。お前のタイプって、どんな娘?」
「え…」
今日は日曜日。
お坊っちゃまも出かける予定はない。天気も良かったから、久々に自分の車を洗っていた。
そこへ暇なのか、アンバーがやって来て、俺は車を洗いながら話をしていたら、冒頭の台詞を尋ねられたわけである。
「タイプ?うーん…」
「そんなに深く考えることか?可愛い娘とか胸が大きい娘とかあんだろ?」
「可愛くて、胸が大きい娘はアンバーの好みだろ?アンバーの歴代の彼女達は、皆そういう娘ばかりだったし」
アンバーは、雑誌のグラビアに載っているような女の子とばかり付き合っていた。
妹のスマルトさんとは、正反対のタイプというか。でも、アンバーもスマルトさんとの約束があると、彼女より妹を優先するんだよな。二人だけの兄妹だからかもしれないけど。
「別にいいだろ!お前の彼女は…………あれ?アガットが今まで付き合った女、タイプがバラバラだよな?」
「そうだっけ?覚えてないんだよね…」
「おいおい。好きで付き合ったんじゃないのか?」
……。
そう言われ、考えてみたが、自分から告白して付き合ったことはない。
裏仕事で情報を引き出すためだけに近づいて、しばらく関係を持っただけが多い。一度だけ街を歩いていたら、連絡先を渡されて、付き合ったこともあるが、仕事やお坊っちゃまを優先にしていたら、フラれた。フラれても、別れても悲しんだりしたこともないし。あ、こんなもんか…って思うだけ。
「……そう言われるとない」
「マジ?」
「うん。相手の名前も顔も、覚えてないし。思い出もない…」
「それ、ひどくね?本当に好きだったのか?」
そう言われると、俺は好きではなかったのかもしれない。ただ惰性で付き合っていただけ。だから、思い出がないんだ。
俺自身、本来のこの名前を教えていないし。裏仕事の時は別の名前を使っていたから、無意識にその名前を口にしていた。髪も目の色も変えていたし。きっと俺の姿のまま、誰かと付き合ったことはない。専属執事は全員が本来の姿で外を歩くなって言われてるし。
今まで一度も本気で誰かと付き合いたいとか好きになったこともないしな。
それに今はお坊っちゃまや弟達のことだけでいい。
「お前のそういうところはカルロ様と似てるな」
「カルロ様と?どこが??」
「女に執着しないとこ。すげー似てるわ」
そう言われてもな。いまいちピンとこない。アンバーはカルロ様の専属執事だから、色々知っているんだろう。
「あの人も執着しないんだよ。だから、後腐れのない女ばっか選んでる。たまに相手が本気になっちゃう時もあるけど、そこはアメジスト様が金で解決しちゃう。ま、カルロ様の場合、過去の例の彼女のことがあったせいもあんだろうけどさ。そこがお前とは違うな」
「あー、セピア様か」
カルロ様がよく家に連れて来てたっけ。俺は挨拶くらいしかしたことないけど。確か、アメジスト様に反対されて引き離されたって聞いた。部屋からも出なくなって、しばらくしてからやっと出てきたんだけど。
でも、その後からだよな。カルロ様があまり屋敷に帰って来なくなったのは…。あれは反抗期だったのかもな。
今は帰ってくるようになったけど、たまに朝帰りしてきたりもする。
「でも、お前さ、アリスとは仲良いよな?」
「アリスさん?ああ、俺達はお坊っちゃまに仕えてるからね」
「それだけじゃねーよ。お前ら、結構距離が近い時あるぜ。ハルク様がたまにムッとしてること見かけるし。流石にお前には攻撃したりはしないけど」
「お坊っちゃまが?」
お坊っちゃまはアリスさんが好きだからな。今もきっと離れずに傍にいるはずだ。
「アリスさんは、リク様が好きなんだろ?俺のことは全然意識してないと思うよ。俺も意識したことないし。距離が近いと言われても…」
「無自覚か。アリスもそう思ってそうだし、お前ら似てるかもな。でも、今は意識しなくても、あるキッカケで意識しちまうかもしれないぜ?」
「えー、ないない!」
「わかんねーじゃん。もしかしたら、将来、恋人になってるかもしんねーし」
そんな未来はない。流石にお坊っちゃまが好きな相手を奪うことはしない。近くで見ているんだから。
だけど、お坊っちゃまが彼女を好きでも、アメジスト様が一緒にさせることはしないのはわかってる。全員アメジスト様が用意した御令嬢と結婚させるはずだ。それだけが少しかわいそうだ。
好きな相手と一緒になれないなんて…。
それにアメジスト様、アリスさんに対して、何かあるんだよな。誰かを重ねているのか、すごい顔で睨みつけてるのを何度か見たことがあったし。
アリスさんも以前に「一度会ったことあるんですけど、当主に嫌われてるみたいなんです。お坊っちゃまと何度か問題起こしているせいですかね」と言っていた。
アリスさんとお坊っちゃまは、よく騒動を起こしているけど、アメジスト様はそれくらいで怒るような人ではない。
裏切った人間には容赦はしないけど。
「…ガット、アガット!」
「ん?どうかした?」
「急に黙り込んだから、声をかけてたんだよ!」
「そうなんだ。ごめん」
その後も車を洗い終えるまで、アンバーと話していた。
.
