Summer Story(前)




中に入ると、お坊っちゃまがピッタリと私にくっついてきた。怖いのはわかるけど、ちょっとくっつきすぎて、これじゃあ歩けない。



「お坊っちゃま。歩きづらいので、もう少し離れてくれませんか?」

「そんなこと言って、オレを置いてくつもりだろ!」

「置いていきませんよ。このままだと歩きづらいんですよ」


なるほど。
それで置いて行かれたのか。タスク様に…。

だが、いくら言ってもお坊っちゃまは離れてくれない。だから、私は別の提案をした。



「わかりました。手を繋ぎましょう?」

「手?」


提灯を持ってない方の手をお坊っちゃまに差し出す。お坊っちゃまは私の手をジッと見る。



「はい。私が先を歩きますから、お坊っちゃまは後についてくればいいですよ」

「後ろじゃなくて、隣歩く」

「怖いんでしょ?無理しなくても」

「…なヤツの後ろにいる方が、かっこつかねェし」


かっこつかない?
ああ、将来好きな女の子と来た時に笑われちゃうからか。カッコ悪いところは見せたくないんだろう。可愛らしいところがあるんだな。



「ふふっ、わかりました」

「……っ」


手を繋いで、お化け屋敷の中を歩く。
結構、雰囲気があるな。生温かい風も吹いてるし。BGMもいい感じに流れてるし。

この提灯がないと、本当に真っ暗だ。提灯あっても、少し先しか見えないけど、それも兼ねているのかもしれない。

カップルで入ったら、ここぞとばかりに密着出来るだろう。


さて、お坊っちゃまですが、暗くて怖いせいか、お坊っちゃまは私の手を離すまいとギュッと掴んでおります。普通は男女が反対なんだよね?



「うわあああ!」

「!!ど、どうしました?」

「今、オレの顔に何か当たった!」

「え?……ああ。コンニャクですね」

「コンニャク?」


持っていた提灯を近づけてみれば、コンニャクがぶら下がっていた。お化け屋敷ではよくあるわね。



「ふざけやがって!」

「ほら、お坊っちゃま。先に進みますよ!」

「あ、ああ…っ」


その後も私よりもお坊っちゃまに仕掛けが集中し、その度にお坊っちゃまが叫んでいた。これは狙われたな…。驚かし甲斐があるもんね。ここまで叫んでくれたら。お化け屋敷はストレス発散にもなるらしいから。お坊っちゃまは反対にストレスたまっちゃったのか、すごい不機嫌だけど。



「もう出口はまだかよ!」

「このお化け屋敷、思ったより広いですよね。前の人達とも会わないですし。悲鳴もお坊っちゃまの声しか聞こえませんしね」

「悪かったな!」

「まあまあ。ここを出たら、アイスでも食べましょう!」

「……食べる」


こういう時は素直なのよね、お坊っちゃま。
さて、そろそろメインとなる仕掛けが来てもおかしくないわよね。

そう思いながら、歩いて行くと、微かな灯りの下で誰かがこちらに背中を向けながら立っていた。腰まである長い黒髪の白いワンピースを来た女の人。きっとその前を通らないと先に進めないが、通った瞬間に驚かしてくるに違いない。お坊っちゃまにも見えているのだろう。私の腕にしがみついていたから。



「アリス、早く通ろうぜ!」

「わかりました」


お坊っちゃまが私にしがみつきながら、早歩きで通ろうとする。その女の人の前を通り過ぎようとした時、案の定、こちらに振り向いた。



「私を、私を置いて行かないで~」


真っ白い顔で不気味な顔の女にお坊っちゃまが驚いて、大きな声で叫んだ。



「うわああああああああああああ!」

「ちょっ…お坊っちゃま!?」


私の腕を掴んで、お坊っちゃまが走り出す。早い!早い。そんなに早く走ったら、私の足が追いつかないから!



「ヤダ!もう嫌だ!早く出てェよ!!」

「お坊っちゃま、落ちついてください!こんな暗闇で走ると危ないですから!……きゃあ!」


その時、私は何かに足を取られ、体勢を崩し、お坊っちゃまを巻き込んで転んだ。転んだ拍子に提灯は落としてしまった。



「…痛たた。お坊っちゃま、大丈夫ですか?」

「……平気。……ん?何か柔らかい??」

「なら、良かっ……ん?」


全然良くなかった。
お坊っちゃまの手が私の胸を掴んでいたのだ。



「ちょっと!どこを触ってるんですか!?」

「わざとじゃねェって!暗いから見えなかったんだよ!」

「確かに暗いですけど、いつまで触ってるんですか!?早く離して!!」


私に言われて、お坊っちゃまは私の胸から手を外した。そして、頭を下げてきた。



「……悪い」

「いいですよ。先に転んだのは私ですから」

「違ェよ。オレが走り出したのが悪かったんだし。お前は悪くねェから」


提灯を拾って、再び歩き始めた。
それからお化け屋敷の出口にたどりついて、提灯を箱に戻して、ようやく外に出ることが出来た。ずっと暗いところにいたから、眩しい。外の明るさに目をこらえながら、隣を見た。

すると、お坊っちゃまは私と目が合うと、何故か赤い顔をしていた。



「どうかしました?」

「…な、んでもねェ!」


目を逸らされた。やっぱり気にしてるのかな。
お化け屋敷で沢山叫んでいたしね。別に怖いのが苦手でも私は気にしないのに。
人間なんだから、苦手なものの一つや二つくらいあるんだから。



「さて。約束通り、アイスでも食べに行きましょうか!」

「ああ」


お化け屋敷を後にして、私達はアイスを食べに行った。
アイスを食べてる時には、お坊っちゃまはもういつも通りに戻っていたけど。

その後は車にいたアガットさんにもアイスを買って、渡した。そこでアガットさんにお化け屋敷やホラー映画が苦手なことを聞いたが、さっきお坊っちゃまから聞いた通りだった。



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