「え…」
今日は日曜日。
お坊っちゃまも出かける予定はない。天気も良かったから、久々に自分の車を洗っていた。
そこへ暇なのか、アンバーがやって来て、俺は車を洗いながら話をしていたら、冒頭の台詞を尋ねられたわけである。
「タイプ?うーん…」
「そんなに深く考えることか?可愛い娘とか胸が大きい娘とかあんだろ?」
「可愛くて、胸が大きい娘はアンバーの好みだろ?アンバーの歴代の彼女達は、皆そういう娘ばかりだったし」
アンバーは、雑誌のグラビアに載っているような女の子とばかり付き合っていた。
妹のスマルトさんとは、正反対のタイプというか。でも、アンバーもスマルトさんとの約束があると、彼女より妹を優先するんだよな。二人だけの兄妹だからかもしれないけど。
「別にいいだろ!お前の彼女は…………あれ?アガットが今まで付き合った女、タイプがバラバラだよな?」
「そうだっけ?覚えてないんだよね…」
「おいおい。好きで付き合ったんじゃないのか?」
……。
そう言われ、考えてみたが、自分から告白して付き合ったことはない。
裏仕事で情報を引き出すためだけに近づいて、しばらく関係を持っただけが多い。一度だけ街を歩いていたら、連絡先を渡されて、付き合ったこともあるが、仕事やお坊っちゃまを優先にしていたら、フラれた。フラれても、別れても悲しんだりしたこともないし。あ、こんなもんか…って思うだけ。
「……そう言われるとない」
「マジ?」
「うん。相手の名前も顔も、覚えてないし。思い出もない…」
「それ、ひどくね?本当に好きだったのか?」
そう言われると、俺は好きではなかったのかもしれない。ただ惰性で付き合っていただけ。だから、思い出がないんだ。
俺自身、本来のこの名前を教えていないし。裏仕事の時は別の名前を使っていたから、無意識にその名前を口にしていた。髪も目の色も変えていたし。きっと俺の姿のまま、誰かと付き合ったことはない。専属執事は全員が本来の姿で外を歩くなって言われてるし。
今まで一度も本気で誰かと付き合いたいとか好きになったこともないしな。
それに今はお坊っちゃまや弟達のことだけでいい。
「お前のそういうところはカルロ様と似てるな」
「カルロ様と?どこが??」
「女に執着しないとこ。すげー似てるわ」
そう言われてもな。いまいちピンとこない。アンバーはカルロ様の専属執事だから、色々知っているんだろう。
「あの人も執着しないんだよ。だから、後腐れのない女ばっか選んでる。たまに相手が本気になっちゃう時もあるけど、そこはアメジスト様が金で解決しちゃう。ま、カルロ様の場合、過去の例の彼女のことがあったせいもあんだろうけどさ。そこがお前とは違うな」
「あー、セピア様か」
カルロ様がよく家に連れて来てたっけ。俺は挨拶くらいしかしたことないけど。確か、アメジスト様に反対されて引き離されたって聞いた。部屋からも出なくなって、しばらくしてからやっと出てきたんだけど。
でも、その後からだよな。カルロ様があまり屋敷に帰って来なくなったのは…。あれは反抗期だったのかもな。
今は帰ってくるようになったけど、たまに朝帰りしてきたりもする。
「でも、お前さ、アリスとは仲良いよな?」
「アリスさん?ああ、俺達はお坊っちゃまに仕えてるからね」
「それだけじゃねーよ。お前ら、結構距離が近い時あるぜ。ハルク様がたまにムッとしてること見かけるし。流石にお前には攻撃したりはしないけど」
「お坊っちゃまが?」
お坊っちゃまはアリスさんが好きだからな。今もきっと離れずに傍にいるはずだ。
「アリスさんは、リク様が好きなんだろ?俺のことは全然意識してないと思うよ。俺も意識したことないし。距離が近いと言われても…」
「無自覚か。アリスもそう思ってそうだし、お前ら似てるかもな。でも、今は意識しなくても、あるキッカケで意識しちまうかもしれないぜ?」
「えー、ないない!」
「わかんねーじゃん。もしかしたら、将来、恋人になってるかもしんねーし」
そんな未来はない。流石にお坊っちゃまが好きな相手を奪うことはしない。近くで見ているんだから。
だけど、お坊っちゃまが彼女を好きでも、アメジスト様が一緒にさせることはしないのはわかってる。全員アメジスト様が用意した御令嬢と結婚させるはずだ。それだけが少しかわいそうだ。
好きな相手と一緒になれないなんて…。
それにアメジスト様、アリスさんに対して、何かあるんだよな。誰かを重ねているのか、すごい顔で睨みつけてるのを何度か見たことがあったし。
アリスさんも以前に「一度会ったことあるんですけど、当主に嫌われてるみたいなんです。お坊っちゃまと何度か問題起こしているせいですかね」と言っていた。
アリスさんとお坊っちゃまは、よく騒動を起こしているけど、アメジスト様はそれくらいで怒るような人ではない。
裏切った人間には容赦はしないけど。
「…ガット、アガット!」
「ん?どうかした?」
「急に黙り込んだから、声をかけてたんだよ!」
「そうなんだ。ごめん」
その後も車を洗い終えるまで、アンバーと話していた。
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